成瀬 厚

成瀬 厚

最近の記事

【読書日記】松田青子『持続可能な魂の利用』

松田青子(2023):『持続可能な魂の利用』中央公論新社,273p.,760円. 『おばちゃんたちのいるところ』に続いて,松田青子の作品を私が読むのは2作目。なお,私が手にしているのは中公文庫であり,単行本は2020年5月に刊行されている。この文庫版にはエトセトラブックスの松尾亜紀子さんが解説を寄せている。久し振りの成分献血に出かけたが,持参した本が読み終わりそうだったので,近くの書店で購入。ほぼ,献血の間に読み終えた。『おばちゃんたちのいるところ』は短編集みたいなものだっ

    • 【読書日記】小山さんノートワークショップ編『小山さんノート』

      小山さんノートワークショップ編(2023):『小山さんノート』エトセトラブックス,286p.,2,400円. 以前,『地理科学』で雑誌『エトセトラ』のVol.7の書評を書いた。そこでは,本書の一部とそのワークショップの様子が報じられ,本書刊行の予告もされていた。ということで,翌年に刊行された本書をようやく読むことができた。 はじめに――小山さんノートとワークショップ:登 久希子 小山さんが生きようとしたこと:いちむらみさこ 小山さんノート  序章 1991年1月5日~2

      • 【読書日記】宇佐美久美子『アフリカ史の意味』

        宇佐美久美子(1996):『アフリカ史の意味』山川出版社,82p.,729円. 先日もイスラーム史の入門書を紹介したが,イスラームに関しては,たまたまアブー=ルゴド『ヨーロッパ覇権以前』を読んだから多少の知識を得たが,私は元来一般常識を有しない人間。アフリカに関してはまさに本書の対象読者と同様に,ほとんど何も知らない。長年田沼武能氏の研究をしてきたが,田沼氏が黒柳徹子氏のユニセフ親善大使としてのアフリカ訪問に同行しているのに,アフリカの理解はできていない。本書は山川出版社

        • 【映画日記】『アダミアニ 祈りの谷』『ヤジと民主主義』『PERFECT DAYS』

          2023年12月4日(月) 立川キノシネマ 『アダミアニ 祈りの谷』 ジョージアのドキュメンタリー映画。少し日が経ってしまい,正確なところは覚えていないが,主人公が住む町,表題にある谷であるパンキシ渓谷は,チェチェン紛争から逃れてきたキストと呼ばれる人たちが住み着いた過去がある。単なる戦争避難民だけでなく,戦闘員も多く身を潜めていたという。イスラーム教徒であるかれらたちは,シリアにあるイスラーム過激派組織との関りを持ち,この渓谷はチェチェンを抑圧していたロシアから「テロリスト

        【読書日記】松田青子『持続可能な魂の利用』

          【短編小説】ぼくの町のスパイはまちづくり特使

          ぼくの町のスパイはまちづくり特使 成瀬 厚  ぼくの通った保育園の隣には、ぼくの通っている小学校がある。小さな川を隔てた向こうには、これから通うことになる中学校があり、そのまた隣には三年生まで通った学童クラブがある。本当のことを言えばよく覚えていないけど、ぼくが二歳の時にぼくの家族はこの町に引っ越してきた。お父さんは「ひせいきこよう」だとかいって、市立の保育園にすぐに通うことはできなかったらしい。お母さんが勤める会社にある託児所というところに毎日連れていかれた。ちなみに、

          【短編小説】ぼくの町のスパイはまちづくり特使

          【読書日記】ジョニー・シーガー著『女性の世界地図』

          ジョニー・シーガー著,中澤高志・大城直樹・荒又美陽・中川秀一・三浦尚子訳(2020):『女性の世界地図――女たちの経験・現在地・これから』明石書店,212p.,3,200円. この本の話題になった時,訳者の一人である荒又さんから「読みますか?読むのであれば差し上げます。」と言われ,この本の編集担当者が,荒又さんと私も翻訳に関わった本と同じ人だったので,後日その方から送られてきた。もう3年が経過してしまったが,ようやく読みました。 というのも,現在非常勤先の授業で,原書房の

          【読書日記】ジョニー・シーガー著『女性の世界地図』

          【読書日記】栗原 康『アナキズム』

          栗原 康(2018):『アナキズム――一丸となってバラバラに生きろ』岩波書店,261p.,860円. アナキズムには以前から興味があった。ロシアのクロポトキンやフランスのルクリュというアナキストが地理学者でもあったというのが具体的なきっかけではあるが,そもそも「無政府主義」と訳されるその語感の響きになぜか憧れを持っていた。特に今,この国の政府は滅茶苦茶である。米国や財界従属という,強いものに逆らえないという,親分には逆らえないので子分をいじめる的な構図は理解できないでもな

          【読書日記】栗原 康『アナキズム』

          『空間・社会・歴史』

          私は大学に属さない在野の地理学者と自称していて,それなりに論文を発表してきています。私と同じように,大学院時代はそれなりに論文を書いて,研究者として活躍していたものの,大学に職を得ることができずに,研究者の道を去っていった知人も少なくありません。 太田茂徳さんは私と同じように,大学に職を得ることができなかった地理学者です。一時期は出身大学の富山大学で非常勤講師をされていたようですが,今は民間企業(?)で働きながら研究活動を続けられているようです。私も同じような境遇ではあります

          『空間・社会・歴史』

          【映画日記】『プリキュアオールスターズF』『オオカミの家』『バーナデット ママは行方不明』

          2023年9月23日(土) 府中TOHOシネマズ 『プリキュアオールスターズF』 プリキュア映画はここでも何度か紹介しているように,娘と何度か観に行っている。そこでも説明しているが,毎回観ているわけでもなければ,娘がプリキュア大好きなわけでもない。でも,何となく映画館の入場特典でもらえるライトは欲しいようで,今回は観ることになった。 やはり客席の年齢は若く,騒がしい雰囲気はなんだか懐かしさを感じる。今回は,オールスターということで,メインとなるプリキュアもこれといってなく,

          【映画日記】『プリキュアオールスターズF』『オオカミの家』『バーナデット ママは行方不明』

          【映画日記】『マイ・エレメント』『シン・ちむどんどん』

          2023年8月20日(日) 府中TOHOシネマズ 『マイ・エレメント』 基本的に3DCGのアニメはあまり好きではないので,この作品もあまり観る気はなかったが,夏休みも終盤になって子どもたちと過ごすイベントのレパートリーに困ってきたところ。以前は娘はこの作品にそれほど興味を示していなかったが,急に観たいといってきたので,気は乗らないが観ることにした。 すると,思っていたのとは異なり,娘よりも私自身が引き込まれる作品だった。エレメントがかつての四大要素であることは予告編で分かって

          【映画日記】『マイ・エレメント』『シン・ちむどんどん』

          【読書日記】安田浩一・金井真紀『戦争とバスタオル』

          安田浩一・金井真紀(2021):『戦争とバスタオル』亜紀書房,373p.,1,700円. 本書は,YouTube番組「NoHateTV」でおなじみのノンフィクションライター安田浩一さんと,難民フェスを主宰し,入管法問題ですっかり話題になったイラストレーターの金井真紀さんによる共著。実は,私自身金井真紀さんを知ったのは本書を通じてだった。デモクラシータイムスのYouTube番組で,「池田香代子の世界を変える100人の働き人」というのがあるが,そこで本書が取り上げられ,著

          【読書日記】安田浩一・金井真紀『戦争とバスタオル』

          【映画日記】『青いカフタンの仕立て屋』『怪物』『インスペクション』

          2023年7月26日(水) なぜか,たまたま今回観た3本の映画はいずれも男性同士の同性愛を描く映画であり,いずれもネタバレ的な解説・感想を書いていますので,ご注意ください。 吉祥寺アップリンク 『青いカフタンの仕立て屋』 モロッコ映画。夫婦で営む一軒の仕立て屋で,若い見習い男性が働いている。実は妻が乳がんを患い,体調が安定していない。見習いにも早く一人前になってほしいのだが,次々と辞めては新しい人を雇うの繰り返し。ただ,今回の人は熱心に学びながら働いていて希望が持てる。し

          【映画日記】『青いカフタンの仕立て屋』『怪物』『インスペクション』

          【エンタメ日記】『山女』,田沼武能写真展,高麗博物館,『劇場版Re: STARS』

          2023年7月15日(土) この日は午前中の支部会議が長引き,観る予定だった映画に間に合うかどうかやきもきしながら電車に乗る。新宿の武蔵野館で上映している『クロース』は完全に間に合わないので,明大前で井の頭線に乗り換えて次の候補であった渋谷に急ぐ。駅に着いてから上映開始まで10分ほどしかないが,急いでみる。 渋谷ユーロスペース 『山女』 元々の予定で恵比寿の東京都写真美術館に行くつもりだったので,都心でなくては観られない作品を選んで,時間と場所でちょうどよかったのがこの作

          【エンタメ日記】『山女』,田沼武能写真展,高麗博物館,『劇場版Re: STARS』

          【読書日記】阿部 潔『シニカルな祭典――東京2020オリンピックが映す現代日本』

          阿部 潔(2023):『シニカルな祭典――東京2020オリンピックが映す現代日本』晃洋書房,176p.,2,000円. 2020年の4月に発行された前著『東京オリンピックの社会学』に次いで著者から送られてきた本書。前著が本来の東京2020オリンピック開催の直前に発表された,いわゆる事前分析だったのに対し,本書は1年大会延期後,2021年7月に実際に開催された東京2020オリンピックに関する事後分析。前著は中止になった1940年大会と実施された1964年大会にもページを割い

          【読書日記】阿部 潔『シニカルな祭典――東京2020オリンピックが映す現代日本』

          【映画日記】『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』『1秒先の彼』

          2023年6月24日(土) 府中TOHOシネマズ 『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』 私が沿線に住む京王電鉄で盛んに宣伝していた作品。駅にポスターが貼ってあったので,何気なく見ていたら,美波さんが出演していると知り,観に行った次第。まあ,ルーヴルがタイトルにあるので,フランスでのロケがあり,フランス在住の美波さんが出演しているのは納得。荒木飛呂彦原作ということで,ヴィジュアルにはかなり凝っているという意味では楽しめる作品だった。訳ありな感じで,ルーヴルのスタッフを演じる美波さんの存

          【映画日記】『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』『青春ブタ野郎はおでかけシスターの夢を見ない』『1秒先の彼』

          【読書日記】渡辺憲司『江戸の岡場所』

          渡辺憲司(2023):『江戸の岡場所――非合法〈穏売女〉の世界』星海社,302p.,1,400円. ある書店でふと見つけ,買わずにいられなかった。私は研究者を志した30年前から「場所」なる概念にこだわってきた。英語圏の地理学でplaceなる概念に関する議論が展開されていて,そこに関心を持っていたからである。しかし,その訳語としての「場所」という概念が思ったよりも厄介であるという思いをずっと抱いていた。その地理学によるplace論の一部は,日本語の「居場所」という概念に対応

          【読書日記】渡辺憲司『江戸の岡場所』