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着ぐるみの事情              ⑰ショー終了

2回目は心なしか、不安よりも楽しさが勝った。できたかどうかはわからないが、自分なりにやりたいことはできたという感じだった。ストイックに完璧にしたかったはずだが、そんなことよりめっちゃ楽しい!と思った。絶対ずっとやりたい!と思った。ショーが終わったのが残念だった。

難関の握手会と撮影会が終わり、MCの合図で会場のこどもたちが「バイバーイ!」と名残惜しそうに大きな声で言ってくれた。テントにハケた先輩たちが衣装を脱ぐと、みんな清々しい顔をして「おつかれさまー!」と笑い合う。少しのダメ出しはあれど、今日はこれで終わりだ。やっとホッとできる瞬間である。

しかしサッサと片付けなければフェリーの時間があるのでゆっくりもしていられない。ぶつを大きなプラダンの箱に、元詰め込まれていた通りに戻す。もちろん衣装は汗だくだが、仕方がない。濡れたまま畳み、衣装をビニール袋に入れる。大きな箱に入れる順は、底にブーツ、その次に衣装、一番上に面が理想だ。一番上の面が箱の蓋で圧迫されないよう、隙間を使いながら要領よく詰め込む。

テントの中をすっかり空にして、来た時と同じルートで搬入口までぶつを台車で運ぶ。「先輩、押します」と言ったものの、私は来たルートを覚えていなかったのでなんとなく後ろからついていった。現場ではルートを覚えておくことも重要だ。仕事として来ているため、ショッピングセンターのお客さんの出入り口から出入りすることはないので、入り組んだバックヤードのルートを来た時に覚えておかなければならない。

ハイエースにぶつを積み、帰りもまた私は3列目の真ん中に座った。スタッフが担当者に挨拶をして無事終了だ。先輩たちは慣れているので座席に座った時にはすでに缶ジュースを手にしていた。私も買えばよかったと思った。フェリー乗り場で絶対買うぞ!と決めた。

「楽しかった?」とキリン先輩が聞いてくれた。「はい!」「このは、ゴールデンウィークだけ?それとも長期?」ペンギン先輩も聞いた。「長期ですもっとやりたいです!」と答えると「がんばってな。すぐに美少女できるから。」と言ってくれた。美少女をするということは、子どもたちと握手もするのか!と想像した。今日は握手会の手順をお手伝いスタッフとして把握したが、もし近い将来握手する側になるなら言うことを聞かない子どもたちの相手をするより余裕かもしれない!とワクワクした。帰り道で、今日のショーについていろいろ注意されるだろうなと踏んでいたが、世間話と睡眠で穏やかに時が過ぎた。

フェリー乗り場の自販機でコーラを買いグビグビ飲んだ。今まで見たこともなかったキャラショーを知った。

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