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オイ、銀行ッ!俺の10万円返せよッ!!

と、暴れてみても悪いのは私である。あと、別に銀行に10万円を取られたわけでもない。

現金の振込先を間違えてしまったのだ。

思えば、ここ数ヶ月間、銀行振込をする機会にやたらとめぐまれた。すべて別件であり、いちいちATMで手打ちしていたのだが、私のことだから、いつか誤振込をするときが来るだろうなと思っていた。それが、来たのだ。ただそれだけのことである。悔いはない

今回の私のミスは、振込先の口座番号を入力する際に、0がひとつたりていなかった、というものであった。ニアミスはなはだしいが、それでも番号がちがえば、知らんオバハンの口座へと私の10万円が移動することになる。ATMからピョッとはきだされた領収書に、見たことのない、シワシワネームの女性の名前が記載されているのを見て、私は己のあやまちに気がついた。それが昨日の朝、出勤まえのことだった。それでも重い身体をひきずって会社へと向かった私は褒められてしかるべきだろう。

その日の昼休みに銀行に電話をかけた。根掘り葉掘りいろいろ聞きだされた挙げ句、じっさいに店舗に来ていただけないことには手続きができないと、台無しなことを言われた。「そのときの領収書を持ってないと手続きできませんよ」、「返金の手続きに手数料が1100円かかりますけど良いですか」、「ま、手続きしてもかならず返ってくるとは限りませんけどね」と、いちいちつめたい感じの言い方をする男の子だった。

「分かったよ。明日の朝、銀行に行くよ」
と私が言うと、
「領収書と銀行員、通帳と……、あと顔の確認できる身分証明書が必要ですけど、大丈夫ですか
と心配された。なにがだよ、大丈夫だろ。


ポイント1:振込先を間違えると、銀行の人から社会不適合者の烙印をおされる。


次の日、つまり今日であるが、朝一で銀行に行った。昨日の電話の兄ちゃんの感じからして、よほどバカにされるのを覚悟して家を出た。

開店から五分後くらいだったが、すでに先客が何人かいて、十分ほど待たされた。どう見ても世間話をしに来ているだけのおじいちゃんがいて、未来の自分を見た。

私を対応してくれたのは、背の低いおばちゃんであった。とりあえず昨日の兄ちゃんではなくて安心した。
「誤振込されたことですが、それは金額を間違ったとかではなく……」
「そうですね。口座番号を打ち間違えまして」
「では、この*****さん(私が間違って10万円を振り込んだ女性)と直接ご連絡をとるというのはできないということですね」
「はい。すみません……」
と私は謝罪した。

おばちゃんはこれからの流れを説明した。まず、振込先の銀行に返金依頼を提出する。それをうけて振込先の銀行が*****さんに返金依頼が来ていることを報告する。*****さんが許諾するとめでたくお金が返ってくるとのことだった。

「ちょっと時間がかかるかもしれませんねえ」
とおばちゃんはしぶい顔をした。


ポイント2:銀行側からすると、返金手続きは相当面倒くさいらしい。


おだやかそうなおばちゃんから漏れ出てしまった苦笑を目の当たりにして私は私を恥じた。
私は、なんとか名誉を挽回しようと、サイフから運転免許証を取り出した。
「あの、身分証明書です」
「あ、結構ですよ。それより、この書類を書いてください」


ポイント3:身分証明書は結構。


私はお手本通りに書類を記入した。依頼主(私のことである)の名前と住所、電話番号、口座番号、誤って振り込んだ相手の名前等である。
「あれ? 登録されてるご住所と違いますね」
「あ、そういえば住所変わってるかもしれません」
「では、後ほど住所変更の手続きも行いますので、さきほどご提示いただいた身分証明書を確認させていただきます」


ポイント4:住所変更には身分証明書が必要。


「では、手数料を1100円頂戴します」
私はしぶしぶ1100円を支払った。なんというムダ金、と思ったが、電話の兄ちゃんの態度やおばちゃんの表情からして、この1100円の労働は相当に煩瑣なものであるらしいので、感謝のマインドでサイフからお札をぬいた。

何卒よろしくお願い申し上げますッ……!

私は半沢直樹みたいなテンションで頭を下げた。半沢直樹を見たことはなかった。

おばちゃんは、はーい、と言って私のプレッシャーをかわした。私の願いは*****さんにちゃんと届くのだろうかと暗澹たる気持になった……。

このあとめちゃくちゃ住所変更の手続きした


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