デザインする前にプレゼンしよう…大切なのは「どれだけ言語化できているか」 #3 勝てるデザイン
元・任天堂のデザイナーで、現在はオンラインコミュニティ「前田デザイン室」代表として活躍中の前田高志さん。そんな前田さんの著書『勝てるデザイン』は、「Illustrator時短術」「おすすめフォント3選」などデザイナー必見のテクニックはもちろん、「ダサいデザインはなぜ生まれるのか」「プレゼンはラブレター」など、デザインを武器にしたいビジネスパーソンにも役立つ内容。そうそうたる著名人からも称賛の声が届いた本書より、一部を抜粋してご紹介します。
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デザインは考えた量に質が比例する
大学や専門学校で講師をしていた時のことです。
作ったもののプレゼンをしてもらおうとすると、大半が嫌がって「何を話していいかわからない」と言います。そしていざプレゼンが始まると、ただ完成したものの見た目だけを説明する学生がほとんどでした。でもそれは、作品を見たらある程度わかることです。だから僕は学生に、
「プレゼンで話すことは、『なぜそうしたか』。その作品を作るに至った背景とか経緯を語ろう」
と言いました。想像してみてください。
今、あなたがやっているデザインを、あなたはどれだけ語れますか?
語ることがないというのは、背景や経緯がないということです。もちろん0じゃないとは思いますが、狙いが漠然としていて、なんとなく、で作っているのでしょう。
だから語ることができない。
クリエイティブは考えた量に質が比例します。なんとなく作る、ではダメなのです。
そこで僕は、
「作る前に誰かにプレゼンするつもりでものづくりするといい」
「デザインする前にプレゼン資料を作ろう」
そう学生たちにアドバイスしました。問題がこう、現状はこう、だからこういう考えに至り、こういう作品を作りました。そこまで考えて語れるようにしなさいと。スピードも質も上がるからです。
ちなみに僕がデザインに取り掛かる場合、まずはAdobe Illustratorを開き、対象となるデザインに関するキーワードを羅列していきます。いきなりスケッチブックなどに手書きでラフを書いていくことはあまりしません。これはもう好みの問題ですし、何が正解とかじゃないのですが。
そうして書いていったものはぐちゃぐちゃなメモですが、言語化しているので、プレゼン資料を作っているようなものです。
そうやって情報を整理しビジュアル化していくようにしています。
デザインする前にプレゼンしよう
僕は昔からこういう習慣が身についているので、プレゼン自体は割と好きなのですが、しゃべることはものすごく苦手です。昔は特にひどかった。任天堂時代、プレゼンで本当に「あわわわわ……」と口ごもったこともあります。漫画みたいな話だけれど本当の話です。どれだけひどかったかがおわかりいただけるかと思います。
僕の場合、考えずに作っていたわけではありませんが、頭の中で考えていただけで言語化ができていなかったのです。ビジュアルだけ思いついても、言葉にすることができていなかった。
ですから、深く考えるのはもちろんのことだけれど、それをきちんと言葉にしておくのは大事です。この点で、プレゼンを先にするつもりで作る、というのは非常に良い意識づけです。
アマゾンでは、何か新しい企画を生み出す際、まずはプレスリリースを書くらしいです。そのプロダクトがどういったもので、なぜ存在する必要があるのかをまず書く。プロジェクトを進めるに値するかどうかの判断基準にもなるのでしょう。
もう一つ例を挙げます。
オンラインコミュニティ「前田デザイン室」では、プロダクトを作る時の資金調達にクラウドファンディングを使うことが多い。ですからプロジェクトの開始時点でクラウドファンディングのプロジェクトページを作る必要があるわけですが、これがかなり大事な工程なのです。
それはプロジェクトの設計図になっているからです。プロジェクトは規模によってまちまちですが、100万円を超える調達が必要な時もあります。そして、コミュニティでものを作るのですから、100名を超えるメンバーで一つのものを作ることもある。
そんな時、我々はなぜこれを作ることにしたのか? どうやって作るのか? 作ったらどう展開し、それによって社会にどういう効果をもたらすのか? いわゆる5W1Hに関することをしっかりと言語化します。メンバー間でも意識の共有がしやすいし、資金調達をするわけだから、当然支援してくれる人にも伝わりやすい。
デザイナーは最終的に成果物で勝負するわけですから、色々と語ったところで、いつもそれを聞いてもらえるわけではありません。
とはいえ、プレゼンできるくらいの背景や経緯がしっかりと込められているものじゃないと、浅く、うわべだけのデザインになってしまいます。それは透けて見えます。
だからこそ、先にプレゼンすることを想定しながら作ってみてはいかがでしょうか。
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