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フマジメ早朝会議 ⒛色は癒やす 連載恋愛小説

そこは専門のネイルサロンではなく、美容院の中にある「お店の中のお店」といった風情。
おそらく、順番待ちの客が利用できるようになっているのだろう。
初期費用がぐんと抑えられそうだし、やり手のネイリストだなと期待が高まる。

内装は真っ白で、清潔感にあふれている。
ゴールドと水色の差し色がさりげなく配され、センスの片鱗へんりんをうかがわせる。
もともとネイル好きの恭可は、うきうきキョロキョロとお店を観察した。

***

「お待ちしておりました。大城朝香さんのご紹介ですね?」
現れたのは、デパ地下の美容部員も逃げ出しそうな美人さん。
キラキラと鱗粉りんぷんが舞っているようだ。
「お肌きれー…あ。ですね」
聞いていたとおりのかただと、彼女は上品にほほえむ。

何を吹き込まれたのかと一瞬ひやりとしたが、「いつもニコニコしてかわいらしい」というほめ言葉だった。
恭可は、心の中で朝香を拝む。

***

ふだんのお手入れの状況や今回のネイルの希望など、事前にヒアリングがあった。
「あの!その前に、これ見てもいいですか?」
お店に一歩入ったとたんにきゅんときた、ネイルカラーのレインボー。
ホワイトの棚に整然と、美しいボトルが並んでいるのだ。
自然光ではなく、宝石店のような間接照明つきで。
ほへ~と変な声が出そうになるのをこらえながら、恭可はかぶりつきで堪能する。

「色がお好きなんですね」
何色が好きかとよく聞かれるが、あれはマジでやめてほしい。
世の中に存在するすべての色をめでています、と宣言したいくらいだ。
微細なラメ入りのシリーズに目がとまる。
「角度が変わると表情に変化が出て、おすすめです」
間髪を入れずコメントを添えるネイリスト・塩崎真麻。

***

向かいあってやさしくひじまでマッサージされていると、初対面なのについグチがこぼれる。
「絶望的に(男)運が悪くて…どうしようかと」
薬指にラッキーモチーフをのせてみてはどうかと、心躍る提案が。
ぜひ!と恭可は上体を乗り出しおでこをコッツンしそうになり、笑われてしまった。

幸運のシンボルといっても、四つ葉のクローバーだけではないらしい。
王冠・蹄鉄ていてつ・テントウムシ・カエル・フクロウetc.
真麻が見せてくれたサンプルの一覧は、どれもすてきで目移りする。
ウンウン悩んで恭可が選んだのは、「飛躍」「運気向上」を意味するフェザー/羽根。これを右手に。
左手の薬指には、「心の扉」「絆」を連想させるカギのモチーフを。

(つづく)
▷次回、第21話「光へのあこがれ」の巻。


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