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強面/こわもて 第7章 最終章

別れ! 

出港して5日目、晴天にも恵まれ、乗組員は想像以上に皆優秀であった。ヒマが苦手のジロさんが、甲板を1人でウロウロしている。日本までの船旅は長い、話もあるし、次の寄港地で、村上と片桐とジロさんを誘って、4人で飲みに出ようかな、ジロさんにだけ、まだ言ってない大事な話があるんだ。

翌日の寄港地で、大量の食料を積み込む予定なので、その夜は、トースト、チーズ、ハムで簡単な夕食にした。その時、珍しく俺のスマホに着信があった。見ると、母親からだ、文面・リュウ 今すぐ電話よこしな、以上! 嫌な予感しかしない、俺はジロさんに文面を見せて、すぐに電話した。

「もしもし、お袋? どうした?」「ああ、隆一御免なさいね、お父さんがね、毎日金策に必死になっていて、可哀想だから、この家、アンタの実家を売るからね、いいわね?」「エエッ! 取り敢えず今、オンラインで振り込むから、いくら必要なんだい?」「500万よ、アンタ大丈夫なの?」「ああ、大丈夫だよ、ああ 今振り込んだよ、お袋の口座だからね」「エエッなんか! すごいのね、お父さんに話して来るわ アア、隆一ありがと」

電話を切ると目の前に、真ん丸目玉のジロさんの顔!「エッ何!?今振り込んだの?そんなこと出来るんだぁ」なんて言ってる。「そうだよ、ジロさん、俺とジロさんだけ明日、飛行機でさ、先に帰ろう、何かあったんだよ、親父の漁協で」「この船はどうするんだよ、リュウちゃんが艦長なんだろ」「その事なら大丈夫、村上が代理することになっているよ、俺は全く心配してないよ」

片桐が「館長!タクシーと航空券の手配済みました。5時間後、着岸前にボートで出て下さい、8:00タクシーが来ます、準備してください」と言った。皆んなに向かい、立ち上がって頷くと、オウッと返事だ。申し渡し完了である。

片桐は、2人で話が出来る席を取ってくれていた。ジロさんは心配で無口になっている。俺は、ジロさんに、心に決めていたことを告げることにした。

「ジロさん、俺、ジロさんに港に帰って欲しいと思っているんだ。」と言うと、「俺も、リュウちゃんの立派なメンバーを見て、出番ねえなって思ったさ」と、とんでもないことを言う、「うん、そうだね、そんなことよりジロさんは、酒飲むと、ずーっと漁協と親父の話ばかりしてた事に、気付いて無いでしょ、ジロさんさ、自分に嘘はつけないよ、俺、ジロさんを親父に返す事にしたんだ。」「でも俺はクビになったんだぜ」「俺が話す!任せろ」ジロさんは、長い沈黙の後で「ごめんな」と言った。

実家に着くとお袋が、電話して1日半と言う速さに、びっくりしていた。「アンタ日本にいたの?」だって、「親父の一大事だから、空飛んで来た」と告げた。親父は人周り縮んで見えた。ジロさんが親父を揺さぶって「社長!何があったんだよ、話してくれよ」と言うと、親父が話してくれた。

ある日、知らない電話番号から電話が来た。ウチで発行した小切手を持っている。社判も取締り判も押してある。金額が白紙の物だ。幾らなら払える?と、こんなことを言って来た。親父は、そんな小切手は発行していないと怒鳴って、電話を切り、小切手帳を確認すると、4枚無い!毎月の支払いで使用しているので、銀行に止めてもらう事も出来ない、翌日、例の奴からまた電話が来た。

奴は「おう、社長昨日ぶりです、社長が中々電話くれないから、500万で記入しちゃいました。銀行には持って行って無いですよ、500万持って来てくださいよ、期限は、俺は優しいから10日あげます。社長とは長い付き合いになりそうですから、ぜひ事務所にいらしてくださいよ、お待ちしてます」と言って来たそうです。これを聞いたお袋が、そうだ!家売ろう、と思って、一応、総領息子の俺に電話して来たのだった。

親父は手ぶらとはいかないが、少額を用意して、1人で奴らのアジトへ向かおうとしていました。事務所を叩き壊し、小切手を取り戻そうと思ったそうです。

現金を持って一緒に行くと言う漁師とお袋、1人で行くと言う親父、大喧嘩中に俺とジロさん到着!と言うわけでした。

ジロさんの「黙れ!」の一括でシーンとする。ジロさんは続ける。アジトには俺とリュウと社長で行く、問題はその前だ。小切手がどうして奴の手に有るのかと言うことだ。先ず事務所の形態からして、盗みに入るのは不可能だ。それに会社の特に経理のある場所が、無人になるなどあり得ない、だとすると、社内の誰かが奴に渡したとしか思えない、社内で最近休んでいる奴は居ないか、最近やめたやつでもいい、心当たりはないか?

お袋が「経理部主任の山本さんが今週初めから1週間、お婆様の葬儀でお休みを取っているわ」と言う、親父と一緒に山本さんの机を開けると、既にそこには彼の私物は一切無かった。葬儀中に悪いと思って連絡しなかったが、彼のスマホに電話をかける。「この電話は使われておりません」決まりである。

3人で近場の街にある、指定場所へ行った。敷地面積の小ぶりな6階建てビルの6階、ドアのガラスに◯◯ファイナンスと書いたコピー用紙が貼ってある。ノックして海宝(かいほう)だと名乗ると、ドアが開いた。すぐ閉じた、中で騒いでいる。「社長!凄くデッカイのが居るんですけど」なんて声が裏返っている。ジロさんがジェスチャーで蹴れって言うから、思いっきりドアを蹴ったら、外れちゃった。親父とジロさんが「初めまして」なんて言ってるが、俺は仕方なくドアの代わりに立ってる事にした、誰も外に出られなくなった。10人程の人が居たけど、1人も文句は行って来なかった。マア、すぐに警察も来るしね、結果、小切手4枚無事回収、やっぱり山本が売りに来ていた。警察官がさ、俺の面相に反応して5人で取り押さえようとしたんだぜ、びっくりした。親父が説明してくれたけど。

事態収集に数日かかった。山本には借金があった様だ、それにしても海宝の小切手4枚で50万は安く売った物だ。今、久しぶりに親父達と酒盛りしている。

親父は言った。「織部君が戻ってくれて本当に嬉しい、でも、自分は上に立てる人間じゃなかった。もし許されるなら、綾部君、君が社長となってくれ」ジロさんは焦って否定している。俺も何か言おうと持っていたら、お袋のカウンターパンチが来た。「アンタ(親父のこと)、勘違いするんじゃ無いよ、皆んなアンタを担ぐと言ってるんだ。アンタは神輿なんだよ、ジロさんは神輿の一番手前の担ぎ手だ。それは、ジロさんの希望なんだ。神輿は、担がれてこそ神輿だ、大人しく担がれていろ!」そうだそうだと漁協がまとまる。なぜか、お袋が少しだけ美人に見えた。

皆が忙しく働く中、バス停まで、ジロさんが見送りに来た。俺が「ジロさん、親父とお袋を宜しくな、また帰って来るから、しばしの別れ、さよなら」と言って手を差し出すと、ジロさんは俺の手をギュッと握って「帰ってこようとか思うな!来なくて良い、リュウは、デッカイ夢を追え!他のことは考えるな、ありがとう、さよなら」と言った。ジロさんは見えなくなるまで、バス停に立ってた。

おしまい

おまけ

俺達は、地球表面に蠢く単素体ユニットだ。宇宙から来る物にも、地球内部から来る物にも、まだ何の影響も与えられ無い、人間が影響を受けるのは人類だけである。地球はびくともしないのだ。俺達が永遠に継続するために、俺はこの地球内部調査を進めたい、目標は深海生物ではなく、深海の地形である。あらゆる機材を投入し、深海地形地図を作成する。俺はこのことを、人類トワの足掛かりにしたい、以上!

海宝 隆一

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