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Re:便利屋花業 ⒒戦友との語らい 恋愛小説

沢口は、なんでもお見通しだ。
「仕事関係で男作るの、珍しいな」
「沢口くん以外にさとられないように、もう必死」
「あれをかわすのは至難の業だろ。ベタ惚れ」

愉快そうな横顔に、まどかは八つ当たりする。
「ちょっとくらい、阻止してくれてもよかったじゃん」
嫉妬に狂って逆効果だと、安定の冷静沈着っぷり。
戦友みたいな存在だから、話しているとまったりリラックスする。

園芸にたずさわる者として致命的な虫ギライを、徹底して排除することでサポートしてくれた沢口には、頭が上がらない。
全幅ぜんぷくの信頼を寄せていると言ってもいい。

そもそも、この職場はクセ者ぞろいで、我が道をゆく人間が多く、それがなんとも心地良い。
フレックス制ならぬフリースタイルで、いつ来ようが休もうが不問だ。

「それ蜂谷はちやだけな。ガーデニング以外、神出鬼没」
ブラック企業で心身に異常をきたしたことのある人間にとって、楽園のような風通しの良さだ。

***

「お。珍しいな。蜂谷、彼女代行受けるか?」
「は?」
思いっきり顔をしかめ、ガン無視。

沢口が吹いた。所長の扱いが雑すぎて、ウケるそうだ。
人のことをだまくらかして、すぐ契約外の業務をさせようと目論むから、
当然の報いである。

まどかの大まかなバックグラウンドを心得ている所長には、「言いたいことを言っていい」ことになっている。
ここに入るとき、それを条件として提示されたのだ。
こちらが要求したわけでもないのに。

その意味では、理想的な上司と言えなくもない。
「けっこう目配りできる人だぞ、あれでも」
「うん。わかってる」

(つづく)
▷次回、第12話「ギスギスの初対面」の巻。



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