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#恋愛小説が好き

恋愛小説への愛や、好きな作品・作家を語ってください!

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居眠り猫と主治医 ⒔ 桜の甘酒 連載恋愛小説

お酒で飛んだ記憶が、ある日まるっと戻ってきて、はじめて病院以外で祐と言葉を交わしたのは、春だったと気づく。 「桜を見て泣いてる女、はじめて見た」 泣いてないですよと唇を動かすと、目じりから数滴こぼれ落ちた。 青空に映える薄紅の花びらが風に揺らめく。 院長厳選の穴場スポットは、地元の花見客がちらほらいるだけで、夜のように静まり返っている。 このまま異世界に迷いこみそうな、不思議な空間。 *** 「その飲みかた、やめたほうがいい」 文乃を現実に引きずり戻す、重い声がした。

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居眠り猫と主治医 ⒗矛盾猫 連載恋愛小説

なにも話さず電車に揺られていると、高校生だった頃のまっさらな感覚がよみがえってきて、疲れた体と心が少しだけ癒えた気になる。 相手の意図がどうであれ、どうしようもなく惹かれているのは、シンプルな事実だ。 車窓の景色をながめている横顔を、そっと盗み見る。 「電車通学でした?」 物思いにふけっていたのか、気の抜けた返事が返ってくる。 初の共通点に、じんわり喜びをかみしめる。 降りる駅が近づくにつれ、無性に名残惜しくなってきて、 「もうすこし一緒にいたいです」 と文乃はつぶやいた

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居眠り猫と主治医 ⒉初診 連載恋愛小説

することもないので両手で頬杖をつき、彼の事務作業をぼうっと観察する。 しばらくすると、眉間にシワを寄せてこちらへやってきた。 「気にさわったんなら、やめます。もう見ない」 返事をせず、祐は無造作に文乃のあごにふれ正面を向かせた。そのまま顔を近づけたかと思うと、文乃の目の下あたりに親指を置く。 「貧血だな」 下まぶたの内側を確認したらしい。 なんの前ぶれもなかったので、心拍数がおかしい。 心臓の音聴かせてくださいねー、とか動物相手にはあんなに穏やかなのに。なんなんだ、この落

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短編 | 瑠璃色の1%

 その日の勢いで、彼にすべてを曝そうとした。しかし、また、直前になっておじけづいてしまった。 「ごめんなさい。やっぱり無理です」 「そうか。それじゃ仕方がないね」  そう言うと、彼はベッドからおり、服を着始めた。 「ごめんなさい、本当に…」  彼は私の目を見て微笑んだ。  体を重ねる寸前になって、勇気が持てずにそのまま何もなく…というのは今回で3回目だった。  彼のことを信頼していないわけではない。彼のことが嫌いはわけではない。しかし、処女を捨てるという決断がど

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居眠り猫と主治医 ⒋オトナのお子様ランチ 連載恋愛小説

いくら倒れそうなほど眠かったからといってアレは非常識極まりなかったと、あとから冷や汗ものだった。 「あの、ずうずうしくて申し訳ありませんでしたっ!」 勢いでトートバッグの中身が飛び出し、小学生かよとツッコまれる。 セレクションの理由は、果物だったらスタッフでシェアしやすいのではと思ったから。 「食のアンテナが干からびてるので、スイーツとか選べなくて」 甘党かどうか今さら祐に確かめ、好きでも嫌いでもないと返答をもらう。 *** 「わあ…これ、ウチのサラそっくり」 とあるテ

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『もしかして』 #新生活20字小説

息子のクラス名簿に、元彼と同じ苗字の子。 [完] #新生活20字小説

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居眠り猫と主治医 ⒖潮干狩り猫 連載恋愛小説

潮干狩りでは、極力接触しないようにした。 これ以上近づいたら、どツボにハマるのは目にみえているし、彼に迷惑をかけるのだけは避けたかった。 「守屋さんて、夏目先生のこと狙ってる?」 気配を消して真横に陣取っていた小静《こしずか》美佐に、文乃は肝を冷やす。サングラス越しでもよくわかる、気合いの入ったマスカラ。 なにを考えているのかわかりづらくて苦手だと、否定した。 「あー、まあね。でも、そこがよくない?」 はまぐりやアサリを前日にまいてあるから、広く浅く表面をふわっとさぐるだ

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居眠り猫と主治医 ⒎オカンの腕前 連載恋愛小説 

夏目祐の部屋は、なんというか殺風景だった。 分厚い専門書のようなものが目に入る以外、とくに特徴がない。 多忙で、寝に帰ってきているだけなのかもしれない。 「さっさと脱いで」 「あ…はい。お先にいただきます」 さすがに緊張するなと思いながら、人んちのシャワーを借りる。 湯舟につかったわけではなかったが、ほっと一息つけた。 入れ替わりに浴室に入った彼は、いつも以上に仏頂面で完全に嫌われたなと文乃は思った。 「なんでドライヤー使わなかった?」 「時間かかるので」 先生を待たせて

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居眠り猫と主治医 ⒓ セカンド猫 連載恋愛小説

キッチンは素通りしたので、ごはんはお預けかと、文乃はちょっとがっかりした。 半裸のままで始まってしまい、全部脱ぐより刺激が強くてたじろぐ。 それでも、文乃の体調を気にするのがデフォルトになっている祐は、ひたすら慎重だった、避妊も含めて。 逆立ちしても一番になれないと知っていたから、今まで言ったこともないセリフが口をついて出る。 「次は…先生の好きなようにして?」 祐の目の色が変わり、それだけで充分だと思った。 *** 「自制心ぶち壊してどうする。自殺行為なんだけど」 「

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居眠り猫と主治医 ⒕投げやり猫 連載恋愛小説

「で、なにがいいですか。お礼」 話の内容はどうでもよく、この人の空気感が居心地良くてずっとしゃべっていたくなる。 「ふたりで会うとか?」 「えーサラ抜きはちょっと…。あ、うそです。いいですね、デート」 何をおごろうかなあと思案しているうちに、まぶたが待ったなしで重くなる。いい具合の肩が手近にあったから、文乃は安心して目を閉じた。 *** 「ああー!患者さんに手え出すの御法度ですよ、夏目センセ。文乃ちゃん、激カワだけどもー」 里佳子の大声で目が覚めた。 「ハイ、ごめんな

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ゆうぐれあさひ

 夕方になると、夕日を見に行きます。  何を当たり前な、となるかもしれませんが、わたしの夕日は晴れ空でも雨空でも見ることができるのです。もやもやしたときには、夕日を見るに限ります。  もやもやしているのは、職場のゲーテさんのせいです。  わたしは都内の駅前にある、こじんまりとした書店で働いています。ショッピングビルがにょきにょきと竹のように林立する中にあって、竹になり損なった筍のように小さな店です。そこには正社員が二人いて、一人が「ゲーテさん」とわたしが勝手に心の中で呼んでい

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居眠り猫と主治医 ⒊河川敷フリマ 連載恋愛小説

河川敷でのフリマイベントにて団体出店が決まり、文乃はためこんでいた小鳥雑貨を放出することにした。 収納場所に困っていたので、渡りに船だった。 バラエティー豊かな商品の中で異彩を放っていたのは、小静美佐の手づくりアクセサリーと夏目祐の調理グッズ。 どちらも玄人ウケしそうな匂いを漂わせている。 *** 「どれも大ぶりなのに、センスある」 小鳥会のドン・水野里佳子にほめられ、美佐はちょっと意外そうに眉を上げた。犬会と小鳥会は折り合いがよくないのだ。 「水野さんも気に入ったのあ

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Re:逃走癖女神 ⒙詩人の覚悟 連載恋愛小説

小川のせせらぎと、小鳥のさえずり。 林を吹き抜ける風を全身に浴びながら、晴れた日には木陰で読書。 夏ならそれもできたが、今は物理的に無理だ。 「まあまあ、都さま。おきれいになられて」 出迎えてくれたのは、北條みわ。 超のつく資産家である、紗英の実家の専属家政婦だ。 「そう言われましても…紗英お嬢さまのご友人なので、都さまは都さまです」 またしても、呼び名の訂正要請は却下される。 オフシーズンで静寂に包まれているこの別荘地は、潜伏先として理想的だ。 和洋なんでもござれの、み

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居眠り猫と主治医 ⒚ 猫、海へ行く 連載恋愛小説

腰ほっそ、と里佳子が目を剥く。 足のつかない海でなど泳ぐ気はさらさらなかったが、水がかかってもいい格好をとお達しがあったので、水着にした。 羽織っていたシャツワンピのボタンを、文乃はすばやく閉める。 「そんなこと、言われたことないですけど」 「いやいや、華奢で色白って眼福すぎ。あ、ごめん。私、アイドルオタクもやってて」 ちいさくてかわいいもの好きが高じて、とある女性グループのファンになったそうだ。大人の階段をのぼっている頃合いが、とくに推しだという。 「あー、成長してませ

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BOOK&BAR Rayカドワキ 2/3 短編小説

「じゃあ、コイツの代わりに飲んで。来月出す新作」と道哉。 朝から試飲をしていたらしく、オーナーの門脇礼は酒を見るのもたくさんといった顔をしている。 おいしい…、と伊吹の口から素直な感想がこぼれ出た。 「だろ?なのに、いつまでも礼がOK出さないから。いっそ一般の人に決めてもらったほうが早いかもな。下戸が相手だと話進まなくて」 「だから下戸じゃないって。何杯飲んだと思ってんの」 バーの責任者で実質カドワキの店長だという名越道哉が、次々にグラスを運んでくる。 断りきれずに、伊吹は

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居眠り猫と主治医 ⒑自覚する猫 連載恋愛小説

あのときと同じように向かいあっているのに、感情が180度変わってしまい動揺が抑えられない。 「自分にエサはやらないのに、鳥の世話はていねいですね」 問題はないとのことで、いくぶん肩の力は抜けたものの気後れし、文乃は祐と目を合わせることすらできない。 「よかったです。…あの、その節はお世話になりました。先生はその後、 お風邪など召されていませんでしょうか」 ブッと吹いた彼は、すぐさま無表情に戻す。 拾ったはずの猫が脱走した。抱き枕も消えたから、睡眠の質がガタ落ちだと恨み節。

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居眠り猫と主治医 ⒒獣医の休息 連載恋愛小説

迎えにいくと言われ困惑していると、本当に駅前に現れた。 数時間前に会ったばかりなのに、今日の彼は変だ。 途中下車した駅で勝手がわからず、文乃は所在なく待っていた。 合流できたときはほっとして、ご主人様を見つけたわんこのごとく駆け寄ってしまった。 「仕事は?終わった?」と祐。 早番じゃなければ、今頃、授業真っ最中だった。 「疲れてますよね?大丈夫ですか」 車のハンドルにもたれたあと、祐は文乃の髪に指を通す。 「この前、中途半端にさわったから、飢餓感すごい」 「え…起きてた?」

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モノクロ桜吹雪 シロクマ文芸部

花吹雪を浴びた。このところ毎晩だ。 理由はわかっている。 終わりそうなこの関係のスタート地点を、わたしの脳が再生し修復させようともがいているのだ。 *** なんで笑っているのかと、わたしはヤツにかみつく。 「あーうん。オヤジたちもおんなじことやってたなあって」 「おなじこと?」 しょうもないことでケンカし、わあわあじゃれていたと彼は言う。 「じゃれてねーぞ」 「しあわせそうだなって思ってた」 彼の父親は妻より先に旅立ち、母親は約2年、見ていられないほど落ちこんでいたらし

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居眠り猫と主治医 ⒐ゴッドハンド 連載恋愛小説

半月後のサラの健診日。診察室に入って、文乃はぎょっとする。 「何その反応」 「え…今日は院長先生の曜日じゃ…」 「学会で出張」 院長がひそんでいるわけもないのに、文乃は部屋のあちこちに視線をさまよわせた。見慣れたはずの白衣姿に、ここまでどぎまぎするのはなぜだろう。 鳥かごを抱いたまま棒立ちになっていると、早く診察台にのせろとあごで指示される。 「あ、すみません。よろしくお願いいたします」 看護師が別件で席をはずすのを、心細い思いで見送る。 通常、動物が暴れないよう保定する

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居眠り猫と主治医 ⒏猫の抱き枕 連載恋愛小説 

だしぬけに腕が伸びてきて、文乃の額に手のひらを押しあてる。 「気分は?」 「あ、大丈夫です。ありがとうございます」 信用はまったくないらしい。 祐はじっと顔を見つめたまま、手首を探り、脈を取る。 その行動のほうが、大丈夫じゃないんですが。 「体温測りますねー、とか事前にないんですか。いっつもいきなり…」 「仕事でもないのに、なんで」 改める気はないらしい。 *** 薄々感じてはいたが、やはり彼は寝起きが悪い。 リビングのソファで寝ていたのに、夜中にトイレに起きたあと当た

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