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映画『キャロル』と『パトリシア・ハイスミスに恋して』感想

 あなたはすてきな人
 まるで天から落ちたよう

(女性同士の恋愛)を描いた映画の名作として知られる『キャロル』を長らく観たい観たいと思っていながら鑑賞ができていなかったのですが
『キャロル』の原作小説の作家であるパトリシア・ハイスミスのドキュメンタリー映画『パトリシア・ハイスミスに恋して』が公開され、それに合わせクリスマスの映画である『キャロル』が、先日お邪魔したばかりの上田映劇さんで上演して下さってたので、ウキウキと出かけてきました

劇場外ポスター
映劇はんこ『パトリシア・ハイスミスに恋して』
映劇はんこ『キャロル』

舞台は1952年のニューヨークで、デパートの店員をしつつ、フォトグラファーになる事を夢見ている素朴なテレーズと、テレーズの働くデパートに娘のためのクリスマスプレゼントを買いに来た上流階級の婦人のキャロルが、互いに一目惚れ同然に惹かれ合って、急速に交流を深めてゆくが、キャロルは夫との離婚調停の話し合いをしている最中で、その件がふたりの仲を割く原因となってしまう…という物語です

2023年の現在に比べ(恋愛対象が同性である)ことへの偏見や社会的差別がずっと強かったであろう時代の物語のため、ふたりの恋愛の高揚や喜びよりも、抑圧や非難の描写が強く、辛いものがありました
しかしそれを受けてもなお、ケイト・ブランシェット演じるキャロルの圧倒的美貌のまばゆさ、ルーニー・マーラ演じるテレーズの素朴な愛らしさ、そして後に見せる変化と成長の鮮やかさが、目に幸せでした
ふたりきりで逃避行のようにクリスマスからニューイヤーまで共にドライブをし、質素なモーテルで身を寄せ合って過ごすシーンなんか
(いつまでこうして過ごすのだろう)(このままどこまでも走れたら)(ずっとこのままでいたい)
そんな、内心の悲鳴が聞こえそうな程に、幸せそうで共にある切なさもたまりませんでした

キャロルの夫が雇った探偵の悪辣な行動、テレーズにしつこく結婚を迫っていた交際相手の暴言、キャロルの夫の(現代で言うところの)モラハラぶり
この映画に出る男性はほぼ、ふたりの絆への邪魔物で障害でしかなく、何と言うか男性性へのヘイト感情も強めに感じました(気持ちは痛いほどわかるけど)

鑑賞前は、女性同士の恋愛の美しさや甘やかさが、たっぷり込められた映画のような気が勝手にしていたのですが、甘さより苦味の方が強い映画で、それがとても意外でしたが、もちろんこれはこれで好きな味です
ラストシーン近くのリッツ・カールトンでの待ち合わせに現れたテレーズの頑なな美しい表情には、映画冒頭の頃の素朴さもキャロルへの憧れが隠せない表情も無くなっており、むしろ愛を乞うているのはキャロルの方になっている、というパワーバランスの変化も見ごたえがあります
内心が推し量れないテレーズと、テレーズを諦められないキャロルは、キャロルのがよっぽど駄々っ子のように見えて、悲しいながらも可愛いと感じました
物語の終わりから、ふたりはどうなってゆくのか、人によって解釈が変わると思われますが、
束縛しちゃうキャロルと、キャロルを見棄てられないテレーズ(ほんとは両想いなんですけどね)という関係性が続いてゆくと自分はめっちゃ好みです

ところで、『パトリシア・ハイスミスに恋して』を『キャロル』の前に鑑賞したのですが
パトリシア・ハイスミス本人のインタビューのシーンがあり、そこでは『キャロル』の物語はハッピーエンドだと語られてました
『キャロル』を観たところ、自分にはハッピーエンドとはとても感じられなかったのですが、何か見落としがあるのか、それとも解釈がハイスミス氏と合わないのか、分からなくなりました

『パトリシア・ハイスミスに恋して』はドキュメンタリーであり、伝記映画になります
ハイスミス氏の生い立ちや、ご本人や親類、作家仲間や元恋人のインタビュー映像や直筆の日記の画像から、ハイスミス氏の人となりと生涯が語られます
また、パトリシア・ハイスミスの原作の『キャロル』『リプリー』『見知らぬ乗客』の作中映像もたくさん拝見できて良かったです
何より、パトリシア・ハイスミス本人の表情や眼差しの魅惑的なところが実に心惹かれるドキュメンタリーでした
飼ってるにゃんこがちょいちょい出てくるのも良いです
小説は未読なので、読んでみたくなりました

作家さんの容貌を云々するのは、品のよい振る舞いとは言えないですが、それにしても、
パトリシア・ハイスミス氏、美しいです

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