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【農業小説】第16話 土地との約束|農家の食卓 ~ Farm to table ~

新たなビジネスモデルの成功と持続可能な農業の実践に心からの感謝を感じていたある日、私はオーガニック農法に関する新しい研究データに出会った。

その研究によれば、ある条件下では、有機栽培もまた、環境への負荷が高まる可能性があると指摘されていた。例えば、特定の病気や害虫を対処するための有機対応が、時には化学的対応よりも環境への負担が大きいとの指摘があった。

「これはどういうことだ?」と私は驚き、さらに深くその研究を読み込んだ。そして、事実、完全なオーガニック栽培が全てのケースで環境に優しいわけではないことを理解した。その知識が、私の心の中で新たな疑問を生んだ。

私はタイの農業経営者にこの疑問を投げかけることに決めた。「実際には、有機栽培が環境にどれほどの負荷を与えているのか、私たちは知らないのではないか?」と。

彼からの返信は、私の期待を裏切らなかった。「実際のところ、オーガニック農法も一概に環境に優しいわけではありません。しかし、私たちが目指すのは、環境との調和を図りながら最善の方法を模索することです。有機栽培というのは、その一つの方法論に過ぎません。」

この言葉を受けて、私は新たな視点で農業経営に取り組むことを決意した。有機栽培のメリットとデメリットをしっかりと理解し、その上で最も環境にやさしく、そして経済的にも持続可能な方法を追求する。それは、単なる方法論に固執するのではなく、真の持続可能性を目指すための挑戦だった。

私たちの農場は、新たな実験の場となった。化学肥料や農薬の使用を極力減らしながら、土地や気候に合った栽培方法を模索し、環境との調和を図る。その過程で、多くの試行錯誤が繰り返された。

結果として、完全なオーガニック栽培とは言えないかもしれないが、環境への負荷を最小限に抑えた、新しい農業モデルを確立することができた。私たちの商品は、これまでのオーガニックのブランド力を背景に、さらにその持続可能性を強調して市場に出されることとなった。

この新たな挑戦は、再び投資家や顧客からの賞賛を受けることとなった。そして、私は改めて、農業経営とは、常に変化と挑戦の連続であり、その中で最善の方法を追求することの大切さを実感したのだった。

オーガニック、すなわち「有機」という言葉の背景には、深い意味が隠されている。その意味を理解することで、農業の本質についても考える機会を得た。

「有機」という言葉は、生命を持つ存在、生物が持っている特性や機能を指す。有機農法とは、化学合成農薬や化学合成肥料を使わない、自然の循環を大切にした農法を意味する。しかし、私は「有機」という言葉の根本的な部分に疑問を感じ始めていた。有機物を分解する、とはどういうことなのか?それは、自然のサイクルの中で、死んだ植物や動物が分解され、新しい生命のための養分となるという、生命の循環を指すのではないか。

私は、オーガニック農法をただの方法論として捉えてしまっていたが、それは実は、土地と生命、そして人々の関係を尊重し、持続的な農業を目指す哲学そのものだった。そして、その哲学の中心には、食べる人と作る人の信頼関係がある。私たちが生産するものが、消費者の体に入る。それは、私たち生産者と消費者との間に深い絆と責任を持つことを意味する。

この新しい気づきを胸に、私は再び農場を見つめ直すことになった。化学肥料や農薬の使用を控えるだけでなく、土地の持つ生命力を最大限に活かし、持続可能な農業を実践することを目指した。そのためには、土の健康を保つこと、微生物や虫たちとの共生を考えること、そして何よりも、食べる人との信頼関係を築くことが最も重要であると痛感した。

オーガニック農法は、私たちに真の持続可能性を求める挑戦を投げかけてくる。それは、ただの方法論やブランドではなく、人と自然、そして未来の世代との関係を考える哲学なのだと、私は確信するようになったのだった。

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