鴇亜

文学の話をしたり短歌を詠んだりします。

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最近の記事

半藤一利『幕末史』

 戦前~戦後を生きた半藤一利が、太平洋戦争との関係性などにも触れつつ、幕末から西南戦争までの日本を語り下ろした本。  さまざまな小説や漫画や新書や専門書で、バラバラには知っていた幕末前後の知識。それらが、滑らかな語りで統合されていく感じがした。  特に、薩長土の軍閥が太平洋戦争の時にまで影響を及ぼしていたとは驚きだった。軍隊が能力主義じゃないだなんて、そりゃ日本は負けるよ。  幕末については自分の好きな部分をかじって知っている人もいるだろうから、一度こうして全体像を読んでみて

    • 明神しじま『あれは子どものための歌』

       ミステリー要素アリのファンタジーが好きな人に朗報!この本は、話が進んでいくなかで、だんだんと真相が明かされていくタイプの謎があるファンタジーです。  一話一話、独立した話として読んでもよいのだけど、やはり連作短編として固め読みするのが是非ともオススメ。最後の物語では、それまでの物語が全て合わさって、素敵なエンディングが待っています。  ちなみに個別の話として私が好きなのは、並行して語られる三つの話が最後には重なりあって一つの物語になる「商人の空誓文」と、ロマンス要素ありの「

      • 古川日出男『紫式部本人による現代語訳「紫式部日記」』

         紫式部が宮仕えの日々と自身が仕える彰子の出産の様子を描いた「紫式部日記」。これを現代の女性風な紫式部による註釈を入れながら、現代語訳した本。  とにかく読みやすくて、するすると文章が頭に入ってくる。けれど、その分、原文が持っていた優雅さが少し失われている気がして、まあ現代語訳してしまったらそうなるのは当然なのだけど、少し残念。  でも、原文の『紫式部日記』と並行して読んだら、すごく分かりやすくなるかもしれない。何か、学校の授業などで『紫式部日記』を使う場合には、参考資料とし

        • 映画「クラメルカガリ」

           見てきました、クラメルカガリ!  クラユカバを本来先に見るべきなのでしょうが、そちらはBlu-rayを購入してきました。  絶対にBlu-rayとパンフレットが欲しかったので、交通費はかかるけれどマイナーな映画を見る人があまり行かなさそうな映画館で公開した週に見てきました。ふふふ。  クラメルカガリのシナリオ原案は、『バッカーノ!』『デュラララ!!』の成田良悟です。そして私はナリター(成田オタクのこと)です。観に行かないわけがないでしょ!?  病気持ちなので、前日も用事があ

        半藤一利『幕末史』

          映画「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

          ※できるだけネタバレはしない方針ですがうっかりしてしまうかもです。  まず、一言言わせてください。  林原めぐみさんの、あまりに澄んだ少女の声!  最近聴いていた林原めぐみさんの声はブラック・ラグーンのレヴィだったから、感動しました。そうか、これが綾波レイの声……。  あと、中井和哉さんのシェルがとても良かった。今まで聞いた中井さんの演技の中で一番良いと思いました。  ボイルドがロングヘアなのは驚きました。  あとドクターが好きなので、東地さんの演技がぴったりでドキドキしま

          映画「マルドゥック・スクランブル 圧縮」

          江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』

          「三人娘」とかつて呼ばれた親友同士の三人の女性の、35年後を描いた作品。  三人それぞれは男性関係や親戚関係、家族関係で様々な問題や悩みを抱えているけれど、三人の仲だけはいつも良好。会えば話が弾むし、笑いが絶えない。甥っ子が女装少年だったり、母と時々ぶつかったり、息子が突然結婚すると言い出したりするけれど、三人の関係性は微塵も変わらない。  私にも、四人娘と呼ぶべき、中学時代の親友たちがいる。今も相変わらず仲は続いていて、また今度の6月に会う予定がある。子供がいたり、働いてい

          江國香織『シェニール織とか黄肉のメロンとか』

          伏黒恵に捧げる短歌

          今の君に捧げたいのは尊厳と君の大事な式神だけだ 笑わない君のムスッとした顔が無性に恋しい返しておくれ もしそれが君の運命だとしても抗ってほしいお願いだから 美しく白いよりもね骨張った武骨な君の手の方が好きよ 届かない祈りを毎夜数えては君のしあわせを願い続ける

          伏黒恵に捧げる短歌

          ウルワシ・ブタリア/編『インド北東部女性ざっとアンソロジー そして私たちの物語は世界の物語の一部となる』

           まずは、インド北東部ってどこ?という話からします。  地球儀か、世界地図を見てください。インドの右側に、付き出した部分がありますね。アッサム州などが含まれます。そのあたりがインド北東部です。  この本を呼んでいると、インド本土とは全然違う独特の世界を感じます。ヒンドゥー教はあまり信仰されていなくて、もっと土着のアニミズム的な宗教や、宗主国だったイギリスが広めたキリスト教が信仰の主流です。そして、女性の地位は、低い。本当に低いです。このアンソロジーでも、様々な抑圧に曝されてい

          ウルワシ・ブタリア/編『インド北東部女性ざっとアンソロジー そして私たちの物語は世界の物語の一部となる』

          西『大阪より愛を込めて 私の織田作之助作品選集』

           えー、今回は同人誌です。  と言っても、二次創作とかではなく、私のフォロワーさんが、織田作之助のどこにも収録されていなかった(ほんの最近、されました)作品や随筆、対談をまとめたものです。  個人的には「大阪発見」「木の都」(正しくは旧字体で書いてあるのですが、スマホが変換してくれないので割愛)が好きです。「大阪発見発見」に登場する食べ物は、今の世の中ではそんなに美味しくないのだろうけど、何だか無性に食べたくなる。「木の都」は、織田作之助の若い頃が垣間見えて嬉しかったです。

          西『大阪より愛を込めて 私の織田作之助作品選集』

          柴田勝家『走馬灯のセトリは考えておいて』

           個人的にかなり推しているSF作家、柴田勝家の短編集。今回は、信仰、魂、VRなどがモチーフとして多く使われている。  短編一本一本、短いながら感想を。 「オンライン福男」…コロナ禍による自粛やオンライン化を逆手に取った作品。要はメタバース上で福男をやっちゃう。メタバースには詳しくないけど、パソコンの腕が高ければ男女も年齢もどんなハンディキャップも関係ないというところは良かった。全体的にコミカルな雰囲気なのも◎。 「クランツマンの秘仏」…中身が本当にあるかどうかは、開けてみ

          柴田勝家『走馬灯のセトリは考えておいて』

          虚淵玄『Fate/Zero5 闇の胎動』

           私は遅れてきた型月ファンです。順番もめちゃくちゃに読んだりプレイしたりしています。  しかし、この巻は言峰綺礼と衛宮切嗣に主眼が当てられていて、この二人の目的は異なれども過程は同じ、というところを感じさせられました。  とにかく、覚醒した言峰綺礼の豹変っぷりがすごい。悪、そのものです。特に間桐雁夜に仕掛けた企みが超弩級に極悪……!身震いしました。  そして、読めば読むほど好きになっていくのが衛宮切嗣。私は元々、自己犠牲系かつ論理的な思考が出きるキャラクターが好きなので……。

          虚淵玄『Fate/Zero5 闇の胎動』

          綾辻行人『十角館の殺人』

           ドラマを見るにあたって、十数年ぶりに再読。  新本格ミステリーの皮切りとなった作品です。  所謂「孤島もの」、アガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』をものすごく上手く料理している作品です。  S町の沿岸にある角島にサークルの合宿に赴いたK大学推理小説研究会の面々。彼らが互いを高名なミステリー作家から取ったあだ名で呼び合う、その様子だけでもうミステリーファンとしては堪りません。そして彼らの泊まる「十角館」で次々と起こる惨劇。一方本土では、かつて角島で起きた事件を追う

          綾辻行人『十角館の殺人』

          原田ひ香『図書館のお夜食』

           ここは、夜の図書館。亡くなった作家の蔵書が並ぶ、一風変わった図書館。そこで繰り広げられるドラマと、美味しいお夜食の物語。  どちらかというと優しい、お仕事小説といった感じの小説。主人公が図書館に転職してくるところから始まり、図書館で出会う事件が描かれていく。でも何と言っても、この小説の見所は食堂で食べられるお夜食。どのお夜食も、作家の作品や逸話からできている。自分でも作れそうなレベルのものが多くて、ちょっと作ってみたくなる。そんなお夜食。  あと、この小説のなかの好きなシー

          原田ひ香『図書館のお夜食』

          寺澤優『戦前日本の私娼・性風俗産業 売買春・恋愛の近現代史』

           私は遊廓や花街などの性的な産業にまつわる本を読むのが好きだ。それこそ古代から現代まで、手広く読んでいる。  理由の一つは、永井荷風の小説が好きだから。永井荷風の花柳小説では、芸者やカッフェーの女給、ダンサーなど、様々な性的な産業に関わる女性が描かれている。それらの小説をより楽しむためにも、こうした本は欠かせないのだ。  それに、何故だか分からないけれど、これらのテーマは、私を強く強く惹き付ける。大学で民俗学を専攻していた頃、最初は巫女か遊女を卒論のテーマにしようと思っていた

          寺澤優『戦前日本の私娼・性風俗産業 売買春・恋愛の近現代史』

          塩野七生『海の都の物語 2』

           塩野七生が様々な資料に基づいて紡ぐヴェネツィアの一千年史、その2巻。十数年ぶりの再読。  今回は、塩野七生が言うところの「株式会社ヴェネツィア」がどうやって出来たのか、そしてどう運営されたのかが描かれている。  詳しいことは書かないけれど、「人権」などの観念ではなく「合理性」という観点から小市民までを保護してきたヴェネツィアという都市国家。政治形態にまでその合理性が及んでいるのは、さすがだなと思った。  日本の政治家もこれくらい合理性を重んじて、国民を大切にしてくれたらな…

          塩野七生『海の都の物語 2』

          成田良悟『Fate/strange Fake』9巻

           私は成田良悟の作品が大好きです。推し作家は成田良悟のナリターであると言っても過言ではありません。私がFateに手を出したのも、元はと言えばFakeが読みたいから、そして空の境界を昔読んでいたからでした。  そんな私も、遂に9巻を読みました。勿体無くて焦らしていたんですが、とうとう読みました。  感想:エルメロイ教室、最高  すいません……でもこれ、みんな思ったと思います……。私は特に、魔術師ではロード・エルメロイⅡ世が一番好きで、Fate/stay nightヒロインでは凛

          成田良悟『Fate/strange Fake』9巻