先日、この記事を拝見して、ものすごく同情してしまいました。それと同時に、わたしの恥ずべき過去を思い出しました。

振り込め詐欺。他人の話を聞くと、騙す側の手口があからさまなほどはっきり見えるから、なぜそんなのにひっかかちゃうんだろう？と疑問に思う人もいるかもしれません。でも、自分が当事者になったとき、驚くほど自然に相手の世界に引きずり込まれてしまうものです。

もうずいぶん前の話です。わたしは海外赴任をして中国にいました。

ある日、体調を崩して仕事を休み、家で静かに寝ていました。でも、そのうち眠ることに飽きて、パソコンを開けてメールチェックをしていたら、スカイプから届いたメールに目が留まりました。

いや、もう完全に振り込め詐欺ですよね？もし親や友達が、こんなメールを真に受けて、お金を振り込もうとしてたら秒で止めます。でも、なぜか、あのときのわたしには、それがわからなかったのです。

わたしは、一人暮らしの部屋の中で、「やったーー！！」と両手を挙げて喜びました。スカイプユーザーって何人いるのよ？その中でわたしが選ばれたの？すごいことじゃない？賞金額のゼロの数を、目を凝らして数えました。わー。

こうなっては、寝ている場合ではありません。わたしはすぐに服を着替え、振り込み先の情報を持って、最寄りのＡＴＭへ急ぎました。起き上がると、少し頭がふらっとします。でも、こんなふらつきは最早どうでもいい。わたしはこれから、大金を手にするのだ。わっはっは。

振り込み額がいくらだったかは覚えていません。まあまあな額だったはずです。当時のレートで日本円に換算すると、何万円かの額だったような気がします。

ＡＴＭの前に立ち、いざ振り込み。スクリーンを操作して、手続きを進めます。でも、なぜか忘れましたが、何かに引っかかって振り込みが完了できませんでした。

あれ、おかしいな。わたしは、連絡先としてメールに記載のあった電話番号に電話しました。振り込みたいけどできないことを伝えたのですが、とても対応が悪い。受け答えが明らかに面倒くさそうです。

でも、あの頃、そんなぞんざいな扱いを受けることは日常茶飯事で、すっかり慣れっこでしたから、わたしは怯まずに話を続けました。先方は、とりあえずもう一度やってみろとしか言いません。いや、何回かやってできなかったから電話してるんだけど。

仕方ないので、一旦電話を切り、もう一度試してみました。案の定、同じことをしているので、同じ問題が起きます。

私はもう一度電話をしました。振り込めないんだけど、とこちらも攻めの口調で挑みます。当時の中国では、思いどおりにいかないときは、いつも誰かと戦わねばなりませんでした。

ところが、今度は、こともあろうか、こちらが話している途中に電話を切られたのです。

「は？スカイプ、対応悪すぎへん？」

ここで、初めてハッとしました。まさか。さっと顔が青ざめるのがわかります。慌ててメールを確認して、全身が凍りました。

メールアドレスをよく見ると、「skype」から先が、アルファベットと数字がぐっちゃぐちゃに入り混じったデタラメだったのです。

「これ、スカイプちゃうわ…」

ええ、最初からスカイプなんかじゃなかったんです。詐欺グループも、外国人から何度も問い合わせの連絡がきて面倒臭くなったんでしょうね。ほかにやることがいろいろあったのでしょうし。

わたしはすべてを悟って、暫し茫然としました。ＡＴＭの前で立ち尽くす外国人。技術的な問題のために、振り込みが完了しなかったことは、幸い中の幸いでした。

それから、一息ついて、相変わらずふらつく足取りで、自分の部屋に戻りました。そして、その日は、おとなしく寝ました。

皆さんもお気をつけて…。

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