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【極超短編小説】裏:輝きの中へ君は行く。そして僕は夢を見る②

 藍色に近いてらてらした濃い青色のドレスは、背中と胸が大きく切れ込んで、行儀の良い上品なパーティードレスとは言えなかった。彼女はひときわ目を引いた。というより周りからは浮いていた。

 どんな目的で誰が主催したのかさえ、そこに集まったほとんどの者たちが知らないような、そんなコンパで僕は彼女と出会った。洒落た店を貸し切った会場には人が溢れ、それなりに盛り上がっていたように思う。

 その当時、僕は大学生でコンパや飲み会、イベントなんかにやたらと顔を出していた。もちろん声を掛けられたらどこにでも行った。とにかくいつも何かに期待していて、得体のしれない何かに急かされながら、何かを探していた。
 そして期待すればするほど、探せば探すほど、理由の分からない苛立ちや、嫌悪感が心の中に滲んだ。いや、理由は分かっていたけど面と向き合えなかった。
 フォーマル、清潔感、シンプル、清楚、笑顔が必須の世界では、つまるところ周りの人間に好印象を持って貰うことに、あえて言えばそれだけに腐心する。入り浸るようにそんな世界を徘徊する僕も、少しづつ周りに染まっていく。苛立ちや嫌悪感の理由と向き合えなかったのは、僕自身が退屈極まりない人間になりつつあったからだ。

 そんな中、僕は彼女を見つけた。そうだ、ついに見つけてしまった。僕が求めていたのは、まさに彼女の存在だと一目見ただけで確信した。僕の視線は釘付けになった。そう、虜になったと言っていい。
 僕の様子に気づいたのだろう。壁に背中を持たれかけた彼女が振り向いた。そしてじっと僕に視線を合わせ、左手に持ったグラスを目の高さに掲げて少し微笑んだように見えた。

(つづく)


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