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実行プランを決定する資本政策の実務

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資本政策は会社の経営目標や株式上場スケジュールに密接に関わります。この点で非常に重要なのは、資本政策は単なる「手段」であり、その「目的」は会社の長期的な成長と持続可能性にあるという認識です。


資本政策の立案時に考慮すべき4つのポイント


ポイント1 会社の成熟度

会社の成熟度によって資本政策の重点が変わってくることは非常に一般的な現象です。スタートアップフェーズの企業では、ビジネスモデルがまだ確立していない、または急速な成長が求められる段階であるため、主に成長資金の調達が最優先課題となります。この段階では、ベンチャーキャピタルからの資金調達や、初期の株式発行、さらには借入金などで資本を集めることが一般的です。

一方で、企業が成熟し、安定したキャッシュフローが見込めるようになると、資本政策の焦点はシフトします。この段階では、資本コストを最適化するための効率的な資本構造の確立が重要となることが多いです。具体的には、適切なレバレッジ(負債比率)を維持しながら、最も低いコストで資本を調達する方法を探ります。また、株主還元政策、例えば配当や株式買い戻しが、より注目されるようになる場合もあります。

このように、企業が成長と成熟を遂げる過程で資本政策の目的や手段が変化するのは自然な流れであり、その都度適切な戦略とタクティックを練ることが求められます。


ポイント2 資本コスト

資本コストは企業が資金を調達する際の「価格」であり、これは企業の財務戦略において非常に重要な概念です。資本コストは、株式資本コストと負債資本コストを適切に組み合わせた加重平均資本コスト(WACC:Weighted Average Cost of Capital)として表現されることが多いです。

企業は投資活動を行う際、そのリターンが資本コストを超えるかどうかを厳密に評価する必要があります。理由は簡単ですが非常に重要で、資本コストを超えるリターンを生む投資をすることで、初めて企業価値を高めることができるからです。逆に言えば、資本コストを下回るリターンしか生まない投資は、企業価値を損なう可能性が高いです。

例えば、資本コストが年率10%であるとするならば、その企業は年率10%以上のリターンを期待できるプロジェクトに投資すべきです。それ以下のリターンのプロジェクトに投資してしまうと、資本を効率よく使っていないと評価される可能性が高く、長期的には株主価値を損なうことになります。

したがって、企業経営者や財務担当者は、投資するプロジェクトや事業のリターンが資本コストを上回るかどうかを常に考慮しながら、資本配分を行っていく必要があります。これは、企業が持続的に成長し、株主価値を最大化するための不可欠なプロセスと言えるでしょう。


ポイント3 リスク許容度

リスク許容度は、経営者や株主がどれだけのリスクを取ることができる、または取る意志があるのかを示す指標として非常に重要です。この概念は、企業の投資戦略や資本構造、さらには事業領域の拡大・縮小に至るまで、多くの経営決定に影響を与えます。

高いリスク許容度を持つ企業や経営者は、より積極的な投資や事業展開を行い、高いリターンを求める傾向があります。一方で、低いリスク許容度の場合は、保守的な資本政策や事業戦略が採られることが一般的です。このような違いは、企業の成長フェーズや業界環境、経営陣の方針などによっても大きく変わることがあります。

リスク許容度が高いと評価される企業が必ずしも成功するわけではなく、リスクを取りすぎて失敗する例も少なくありません。逆に、リスクを極力避けて安全な選択をすることで、成長のチャンスを逃す可能性もあります。そのため、重要なのは「どれだけのリスクを許容するか」ではなく、「どのようなリスクをどの程度許容するか」を明確にし、それに基づいて経営戦略を練ることです。

また、経営者だけでなく、株主やその他のステークホルダーのリスク許容度も考慮に入れることが望ましいです。特に、多様な株主を持つ公開企業の場合、株主のリスク許容度は一様ではないことが多いため、その平均的なリスク許容度を読み取り、経営方針に反映させるスキルも重要です。

総じて、リスク許容度は企業の戦略的な方向性を決定するうえで、欠かせない要素といえるでしょう。企業が目指すべきは、自身のリスク許容度に合った、かつ持続可能な成長をもたらす経営戦略の実行です。


ポイント4 時系列

短期的なキャッシュフローの確保と中〜長期での企業価値の最大化は、時に矛盾する目標となることがありますが、これらを巧妙に両立させることが、持続可能な企業経営の鍵です。

短期的な視点で見れば、キャッシュフローの確保は日々の運転資本の管理、費用削減、売上向上などが主要な手段となります。これは企業が健全な経営を維持し、その日その日の業務をスムーズに行うために不可欠です。しかしこれだけを追求すると、研究開発投資や市場拡大、人材育成といった中〜長期的に企業価値を高める要素が犠牲になる可能性があります。

一方で、中〜長期的な企業価値の最大化を追求する場合、短期的なキャッシュフローが圧迫されるリスクがあります。例えば、新製品の研究開発や市場拡大に伴う初期投資は、短期的にはキャッシュアウトを増加させることになりますが、これが成功すれば中〜長期での高いリターンが期待できます。

このような短期と長期の目標の狭間で、経営者が持つべきスキルは、戦略的なタイミングとバランス感覚です。短期的なキャッシュフローが極端に悪化すると、企業の存続自体が危ぶまれる場合もありますので、一定レベルのキャッシュフローは確保しつつ、将来の成長と企業価値向上に投資する計画を練る必要があります。

具体的には、例えば、季節的な売上高が見込まれるタイミングで積極的な在庫投資を行い、短期的なキャッシュフローを確保する一方で、その資金を用いて中長期的な研究開発やマーケティング活動に振り向けるといった方法が考えられます。

また、フレキシブルな資本政策を採ることで、必要なタイミングで外部資金を調達することも一つの手段です。短期的なキャッシュフローの確保と中〜長期的な成長戦略は矛盾することも多いですが、その両立が求められるのが経営の実務であり、それを可能にするのが資本政策と経営戦略の妥当な組み合わせです。

ゴールイメージと実行プラン



明確な目標設定

上場を目指す際の明確な目標設定は、企業が成功するための非常に重要なステップです。この目標設定がしっかりと行われているかどうかは、上場後の企業価値や株価にも直接影響を与えます。

一つの具体的な手法として、時価総額の目標を設定することがあります。この時価総額の目標は、企業が上場するタイミングで達成したいと考える企業価値を表します。この数値が明確であれば、それに向けて必要な資本政策や業績目標、さらには組織の成長戦略がより明瞭になります。

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