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うんこマンと呼ばれたあの日俺は大きく返事をした

俺はたびたび、彼女にうんこマンと呼ばれる事がある。

うんこの時間は極めて短い。のに。

昔友達とラストオーダーまで残り10分のきしめん屋に車で猛スピードで向かってた時に、俺はうんこがしたくなって
「コンビニ寄って!」とすごい剣幕で頼んだ。
友達は「もう着くから我慢せい」
「無理!もう出口から顔出てる!漏れる!」
「きしめん間に合わんって!!」
「大丈夫!絶対一分で帰ってくるから!」
「言ったな!?」
「任せて!」
うんこタイムアタックスタート。
結果50秒で帰ってきた。一分をきった。成人男性の平均を遥かに凌駕する高タイムだ。

だから駅のトイレでうんこに10分かけてきばってるおじさんを見ると、ダサいと思ってしまう。
どんだけ硬いねんと、もう言っている。
駅できばる時間を見越して朝早めに家を出てるのかなと想像してしまう。
電車を降りてけつの穴を閉めながら内股でトイレまで小走りして10分きばる朝を定年まで続けるつもりなのかなと哀れに思ってしまう。
あとうんこが長いおじさんは大体小太りなのも腹が立つ。
野菜を食わないから太るし、うんこも硬くなることを4、50歳になっても理解していないことに、もう恐怖すら感じている。
うんこによって家でゆっくりする時間を奪われている愚かなうんこおじさんにイライラが止まらない。

そんなうんこおじさんはさておき、俺はうんこマンだ。

俺はうんこに一分以上かけない。それでも俺は彼女からうんこマンと呼ばれる。
なんでかと言うと、俺は人より快便すぎるから。食ったら5分で出る。1日に3回はマストで出る。
昔は胃下垂を謳ってたけど、今は過敏性腸症候群を自称している。
とにかく俺はうんこの回数が多い。

初めてうんこマンと呼ばれた日は、そんな呼び方すんなよと思っていた。
クラスの嫌いなやつのことを陰で呼ぶ時の呼び名を、仮にも愛する人に放つ彼女に、放屁をかましてやりたくなった。
だけど放屁を放てば、毎回蔑んだ目で見られて、謝罪を求める顔をしてくるので、その時は我慢した。

ある日彼女がうんこマン!と呼んだ時に俺は大きく「はい!」と返事をしてみた。
そしたら彼女が笑った。
彼女が笑うなら俺はうんこマンでいいと思った。うんこマンの自覚はなかったが、認めることで笑いが起きるならそれは認めた方がいいと言うことだ。

だから思い出してみる事にした。
確かに2024年、年が明ける瞬間、俺は先輩夫婦の家でうんこをしていた。
うんこをしながらXに「年明けの瞬間うんこしてます」とツイートしてた。
扉越しに3.2.1.ハッピーニューイヤー!!と声が聞こえてきたが、俺はそのカウントダウンに合わせてきばっていた。
その一つのエピソードだけで充分だった。
うんこマン以外の何者でもなかった。

彼女は時にして俺のことを、「文句垂れ」「ヤニカス」とも呼んでくる。
最低の呼び名だろ。
ただそれも思い返してみれば、バラエティ番組に出てる女性タレントをみて舌打ちしながら「おもろない」と一瞥したり、事あるごとにタバコを吸いにいく。
そんな自分を省みる限り、俺は「文句垂れ」で「ヤニカス」なんだろう。

そう呼ばれる度俺は、大きく返事をする。

「うんこマン」も、「ヤニカス」も、「文句垂れ」も、肉も魚も、ニコチンも、女性タレントも、つまらない週刊誌も、ラジオもバラエティも、服も、スニーカーも、イルカもクジラも、あの日むかついた上司も、雲ひとつない青空も、食べ飲み放題3500円で勧めてくる難波のキャッチも、コンビニも、百貨店も、全部受け入れて俺の血と骨に変えてやろうと思った。

でも彼女はそんなことはどうでも良くて、文句垂れるのも、タバコを吸いすぎるのもやめてくれと思ってるだろう。

ごめんな、でも俺はその呼び名を血と骨に変えて彼女を笑かす。そう決めながら今日もうんこをきばって、タバコを吸いながらおもんないタレントに舌打ちをするぜ。チッ。


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