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誰も触れない二人だけの国 映画『王国(あるいはその家について)』感想/上田市トラゥム・ライゼ

長野県上田市の映画館、トラゥム・ライゼさんで、こちらの映画を鑑賞してきました

友人の一人娘の世話を頼まれていた女性が、その娘を川に突き落としたのは何故か? という心理をとことん突き詰めていく話です

登場人物は3人
娘を突き落とした女性、亜希
娘の母親で女性の幼なじみ、野土香のどか
娘の父親で2人の女性の大学の先輩、直人

観賞する前は、この3人のそれぞれの視点から様々な情報が語られて、隠された真相が見えてくるだとか、あるいは『藪の中』のように、三者三様の証言の違いがあって、真相が分からなくなるとか、そんな展開の話なのかと考えてました

「あの台風の日
 あの子を川に
 突き落としたのは私です。」

というポスターの文言も、表向きの証言に過ぎなくて、実は意外な真相が見えてくるのだろうと、思ってたんですが
まったく違いました
本当に、友人の一人娘を、川に突き落としたひとの話だったのです

この映画は、ごく少ないシーンで構成されています

① 子供のころの野土香と亜希の記憶
② 突き落とす直前の娘との会話
③ 野土香が手編みの帽子を亜希に渡す
④ 亜希と直人の言い争い
⑤ 亜希に娘の世話を任せる事への是非の言い争い
⑥ 近所のショッピングモールへ買い物へ
⑦ 亜希と野土香と直人のたわいもない雑談

ほぼこのシーンのみが、執拗に、何度も何度も、まさに映画の撮影のテイクを重ねる形で繰り返され、
メタ表現のように映画撮影のカチンコまで出てきたり、お芝居の稽古場のような場所で台本を読むように台詞を話していたり、かと思えば“本番”のようにリアルなシーンに変化し、それらが何層にも重なることで、亜希が凶行に至った理由を言語によらない共感で感じ取れるようになる、そんな作品です

作中で語られる王国って何だったのかというと、乱暴に説明すると最少人数で形成されるコミュニティのことで、
亜希と野土香はかつてその強固な王国にずっといた
しかしそれぞれの王国も持つようになったし、世の人はそれぞれの王国を持っているし、自分も他の人との王国を持つ場合もあった(と、亜希は自らの手紙の中で証言している)
また、人生において重要な濃密な時間、についても語っていて、それはおそらくループするように何度も繰り返されテイクを重ねているシーンたちの事で、⑦のたわいもない雑談、のように初見では見えていたシーンが、いくつもの他のシーンのループを重ねた果てに観てみると、そこに決定的な亀裂があったのだと、ふいに感じて、ぞっとするのです

しかしながら、長かったです! 作品自体の時間が!
同じシーンをループする演出で観客にもたらされる感覚を狙った映画なのかも知れませんが…150分近くかけなくてもその演出って出来ないかな…

亜希は野土香に対して激しい執着心があって、野土香を奪った夫と娘を憎んでいた…と、めちゃくちゃ乱暴にまとめるとそういうことですし
娘を突き落としたのも、ストレスからの衝動的なパニック行動だったのではないか
亜希のこころを150分かけてそこはかとなく掴めた気持ちもありつつも、頭の半分は、話が長いな! ってイライラしちゃってるとこもあって、なんかもう、怪作映画だなあ…とある意味感動したのでした

セリフのテキストはすごく良かったんですよね
映画で観るよりは、自分で朗読劇として演じてみたい気持ちがあります
そうすればもっと、この物語を掴めたり愛着を持ったりできるのかも

ところで、話は変わりますがこちらの作品、YouTubeで鑑賞出来るショートムービーなんですが

約9分の短い作品なのに、観客の展開の予想を半分叶えつつ半分は外して見せる、そんな程よい意外さと、恐怖演出のおぞましさのバランスがちょうど良い作品でした
ホラーが苦手な方はおすすめしづらいのですが、大丈夫だよ! という方には自信を持ってご紹介できます
何せ9分なので、鑑賞のハードルが高くない、気軽さがあります

150分の特殊な演出がなされた映画と、YouTubeに掲載されている9分のショートフィルムを比べるのは適切ではないかも知れないですが、でも様々なコンテンツが溢れているこの時代に、150分の実験的構造の映画を作るのは、色んな意味で挑戦的です
だから決して嫌いではないんですが、『王国』の方は人には勧められないです 観た人とは話してみたいですが文句が多くなりそうでやや不安です

恒例の映劇はんこ

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