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へぇ満載の秋に?定型詩


5・7・5って…

 先日、知人が面白いテレビ番組があると教えてくれた。芸能人が毎回出されるお題で俳句を作って来たのを、専門家の先生が添削しながら、俳句や季語などについて解説をしてくれるのだという。それが、学校で習った俳句とは違うことばかりで、テレビに向かって「へぇ~」の連発なのだとか。

 学校では俳句とは、5・7・5で作るもので、字余りは絶対にダメ。季語を必ず入れなければいけないと習った。1文字でも足りなかったり多かったりすれば、作り直しになってしまう。だから、俳句の授業といえば、クラス全員がぶつぶつと小声で言葉を唱えながら指を折るのが、定番の光景だった。

 ところが、そのテレビ番組に登場する俳句の先生によると、言葉の数や順番にこだわる必要はないのだそう。7・5・5でも、5・5・7でも良いし、5文字が6文字になっても、4文字しかなくても良いという。

 学校では絶対にダメと習ったはず。そんなに自由で良いのかと聞くと、その知人も「私も学校では、順番を変えていいなんて習わなかったし、そもそも5文字、7文字、5文字で作らなかったら、授業の間中、作り直させられたわよ。だからびっくりしちゃって。もう見ている間中、へぇの連発よ」と笑っていた。

基本の「き」も大切だけれど…

 季語に関しても、必ずしも入れなくてはいけないものではないそう。その情景が思い描けるようにできていれば良く、むしろその方がより良いのだとか。筆者が学校教育を受けていた時とは大違いだ。

 学校といえば、残念ながら基本の「き」しか教えてもらえないのが常。たまに、とても教科愛の溢れている先生がいるが、そういう先生に出会えるのは稀なこと。先生方からすれば、教育課程に遅れてはならないと必死なのだろう。受験に関係のない俳句などを時間をかけ、基本以外のことまで教える余裕はないのかもしれない。

 とはいえ、日本独特のリズムを持つ定型詩。しかも、俳句以外にも短歌や和歌、川柳といったものがあり、どう違うのか、どう楽しむのか、江戸時代に庶民の間で流行った川柳は、なぜどうして流行ったのか。そんな歴史的なことも教えてくれると、もっと親しめるような気がするのだが、今の授業はどうなのだろうか。

世相を表す江戸川柳

 川柳といえば、サラリーマン川柳が流行ったこともあった。その一つに「仕事しろ 残業するな 成果だせ」というのがあったっけ。なんと、この短い17文字という世界の中で、的確に言い表しているのだろう。いま改めて読んでみても、やはりこの17文字に勝るサラリーマンの辛さを表わしたものはないように思ってしまうのは、筆者だけだろうか。(1999年の応募作品で8位)

 と思っていたら、『江戸川柳で現代を読む』(小林弘忠著 生活人新書)なる本を図書館で見つけた。川柳から江戸時代の庶民の暮らしぶりを読み解こうとするものである。これがまた面白い。

 たとえば江戸人の食生活。普段は一汁一菜だった江戸庶民にとって魚か煮物があれば上等だったのだとか。そんな江戸っ子にとって目がなかったのが初物。とはいえ、今と同じく旬のものと言えば高いのが常。初ガツオなどは目が飛び出る値だったよう。

カツオひとつで社会や生活が見える?

 天明年間(1781~89年)は、初ガツオの値段が、ぶつ切りで金1分、今の値段で3万7500円だったのだそう。旬を外しても200文(5,000円)はしたのだというから、目が飛び出るどころではない。

 筆者だったら当然見送るところ、当時の江戸っ子達は知恵で勝負したらしい。それを詠んだのが「かつを売り となりへ片身 聞きに行く」。一人では買えないだろうからと、売り子がお隣さんへ「半分に分けて食べないか」とお誘いに行く様を詠んだのだそう。

 そうかと思えば、「金持ちを 見くびつて行(く) 初がつを」などいうのもある。どうせ金持ちは金を貯めるだけで、高価な初ガツオは買わないだろうと、その家の前を通り過ぎていく様を詠んだのだそう。今の世も、昔の世も、金持ちって財布の紐が固いのね、消費社会を潤わそうという気持ちはこれっぽっちもないのね、と思わず頷いてしまう。

今も健全、サラリーマン川柳

 ちなみに、サラリーマン川柳(旧称。現在は「サラッと1句!わたしの川柳コンクール」に名称変更)はどうなっているのか調べてみたところ、なんと今年も募集中という。しかも、松坂牛やうなぎの蒲焼といった賞品まであり、なんとも豪華。

 サイトでは歴代1位作品も紹介されており、それを見るだけでも、それぞれの世相を表わしていて興味深い。

 サラリーマン川柳を作って楽しむほどの才がなさそうな筆者は、先の『江戸川柳で現代を読む』で江戸っ子たちが詠んだ江戸川柳に親しみながら「へぇ」を連発するむ秋にしてみようかと思っている。 

<参考文献>
『江戸川柳で現代を読む』(小林弘忠著 生活人新書)
☆社会人の教科書「『和歌』『俳句』『短歌』『川柳』の意味と違い」

☆Pokke「俳句の作り方を覚えよう!きっと楽しさを知ればやめられない」

☆マネーサーチ「サラリーマン川柳-第12回(1位-10位)1999年」

☆第一生命「今年もサラ川募集中!」


☆川柳人協会「川柳の歴史」

☆日本俳句研究会「俳句の作り方」


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