見出し画像

『刑務所のルールブック』と理想を見せてくれるということ

韓国ドラマは大きく分けて2つのタイプがあると思う。

1話目からハマるドラマと2話まで我慢して視聴すれば3話目からハマれるドラマだ。

後者の作品は1話、2話で見ていられないほどの苦しい出来事が主人公を襲う。3話でやっと小さな希望が見え始める。しかし、この3話にたどり着く前に挫折して視聴を中断することが多い。

だからこそ、この手のドラマを他人に紹介するとき、「2話まで我慢して見て!その後は面白いから!」と言うしかないのだ。


ドラマ『刑務所のルールブック』は、まさに「2話まで我慢」の作品に当てはまる。

主人公「ジェヒョク」を演じるのは、昨年世界的大ヒットとなった『イカゲーム』で主役の幼なじみを演じた俳優「パク・ヘス」さんだ。

ジェヒョクは韓国プロ野球界の名投手でメジャー行きを控える中、妹が男に襲われる場面に遭遇。犯人を追いかけた末に重傷を負わせてしまう。

裁判では正当防衛が認められると誰もが思っていたが、判決は1年の実刑。韓国のスター選手が不運により受刑者となり、刑務所での生活が始まることになる。


『刑務所のルールブック』の原題は『賢い監房生活』。そう、韓国ドラマ好きならご存じの『賢い医師生活』と同じシン・ウォンホ監督が演出を務めている。シン・ウォンホ監督は韓国ドラマ界に革命を巻き起こした『応答せよシリーズ』も手掛けた方だ。

彼の作品が大好きな私だが、『刑務所のルールブック』には手を出せなかった。余りにも理不尽なストーリー展開、舞台は有象無象が集まる刑務所、明らかに不穏な空気のポスター。しかし、次に見る韓国ドラマが見つからない中で重い指を延ばして視聴を始めた。


1話、2話までは本当に重苦しい内容だった。では、なぜ私が3話までたどり着けたのか。それはひとえにジェヒョクの人間性にある。

ジェヒョクは野球以外は何もできない、口数が少なく、ややぼんやりとした男だ。何を考えているかもよくわからない。しかし、彼にはピンチを切り抜けるだけの知恵と情の厚さがあった。その2つに引っ張られて3話にたどり着いた。


3話からはジェヒョクと生活を共にする愉快な受刑者たちが登場する。受刑者なのに「愉快」というのはいささか変だが、彼らが与えてくれる笑いにほっとして楽しんで視聴できるようになった。

とはいえ、ここは刑務所。受刑者たちの過去や罪を犯すに至った経緯が回想シーンとして差し込まれ、それはとても苦い。また、ジェヒョクを目の敵にする一部の輩からは何度も危険な目に遭わされる。

しかし、さすがのシン・ウォンホ監督。苦しいシーンを長々と続けることはないため最後まで見ることができた。


刑務所に入った理由は人それぞれだ。全員が極悪人ということではない。家族のために大金が必要で罪を重ねる者、偶然が重なって罪を犯してしまった者、罪を被せられた者…。

「彼らと私は違う」と言うのは簡単だが、果たしてそうだろうかと考えさせられる。生まれ持った性格、育った環境、職場の環境、家族、人間関係、そして「タイミング」。すべてが掛け合わさって起きた罪も存在するだろう。


シン・ウォンホ監督の作品を見ると、登場人物たちの優しさにいつもハッとする。相手の立場に立てることに、相手が本当に必要とする言葉をかけられることに、自分のことは後回しで相手に手を差し伸べられることに、負担にならない優しさを与えられることに。

心が狭く、自分のことで頭がいっぱいの私にとっては、その優しさに感心すると同時に恥ずかしさも感じる。

シン・ウォンホ監督は「世界の全ての人が良い人であってほしい」という信念のもとドラマを制作しているそうだ。彼のドラマを見ていると、「良い人」であることは幸せなことだと感じる。理想の世界に過ぎないかもしれないが、理想を見せてくれるのはありがたいことなのだ。


韓国ドラマ好きが言ってほしい言葉、私的第1位は「おすすめの韓国ドラマはある?」だ。

私は友人が少なく、知人と呼べる人もほとんどいない。そのため、この言葉を聞いたのは人生で2回ほど。

だから、ここまで読んでくださったあなたへ、勝手ながら『刑務所のルールブック』をおすすめの韓国ドラマとして提案させていただけないだろうか。

刑務所を舞台に登場人物はほぼ男性、ラブ要素はサブ的。韓国ドラマと言えば、「交通事故・記憶喪失・実は兄妹・恋愛」がすべてと思って敬遠している方こそはまるかもしれない。

「初めて見た韓国ドラマは刑務所のルールブックです」と言えるのは、ちょっとカッコいい感じがする。

私にはもう叶わぬ夢なのが少し残念だ。















この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?