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自分の「売り」が分からないのに、自分を「売る」のは無理ゲーである

「自分の売りは何ですか?」と聞かれて即答できる人は、決して多くはない。就職活動中の学生ですら、全員が全員答えられない。しかし、これがいわゆる“芸能人”だと話は別で、基本的に即答できる。

なぜ芸能人は「自分の売り」が即答できるのだろうか。

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仕事柄、芸能人へのインタビューをすることが多い。事前リサーチはしているし、その人の“売り”を知らずして取材などできるわけがないが、敢えて相手に「自分の売りは何ですか?」と聞く。

なぜかといえば、1つは自分が思っている「売り」と相手が考える「売り」の答え合わせ。芸能人は、イメージ商売なので、相手が考えるものと齟齬があるとよろしくない。こちらが「かわいい」を売りだと思っていたのに、相手は「大人な女性に転換中」だった場合、あまり「かわいい」を前面に押し出さないのが得策だ。こうしたことがあるので、聞く。

そしてもう1つの理由が、相手の”おもしろさ”を測るためだ。「自分の売りは何ですか?」に対して、明らかに誰かが用意したであろう言葉で返すのか、自分の言葉で返すのか、はたまた想像もしてなかった答えが出てくるのか、これによってその人の“おもしろさ”が分かる。

明らかに誰かが用意したであろうものなら、その人はその枠から出ることもないだろうし、自分の言葉で返すのであれば、インタビューも自分の言葉が期待できるし、想像もしてなかった言葉が出てきたときは、インタビューとしてはさらにエキサイティングが期待できる。

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では、なぜ芸能人が自分の”売り”を即答できるのか。それは、自分が売っている商材が「自分」だからだ。

たとえば、知らないレストランに入ったとしよう。何を頼もうかと悩んだ時に「おすすめはどれですか?」と聞くことは珍しくない。例えばそれがうどん屋だとしたら「うちは大きなかき揚げが自慢なので、かき揚げうどんがおすすめです」なんて答えるかもしれない。客側にいた場合、こういう風にズバッといわれると「美味しそう! それください」となる。

しかし「どれもおすすめですよ、、、」なんて言われたら、萎えてしまう。そんなのわかっているが、それでもお店の一番の「売り」を聞きたいのだ。とにもかくにも、商売をしているなら聞かれて即答できる「売り」は大事なのだ。

もし飲食店なのに「トイレが世界一キレイ」を”売り”にしていたら、それは明らかに方向性が違う。飲食店でトイレがキレイなのはとても重要だが、そこを”売り”にする前に、飲食メニューの”売り”ができるように頑張れと言いたい。

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芸能人が、自分の”売り”を即答できるのは、自分が商材であるから。この”売り”が正しく機能してないと、売れるわけがない。最近は個人のフリーランスでやっている人も増えてきたが、多くは芸能事務所に所属していて、事務所側はその”売り“を、大きくアピールして、より売り出すようにする。そして“売り”がないような人は、売りようがないので、売れることはほぼない。

そりゃそうだ。もし自分が一念発起して全額貯金を投資した芸能事務所をはじめたとして、所属したいと言ってきたタレントの卵が、“売り”がなかったら、事務所に所属させるのかということだ。

インディーズのアイドルあたりだと「私の売りは誰にも負けない元気な笑顔です!」なんていう人もいるが、笑顔選手権で世界一になったわけでもなければ、その指標は曖昧すぎるし、笑顔なんてマクドナルドにいけばタダでもらえる。そして、そんなウリ文句で「この子は将来、からなず売れる!」とは中々考えにくい。

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なんでこんな話を始めたかというと、キッカケはとある駆け出しのYouTuberを見たことだ。いわゆるコンビでチャンネルを作っているのだが、彼らが自分たちの”売り”を理解してないなと思ったからである。

水溜りボンドやおるたなチャンネルなど、自分が好きなYouTuberにもコンビは多い。コンビには、コンビならではのメリットがある。よくあるのは、仕掛ける&仕掛けられるに分かれられるからこそできるドッキリ企画や、ゲーム対戦企画などがあるだろうか。2人とはいわず、フィッシャーズのようなグループ系でもこの手の企画は多い。

そして2人だとできるチャレンジも少なくない。例えば大食いチャレンジでも1人より2人がインパクトが増す。1人で牛丼5kgを食べるより、2人で牛丼8kgを食べるほうが、1人あたまの量は4kgと少なくなるのに、サムネイルの写真、テキストに踊る数字と、インパクトは増す。実際に、大食い系のYouTuberでも、敢えてコラボにすることで、ありえないような量や金額になり、大きなインパクトを与えているケースが目立つ。

さて駆け出しのYouTuberたちの話に戻るのだが、彼らは1人でもできるようなことを2人でやったり、2人だからこそインパクトが増すような仕掛けを全くと言っていいほどできていないのだ。それでなくても、誰でもやっているようなことばかりやっていてつまらないのに、さらに2人という利点を活かせていないので最悪と言ってもいい。

そして、当然のことながら自分たち個々の”売り”すらわかっていない。2人であるメリットがわからないようであれば、個々の”売り”もわからないのは仕方ないのかもしれない。彼らに「自分たちの売りは何ですか?」と聞いたら、恐らくこう答えるだろう。

「誰にも負けない元気な笑顔です!」

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