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【読書感想】さいはての家/彩瀬まる

彩瀬まるの本で初めて読んだのは『やがて海へと届く』。他にも『くちなし』『朝が来るまでそばにいる』を読んできた。そして今回手に取ったのは『さいはての家』。2020年1月刊行。

5話からなる短編集だが、舞台は同じ古い借家である。住民のこの家に来た目的はそれぞれだが、同じようにこの古い家の「住民」になっていく。そして自分自身の光と影を覗くことになる。

私はこの本を読み、読書の素晴らしさを再確認できた。言葉にできない感情、まだ感じたことのない気持ち、そして背負ったことのない責任も全て追体験することができた。特に4話の「ままごと」と5話の「かざあな」がそうである。私の家庭、性別、年齢では感じない違和感、嫌悪感が、言葉にすることのできない主人公の気持ちとリンクしてありのまま感じられたことで、別の人生を過ごせた気がする。

ふと、人の不安に寄り添うことのできる人間になりたいと思った。このような家があればいいが、実際はこんな救いを得られる人は少ないであろう。人を救うことは難しいが、ふとした言葉で救われる人がいることも事実だ。私も何度も救われてきた。この本を通して様々な人生を体験したからこそ共感できる感情が確かにあると信じている。私自身も読んでいくことで、この家に住むことができた気がする。

人間の内なる光と影が明らかに浮かび上がっていくこの家。ここで登場人物たちが選択した未来もまた、この家は包みこんでいるのだろうと思う。

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