フマジメ早朝会議 ㉔本気のプレゼン 連載恋愛小説
脱退するのに許可がいるなんて、聞いていなかった。
あくまでゆるい集まりのはずではなかったのか。
"緊急招集ヲ命ズ
隊員番号2525・栗林恭可ニヨル除隊希望二ツイテ、軍法会議ヲ行ウ
全隊員、タダチ二本拠地へ出動スベシ
文具研究会第五師団 団長 椿野 広大”
広大から暑苦しいメッセージが届き、恭可はスマホを投げ捨てようかと思った。
皆に迷惑をかけてしまったのは事実なので、指定された時間にしかたなくトモシビのドアを開ける。
マスターがカウンターにいないのが、最初の違和感。
お客さんがひとりもいなくて、店をまちがえたのかと思った。
***
「紙の上でも追いかけてた気がする」
入り口付近の席に座っていたのは、数仁。
恭可はとっさに店の奥に逃げこんだ。
彼は立ち上がり、したり顔でドアのロックをかける。
「え?みんなは?」
ドアにもたれかかり、腕組み。開放する気はない意思表示のようだ。
数仁の差し金で偽メッセージが送られてきたとは。
少年の心を持っていたのは、広大ではなくこの人のほうだったらしい。
「シッポ落としましたよ?お嬢さん」
見ると、パンパンにふくらんだ愛用のペンケースが床にころがっていた。
恭可はそろりと近づき、受け取る。
***
「文字とか服とかピンポイントにしか興味持ってもらえないけど、本体はどうですか」
「その件につきましては、いちど社に戻って上と相談を…」
「フリーですよね。いろんな意味で」
手帳にデートの痕跡がなにひとつない、と指摘される。
いわゆるライフログは、レシートや映画の半券も貼って記録する手帳術。
アルバムのように思い返せて楽しいが、その反面、見られれば行動がまるわかりだ。
***
疑惑が噴出し、不安要素だらけだった人物。
今、その本人がひとうひとつぶしていくと言う。
投資がギャンブルではない説明資料を示され、プレゼンされた。
「あ…もういいです。ふんわりとわかりました」
長期的視野で運用中と語る数仁をさえぎり、強制終了。
数字アレルギーにとっては、いっぱいいっぱいである。
営業職だと言った覚えはないのに広大が早とちりし「なんとなくそのままにしていた」というのが真相とのこと。
「浮気はされるほうかな」
なにごとにも反応が薄いので、恋人は不満を募らせ爆発することが多かったそうだ。
1日に何度も連絡をとろうとする生産性の低さに、引く。
合理的な考えかたが彼らしくて、不覚にも恭可は笑ってしまった。
(つづく)
▷次回、第25話「束縛オンナの告白」の巻。
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