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日本の高い自殺率は「格差の拡大」ではなく「日本的経営」が原因だった? #5 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法

ワーキングプア、無縁社会、孤独死、引きこもり、自殺者年間3万人超。世界はとてつもなく残酷だ。しかし「やればできる」という自己啓発では、この残酷な世界を生き延びることはできない……!

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日本の自殺率は世界トップクラス


日本では九〇年代後半以降、年間三万人を超えるひとたちが自殺しており、人口一〇万人あたりの自殺率は旧ソ連圏とならんで世界トップクラスだ。

その原因は「新自由主義による貧富の格差の拡大」とされるが、ぼくはずっとこの説明が不満だった。“市場原理主義”の本家であるアメリカの自殺率は、日本の半分以下しかないからだ(日本の自殺率二五に対し、アメリカ、カナダ、オーストラリアは一〇、イギリスは五)。
 
だが日本的経営の「神話」から自由になって、“悲劇”の原因がようやく見えてきた。

高度成長期のサラリーマンは、昇給や昇進、退職金や企業年金、接待交際費や福利厚生などのフリンジベネフィット(付加給付)によって大嫌いな仕事になんとか耐えていた。
 
ところが「失われた二十年」でそうしたポジティブな側面(希望)があらかた失われてしまうと、後には絶望だけしか残らない。このグロテスクな現実こそが、日本的経営の純化した姿なのだ。
 
小池は、これも「常識」に反して、日本の会社では米国よりもはるかに厳しい社内競争が行なわれていると述べる。
 
日本の会社は、社員という共同体(コミュニティ)によって構成されている。そこでの人事は、経営者や人事部が一方的に決めるのではなく、「あいつは仕事ができる」という社員コミュニティの評判によっている
 
日本企業が社員を極力平等に扱い、昇給の際のわずかなちがいによって評価を伝えるのは、「評判獲得ゲーム」が金銭の介在によって機能しなくなることに気づいているからだ(これが成果主義が嫌われる理由だ)。

中高年サラリーマンはこうして絶望する


米国型の人事制度は地位や職階で業務の分担が決まるから、競争のルールがはっきりしている。頂点を目指すのも、競争から降りるのも本人の自由だ。

それに対して上司や部下や同僚たちの評判を獲得しなければ出世できない日本型の人事制度は、はるかに過酷な競争を社員に強いる。この仕組みがあるからこそ、日本人はエコノミック・アニマルと呼ばれるほど必死で働いたのだ。
 
日本的雇用は、厳しい解雇規制によって制度的に支えられている。だがその代償として、日本のサラリーマンは、どれほど理不尽に思えても、転勤や転属・出向の人事を断ることができない。
 
日本の裁判所は解雇にはきわめて慎重だが、その反面、人事における会社の裁量を大幅に認めている(転勤が不当だと訴えてもほぼ確実に負ける)。解雇を制限している以上、限られた正社員で業務をやりくりするのは当然とされているのだ。
 
ムラ社会的な日本企業では、常にまわりの目を気にしながら曖昧な基準で競争し、大きな成果をあげても金銭的な報酬で報われることはない。会社を辞めると再就職の道は閉ざされているから、過酷なノルマと重圧にひたすら耐えるしかない。

「社畜」化は、日本的経営にもともと組み込まれたメカニズムなのだ。
 
このようにして、いまや既得権に守られているはずの中高年のサラリーマンが、過労死や自殺で次々と生命を失っていく。

この悲惨な現実を前にして、こころあるひとたちは声をからして市場原理主義を非難し、古きよき雇用制度を守ろうとする。しかし皮肉なことに、それによってますます自殺者は増えていく
 
彼らの絶望は、時代に適応できなくなった日本的経営そのものからもたらされているのだ。

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残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法


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