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【映画日記】『マンティコア 怪物』『ペナルティループ』『マリウポリの20日間』

2024年4月30日(日)

今年のゴールデンウィークは会社の休みがかなり長い。とはいえ,水曜日と木曜日は祝日に当たらないので,大学は休みではない。私のパートナーが転勤して,基本土日がお休みになったので,とりあえず,ゴールデンウィーク前半に一本映画を観させてもらうことになった。

立川キノシネマ 『マンティコア 怪物』
選んだのはスペイン映画。ゲーム会社のキャラクターデザインを担当している3Dコンピュータ・グラフィック・デザイナーの男性が主人公。自宅で作業をしていることが多いが,マンションの隣室でボヤがあり,一人で閉じ込められてしまっていた子どもを救出するところから物語は進展する。これまで一人として恋人はいなかったという主人公だが,ふとした気まぐれで救出した男児に惹かれ,普段はモンスター・キャラクターを作成している会社のソフトを使ってVRで男児の複製を作ってしまう。一方,急速に仲を深めた女性がいて,もうすでにデータも削除したそのVR男児のことは忘れてしまうが,会社に呼び出されて,という展開。
副題に「怪物」とある割には,衝撃的な内容は少なかったように感じた。むしろ,終盤で八方ふさがりになってしまった主人公の行動が唐突に思え,あまり理解できなかったし,また男性に対する女性の反応も少し分からなかった。人間の不可思議という理解でよいのか。

 
2024年5月1日(水)

新宿武蔵野館 『ペナルティループ』
前作である長編デビュー作『人数の町』で度肝を抜かれた荒木伸二監督作品第二段。予告編を観る限りでは面白い設定だが,それで2時間持つのかという素朴な疑問もあり,なかなか観る機会を作れないでいたが,パートナーが主演の若葉竜也が好きだということで,観る機会を作ってもらった。ちなみに私は山下リオさんが好きだが,予告編を観た限りでは冒頭で殺されてしまい,あまり出番がなさそうという感じもしていた。この日は高田馬場で14:50に授業が終り,その後新宿の献血ルームで全血400ml献血を予約していたものの,19:05からの映画までにはかなり時間があった。新宿で一人で時間をつぶすということがこんなに苦痛になるとは思わず,かなり疲れての鑑賞になったが,疲れも吹き飛ばす内容で,大満足だった。
ネタバレになってしまいますが,公開が3月22日からだったので,もういいですかね。設定としては,犯罪被害者遺族に対して,民間団体が提供する立ち直りのプログラム。それはVRで何度も加害者に復讐をするというもの。復讐を何度も強制させられることで馬鹿らしくなってしまうというのが一点。二点目は加害者との間に何らかのシンパシーが生まれ,加害の動機についても一定の理解にたどり着くということ。ちなみに,本作での加害者役は伊勢谷友介。今回はとてもいい役どころです。その経験を通じて被害者に対する理解がさらに深まるという仕組みになっている。もちろん,本作で描かれるのは一つの事例であり,全ての場合にこのプログラムがうまくいくかどうかは分からないのだが,VRの製作者が,VR上での出来事の展開をある程度操作するのかもしれない。ただいずれにせよ,多くの経験を積まないとより優れたプログラムにはならないような気もする。荒木監督の作品は前作も今作も,観終わった感じがいいんですよね。始まりは社会や人間に対する否定的な感情からなのですが,最後にはすがすがしい気持ちになります。

 
2024年5月7日(火)

立川キノシネマ 『マリウポリの20日間』
立川キノシネマは3スクリーンあるが,そのうち一つは贅沢シート。全部で6列くらいしかないんだけど,そのうち2列が特別料金。ちょっと座席が少なすぎます。しかも,会員がスマホ登録になってしまって,私が入れるのは半年有効の紙の会員証。当日窓口で受け付けしないと割引されない。当日受付に行くと,特別料金席以外は2席しか空いておらず,しかも最後列しか空いてなかったが,やむを得ず購入(いつもはほとんど最前列)。
このドキュメンタリー映画は,2022年2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから,ウクライナ東南部に位置する都市マリウポリで20日間取材を続けた一人の記者(単独ではないようだが)による記録映像。現在,ウクライナ戦争の戦況は日本にあまり伝わってこなくなってしまったが,この戦争で日本に住む私にも知られるようになったこのマリウポリという都市は,この20日間だけで2万人以上の死者を出したというのは今更ながら驚くべきことである。そして,ガザの惨状にはそれなりに注意を払っている私でも,現在のマリウポリがどうなっているかは知らない。その後,この戦争は2年以上続いていて,ウクライナの抗戦がそれなりにロシア軍を押しとどめていて,どちらの軍も疲弊しながら諸外国の支援を受けながら続いているということは知っていたが,マリウポリはどうなったのだろうか。
2年前のマリウポリで起こっていたこともまさしくジェノサイドだ。少なくともこの街では,ロシア軍とウクライナ軍は全くの不均衡である。ウクライナ兵士はごくわずかな民間人を守ることくらいしかできておらず,ロシア軍はミサイルと戦闘機からの空爆で無差別的に,あるいは意図的に病院や大学を狙うこともある,という具合に街を破壊し,その後戦車で侵攻し,近距離の地上からも砲撃をする。この街で何が起こっているのか,街の外に知らせないためにネットを遮断する。この映画の監督は密かに映像を撮りため,街に一ヵ所しかない(徐々に少なくなっていった)ネットがつながるスポットへ行き,映像を断片化して送付していたという。それらはAP通信社から全世界へと流されたが,ある時からはそれがフェイクニュースだというロシア側からのある種のサイバー攻撃をかけられる。そのようにして出来上がった映画。戦争なんて意味がないとは以前から思ってはいたが,本当に無意味さを感じるどころか人類が築き上げてきたものを無化し後退させるものでしかないと強く感じさせる映画鑑賞だった。


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