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『1(ONE)』加納朋子&『受験生は謎解きに向かない』 ホリー・ジャクソン|Book Guide〈評・西上心太〉

文=西上心太


『1(ONE)』加納朋子(東京創元社)

駒子シリーズが20年ぶりに登場

 加納朋子かのうともこのデビューは、一九九二年の第三回鮎川哲也あゆかわてつや賞受賞作『ななつのこ』である。短大生・駒子のみずみずしい感性と、謎を伴った各エピソードが一つに貫かれる巧みな構成に瞠目どうもくしたものだ。その少し前、八九年に刊行された北村薫きたむらかおる『空飛ぶ馬』でにわかに注目された〈日常の謎〉に傚いながら、オリジナリティに不足がなかったことは『魔法飛行』、『スペース』と続くシリーズを読めば明らかだろう。

 個人的なことだが、筆者が初めて新人賞の予選委員を務めたのが、この期の鮎川賞だったこともあり(予備委員の一人に北村さんもいた)特に印象深い。

 飼い犬を愛する家族、飼い主を愛する犬。両者の交流を描いた本書は、実に二十年ぶりになる駒子シリーズであり、懐かしさでいっぱいになった。
 大学生になった玲奈が初めて飼った自分の犬、それがゼロだ。ゼロは先輩犬のワンから常々厳しい指導を受け、ワンから譲られたレイちゃん(玲奈)のナイト役を務めようとする。そんなおり、ストーカーがレイちゃんの前に現れる。という一話目の「ゼロ」から本書は始まり、玲奈の性格や家族、ストーカーの正体をめぐる謎、ワンのちょっと不思議な現況などが徐々に明らかになっていく。続く前・中・後編に分かれた「1(ONE)」では過去に遡り、幼い少年の視点から、ある犬が少年の家にやってくるまでが語られる。

 デビュー当時二十代だった作者は、駒子に十代の自分を投影していたはずだ。三十数年のキャリアを積んだ作者が、本書でどのような形で駒子を登場させ、彼女の像を描いたのか。犬好きにはたまらない物語を楽しみながら、それを確認してほしい。

■ ■ ■

『受験生は謎解きに向かない』ホリー・ジャクソン(創元推理文庫)

衝撃の三部作の前日譚!

 ハイティーンの少女ピップを主人公にした『自由研究には向かない殺人』に始まる三部作は、内容だけでなく、紹介が新型コロナウイルス禍の時期と重なったこともあり、忘れがたい印象を残した。特に三作目の『卒業生には向かない真実』での出来事は衝撃的だった。

 本書はその前日譚で、現実の事件ではなく友人宅で開かれた犯人当てゲームの顛末が描かれる。時は一九二〇年代。孤島に建つ富豪宅で起きた殺人を、ピップら七人が参加して謎を解く。謎解きの魅力に目覚めた無垢なピップの姿は眩しく、三部作へ繋がるかけはしにもなっている。

《小説宝石 2024年3月号 掲載》


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