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強面/こわもて 第4章

船出 海は広いな、大きいな

俺の曽祖母は、まるでフカに食われた息子の、敵討ちをするかの様に、小柄な体で毎日フカ漁をして、この漁師町では、長年に渡り、高額所得者であった。それらの遺産を全部使って親父は漁港にしっかりとした会社組織を作ったのだ。そのことは尊敬しているし、何も協力しなかった事を、申し訳なく思っていた。

そんな時、祖父から遺産としてもらった、曽祖母のサメの骸骨が思わぬ高収入となった。そのため、親父に半分受け取ってもらおうと考えた。織部さんも賛成してくれたので、丁度、俺が独立起業する報告も兼ね、2人で親父の会社を訪ねた。

親父は、不機嫌だった。「余っている金があるなら、自分の起業のために使え」と、きっぱり断られてしまった。さらに親父は織部さんと一緒に起業することにも、難色を示したのだ。「二郎は俺と同級生だぞ、お前、父親と同年齢の人間と上手くやれると思うのか、青二歳がぁ大体お前は、全てにおいて甘いんだよ! 二郎だって、俺に頭を下げる気になれば、これから先、面倒を見ない分けじゃないんだ。」と、興奮して、椅子から立ち上がり、声を張り上げるのです。二郎さんを首にしたのは、自分だろうが、と思ったよ

織部さんは、座ったままで、悲しそうな顔をしていました。そして、「勘違いするなよ洋太、俺は隆一君に雇ってもらうだけだ。雇い主の命令に従って動くだけだ。だから関係が上手くいかない、なんてことは無い!」と言った。親父は座り直すと「雇い主の命令通りに動くなら、俺の所でも出来た筈じゃないか、二郎は絶対気に食わないことがあったら、逆らうよ、お前はそういう奴だよ! だいたいお前は、身寄りも無く彷徨っていたのを、俺の親父が拾って、保証人になったから、織部の神社の養子になれたんだ。それなのに、恩を仇で返しやがって、今度は息子まで奪うのか!?」ここで、俺が切れちゃった。(我が親ながら本当に情けない! 爺ちゃんは、そんなつもりで二郎を助けたんじゃ、絶対ないぞ)

立ち上がって、両手で思いっきり机をバンッ!(エッ、スチールって壊れるの?)デカイ会議用の机が、ガコッと傾いてしまった。2人とも飛び退いて棒立ちしているが、俺もビックリした。「ワッ!ごめん!弁償するから、あいや、そんなことより、親父ぃ 見損なったぞ、爺ちゃんはそんなつもりで二郎を助けたんじゃ絶対ないぞ! あと、二郎さんは俺の相棒だ! 侮辱するのは、絶対許さん! 織部さん、帰ろう!」躊躇う織部さんを引っ張って、下を向いて立ち尽くす親父を放って、帰って来てしまった。

帰りの道中では、俺は綾部さんに謝りっぱなしだった。彼は「それでも、何とかヨウちゃんの力になりたかった。網元にさ、アイツは、計算がダメだからって、頼まれていたし、そのつもりだったんた。」と言って、帰って行った。泣いている様に、見えたから、後は追わなかった。

部屋に帰って、親父に電話した。すぐに電話に出た親父が、何も言わないので、机の弁償をすると伝え、織部さんに対するあの物言いは本心なのかと聞いた。少し間を置いて、違う!と言った声が、明らかに泣いていて驚いた。そして

「違うんだ、ああでもしなきゃ、諦めがつかない、許してもらわなくていい!俺は頑固で、我が儘に方向を決め、突っ走った。その方向に進むための手段と方法は、いつも二郎が担当してくれた。決めた方向に反対されるとは、思わなかった。分かっている。あいつが正しいんだ。でも、これでいい! 隆一!お前は大したものだよ、きっと上手くいくと、父さんは思っている。あと、二郎のこと頼むな」と言うから、ああ任せろ!と言って電話を切った。

翌日から俺達は、起業に向けて動き出した。ジロさんは銀行と役所関係、俺は仕事の確保や船舶の調達といった役割分担だ。呼び名も自然と、ジロさん・リュウになった。

あれから1週間ぐらい経った頃。以前航海士として世話になった人物から、状態のいい20トンの船がある。船主がなるべく早く売りたがっているという、実物を見てみないか、と連絡があった。ジロさんと俺は協議の上、見てみようと決定した。何なら即決したって良いぐらいだ。

翌日、俺達は成田から出発した。目的地はジェノバだ。

天候に恵まれてのフライト、空も海も青く広い、俺は隣に座るジロさんに、小さい声で歌った。♪海は広いな 大きいなー♫ ジロさんはニッコリ笑って、全身でウンウンと頷いた。

つづく

次回は ジロさんは謎の人! です


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