見出し画像

この駅で再起動-1

オムライス2つ

駅前喫茶スワンの店主、日下部(くさかべ)と申します。毎朝4時に、駅前の掃除をするのが日課です。田舎の一番列車は早朝ですから、私がこの駅に来た頃には、無人駅で、電気屋の奥さんが必要最低限の駅の仕事をしていたのですが、今では駅員さんが3人もいます。コンビニも出来ました。駅近のアパートだって3棟もあります。まあそれだけなんですけどね、その日最初の客が。駅の植え込みの暗がりに、女性が2人座っているよと、そんなホラーなことを言うものだから、すぐに行ってみたのですが、誰も居ませんでした。そのうち常連も次々と来店して、一段落したのはランチタイムも過ぎた午後の2時頃でした。中学生ぐらいの女の子と、小学生ぐらいの女の子が、来店しました。暫くモジモジとした挙句、520円を見せて、これで足りる物を注文したいと言う、では、オムライス2つで如何ですか?と言うと、2人の顔がパッと明るくなった。ジュースとオムライスをお持ちすると、年上の方が、ジュースなんて頼んでいません!と声を上げた、アッ!セットです。と言って戻る途中で、常連2人がこちらに顔をむけて来て、寄り目を見せるが、やり返そうとして、自分が寄り目出来ない事を知り、放っておいた。2人は食べ終わった様で、小さい方は窓際の壁にもたれてウトウトしている。大きい方(姉だろうか?)は、窓の外を見て、何か考え事をしている、2人の少女はボロボロで、とても頼りなく見えた。

常連客の源さんが、レジでヒソヒソと「チョット律子さんに声かけて行くわ」と言うので、手を合わせて無言のお願いをした。律子さんは駅前の電気屋の奥さんで、普段は大きな農家を経営している、時々亭主の電気屋を手伝ってもいる。今日は律子さんが、電気屋に居る日だ。何としても、この心許ない二人組を、このまま帰すわけにはいかない、放って置けないよ、大人としてね、おっとチビの方が起きたようだ。テーブルに食器を下げに行く、「お下げしますね、あれ、疲れちゃったのかな?これ、サービスのお茶です、どーぞ」と、熱いほうじ茶を置いて来た。2人とも、フーフーと熱々のほうじ茶と格闘している。フフッ可愛い!やっぱり今朝、駅横の暗がりでしゃがんでいたのは彼女達だな、よく見ると泥があちこちに着いているし、そしてやっと、カラン「コンニチハー!マスター、クッキー焼いてみたの、亭主に拒絶されたんだけど、食べてみてくれない?」以下俺の心の声です(アッ、来てくれた良かった〜、エッあんた料理はダメなんでしょ?あぁクッキー真っ黒だ!)、店内が固まる中、律子さんは黒いクッキーの皿を手に、2人の女子の方へ優雅にターンする、「もういいわ!美味しいのに、あら!女子が2人もいっらしゃる、失礼だけど一口いかがかしら?」はーいと手を伸ばす女の子2人、「おいしい!! もう一ついいですか?」俺たち全員、エッとばかりに、次々と手を出す、あれ、おいしい!男達の手を払い除け、「マスター、ホットココア2つとホットコーヒー1つね」と言って、彼女達のテーブルに座り込み、クッキーの皿を置くのだ。食べて食べてと進められるまま、食べる食べる、私は、吉田康子(よしだやすこ)です。中学3年生です。と言った。あら康子ちゃんね、おばさんはね、外を指差して、あそこの電気屋の奥さんで律子です。よろしくね! えーとアノ木下絢音(きのしたあやね)です。小学2年生です。ココアとコーヒーをお持ちして、サッとクッキーを一枚頂いてきた。旨い!でもこれ、ゴディバのチョコクッキーじゃないのか?アッと言う間にクッキーも無くなり、2人はお手洗いに行った。席に戻ると、康子が「おばちゃん、あのね、私達家出少女なの、(奥にいた3人組が仰反る)警察に連絡しないで下さい」と言う、驚いた。そうじゃないかなーと思っていたけどね、律子さんは、「そんなことしないよ!おばちゃんは何があっても2人の味方をするよ、約束だよ」と言った。絢音が急に泣き出してしまった。もう手放してワンワン泣いた。目の前のティッシュで鼻を噛んで、またワンワン、ちょっと落ち着いたところで、「どうしたのかな?何があったか、おばちゃんに話してくれない?」

今にも涙が溢れそうな目で、絢音は話す「いつも急に殴るの、始まると、止めてくれないの、そうなりそうな時は、お外に逃げるの、見つからないように一番暗い所に居たら、いつも康子ちゃんが来てくれて、2人で公園や、レストランにいて、お母さんが、もう帰って来るなって言うから、康子ちゃんに着いて来たの」そして、涙は溢れて落ちた。続いて、康子が話し始めた。
「アヤちゃんは、いつも痣だらけで、公園の一番暗い所に隠れていたの、アヤちゃんはパパの連れ子なの、お姉さんが2人いて、お姉さん達はママの連れ子なの、アヤちゃんのパパはあまり家に居なくて、アヤちゃんとは全然お話ししないの、私が家出したら、アヤちゃんは困るし、心配だから、私がアヤちゃんを育てようと思って連れて出たの」育てる??って、律子さんは「うんうん、で、康子ちゃんは何で家出したの?」と聞くと、「私のパパは、ミュージシャンになるという夢を追っているの、そしてママは、それを一生懸命応援しているの、それが幸せなんだって、とっても仲がいいの、この前、私が寝ていると思って、2人が隣の部屋で話しているのを、聞いてしまったの、私が中学を卒業したら、高校・大学へ行かせるという話でした。パパは泣きながら夢はもう諦めるって言っていて、ママが、康子のことは私に任せて、貴方は夢を追って欲しいって言って、2人とも泣きながらお酒を飲んでいたの、私はとっても困らせている人だったの、私が居なければ、きっとパパもママも、もっと幸せになれるし、幸せになって欲しいの、アヤちゃんには、私が必要でしょ?だから連れて家を出たの」

しっかりしてんなぁ〜でもまだ15歳だぜ、とにかくご両親には連絡しないとなあ、考えるんだ!俺!


続きます。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?