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山高/海深(やまたか/うみふか)第一章

お寺の幼稚園

5歳児だって男の子だ!同じ幼稚園の女子、しかもたった1人に男児2人が、ボコボコにされたらプライドは、ボロボロで、擦り傷よりも心が傷む、夕方の公園で2人、涙も鼻水も止まらない、やっと立ち上がり、お互いの涙を拭き、もう泣かないぞと、肩を組んだ。腕が短いので頭も顔もくっ付くが、そのまま変な歩き方で土手を歩いていると、ばあちゃんが来た。「遅いから心配したよ、あれ、擦り傷こさえて、喧嘩したな、ハハハ男の子だもんなあ、お腹空いたろ、サトシも家で御飯食べて行け」と言った。風呂に入って、並んで飯を食ったが、誰と喧嘩したかは、言わなかった。

俺達の幼稚園はお寺の中にある。園長さんは住職だ。翌日の登園で、先生達がヒソヒソと話をしていた。

康子先生「あの3人、分かりやすく絆創膏と擦り傷だらけで、おまけに仲良し3人組が、2人と1人で離れて座っているし」

和夫先生「ハハハそうそう、あれは間違いなく、2対1の喧嘩だな、リュウイチ・サトシvsエミコだね、エミコがオデコに絆創膏1つ、対して男2人組は絆創膏&擦り傷だらけ」

康子先生「エミちゃんは体も大きいし、強いからねぇ、アッこっち見てる、可愛いなあークックックッ」

園長先生「ほんとにまあ、分かりやすいよねえ、でも喧嘩は喧嘩なので、終業の挨拶が済んだら、3人とも園長室に読んで下さいね」と言って園長は、イソイソとお菓子とほうじ茶の準備をするのだ。

園長室の皮張りソファーで、胡麻煎餅を頬張りながら、床につかない足をプラプラさせ、左側にリュウイチとサトシ、間を開けて右隅にエミコと、これまた、分かりやすい配置で座る3人だ。エミコが「もう一枚食べて良い?」と聞くので、園長は頷いて「良いとも、沢山食べてね」と言うと、3人揃って菓子器に手を伸ばす、園長が「さて、どうして喧嘩したのかな」と言うと、3人揃ってビクッとして、煎餅を片手に持ったまま、固まっている。隆一が「どうして知っているの?」なんて聞いてくる。園長は「知っていたさ、でもね何で喧嘩したか教えて欲しいんだ」 3人が同時にワーキャー言うのを要約すると、以下の様になる。

缶蹴りをしていたら、リュウイチが、楡の木の裏で、頭に毛が生えているお地蔵様を見つけた。サトシが、怖いから先生に言おうと言い、リュウイチも賛成した。ところがエミコが、せっかくハゲが治ったのに、お地蔵様がかわいそうじゃないか、誰にも言わないでやってくれ、と言ったんだそうだ。それで、言う、言わないの喧嘩になった。康子先生が「エミちゃんは、ハゲが治ったと思ったの?」と聞くと「パパがね、お風呂上がりに、いつも頭にポンポンしてるの、ハゲが治るお薬だって言ってた。パパは可哀想なの」園長は、「ほう、じゃあ私もハゲだから可哀想かね?」と聞いたら、「違うよ!毛根の無い人は。仕方がないんだってパパが言ってた。だから園長先生は可哀想じゃないよ」なる程である。

それじゃあ、皆んなでお地蔵様を見に行きましょう、と楡の古木の所へ移動した。

見れば確かに、毛が生えている様に見えるのだ。わっさり、しかもロン毛だ。園長は3人を手招きして、近くに呼び、「ほうら、小さな葉っぱが見えるよ、これは苔だよ、コウヤノマンネングサという名前だよ、エミちゃん頭に苔が付いてたら嫌でしょう?」エミちゃんは、うんと言って頷いた。「じゃあ お地蔵様は先生達でキレイにするから、君たちは帰りなさい。」はーいと言って3人は走り出した。エミコは、サトシに聞いた「まだ肩痛いの?」サトシは頭を振って「もう全然痛く無いよ」リュウイチが、向日葵見に行かね?と言うと、行こう行こうと歓声を上げ、子供達は走り去った。

園長は、すっかりキレイになった地蔵に手を合わせ、「時々あのお地蔵様には苔が付くのさ、決まって頭に」と言った。和夫先生が「さっきのはまるでリーゼントでしたよ」と言って笑った。


次回 青いゴムの浮き板につづく


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