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きつねの登場する絵本感想、10冊分詰め合わせ記事

はじめに、きつねとは?

以前、くま🐻の出てくる絵本もしくは小説をまとめて読んでその感想を書く記事を出したのですが、そんな動物特化型記事の第2弾です
今回はきつね🦊の登場する絵本作品を10冊、選んでみました
以前から考えていたのですが、きつね🦊って物語の中のイメージが定まっているようで、つかみ所のない存在だなと感じていました
『源氏物語』では人を化かすとか人に化けるとか、もしくは荒れ果てた屋敷に住み着く動物として取り上げられていて、あまり良い印象はありません
一方、新美南吉さんの著名な作品ふたつ『てぶくろをかいに』と『ごんぎつね』では、不器用な優しさや献身性、親子愛を持つ動物として描かれていました
ゲームの中のきつねで個人的に好きなのは『どうぶつの森』シリーズに登場するつねきちというきつねです
彼は古美術商を営むきつねなのですが、彼の店舗で購入する美術品にはしばしば贋作が混じっている、というややダーティな特徴があります
しかし、ゲームをやる側が美術品の知識を頭に入れさえすれば贋作を看破することができるし、つねきち自身も見抜けるなら見抜いてみろと言わんばかりの態度をしているのが面白いきつねなんです
あと、きつね🦊が気になる理由としては、自分がよくお邪魔させて頂いてるnote書き手さんが、アイコンをきつねにされていることも、とても大きいです

前置きが長くなってしまいましたが
きつねの登場する作品って、探してみるとたくさんありました
では、作品ごとにどんなに違いがあるのか、色々読み比べたら面白いかもとやってみた次第です
とても著名な作品も含まれている紹介記事ですが、きつねさん絵本って色々あるんだなと、様々な姿をご覧頂けたら、きつね推しとしてうれしいです


キッキとネネのかくれんぼ 

作・本田雅也 絵・ももろ

こちらの絵本の絵を担当されている ももろさんは、noteで多数のイラストを公開して下さっているのですが、その魅力、特にきつねの描写にとても惹かれてました

そんなわけで、ぜひ絵本も読んでみたくなり購読した次第です
キッキとネネは、ふたごのきつねさんです
ふたりが元気良く、野原でかくれんぼをして遊ぶのですが、そこは不思議なチカラを持つキツネさんなので、なんと変身の術勝負をしながらのかくれんぼをするのです
そこに通りかかる様々などうぶつたちが楽器を演奏したり、鳥たちがいっせいに木に止まって勢ぞろいしたり、池のほとりで色とりどりのカエルが合唱したり、様々なこころ踊るシチュエーションが展開されますが、場面が変わる度に、キッキとネネがどうぶつさんたちに変身してかくれんぼをするので、どこに隠れているのかを探しだす趣向の絵本となってます
見つけた! となった瞬間の絵柄の変化も楽しくて、たくさん描かれたどうぶつたちは、それぞれにそのどうぶつらしい個性があり、とにかく絵の魅力がすごいです
キッキとネネ、どちらも負けず嫌いなんだな~とほっこりするほど、かくれんぼ勝負はヒートアップするのですが、じゃあそろそろおうちに帰ろう…と歩く姿もとっても可愛くて、仲良しさが伝わるきつねのふたごちゃんです
帰ったおうちには、キッキがネネのために用意してくれていたおやつが待っています
そのおやつメニューもまたすばらしい、そしてよく見ると、メニューの伏線も冒頭にちゃんとあったりして、細かく隅々まで舐めるように眺めつくしたい作品です


五助じいさんのキツネ

作・絵 馬場のぼる

馬場のぼるさんの作品は『11ぴきのねこ』シリーズが大変有名で、自分もとても好きですが、きつねにまつわる作品も描かれていたので、惹かれて購読してみた作品です
物語は、山の中でつつましく生活する五助じいさんのもとに、一匹の子きつねがあらわれ、仲良く生活をする場面から始まります
野良仕事をする五助じいさんの後を子きつねはいつもついて回り、一緒にお昼寝をおんなじポーズでしちゃったりするほど、仲良く暮らしていきます
しかし、じいさんはそんな自分の真似ばかりしていて、きつねらしくなくなってる子きつねを心配し、変身稽古の指南役をしているご年配のきつねのところに、子きつねを託すことにしたのです
でも、子きつねは変身をどうしても上手くできず、他のきつねたちに笑われてしまうのでした…

素朴で柔らかく、ほのぼのとした絵柄の馬場のぼるさんの絵本ですが、こちらには11ぴきのねこシリーズにはない、仲間外れと悲しみの物語があり、そしてその悲しみが、おじいさんの優しさと、それがもたらした思いがけない出来事で癒されてゆく展開に笑顔がこぼれる物語です
子きつねは、変身がまったく達者でなく、五助じいさんにまつわるある品物にしか化けられないのですが、その品物に変わった姿がとっても可愛いのです
五助じいさんが大好きなんだと良く分かるその姿が、とてもいとおしくなります
しかしながら…
個人的には五助じいさんと子きつねは、ずっと一緒に暮らして欲しかったんですが…物語の後半で、そ、そういう展開!? と驚く部分もありました
でも、驚いたものの、一人前のきつねとして、変身の技をもってひとり立ちすることを、この作品はよしとしてるんだな、という解釈をしました

本文中のおはなし文と絵の台割がごくシンプルで、常に左側が本文で右側が絵、という構成がまたいいです

物語の本文中には描写されてない、絵の中の背景に描き込まれたおじいさんの小屋の中の様子や、秋の花が咲き乱れる丘の頭上の月、大きな食堂の店先、お金持ちのおうちの大きな門のある庭先…
絵の魅力もたっぷりで、お話もほっこりと優しい、素敵な作品です


きつねのでんわボックス

戸田和代・作
たかす かずみ・絵

きつねの出てくる物語を探して選んだら、驚くほどに泣いてしまった本です
どうして泣いてしまうのかと言えば、とても悲しい物語で、でも希望にも溢れていて、優しく美しい話だから
そして登場するキャラクター同士が、互いのことをきちんと認識していなくて、想いが一方通行なところ
知られなくても構わない、相手を想いたいんだ、自分ができる限りのことをしてあげたいんだって、その強い強い願いがただひとつの奇跡を起こすところ
そんな“ただひとつの奇跡”が、実はこの物語には“ふたつ”ある、それが“きつねのでんわボックス”なんだというところが、素晴らしいお話です
物語の詳細がご説明出来なくて歯がゆいのですが、自分の説明よりは、ぜひ、ぜひ、読んで頂きたい作品です


きつねとねずみ

ビアンキ・さく
内田莉莎子・やく
山田三郎・え

きつねの
だんなが
やってきた。

からはじまる、ねずみときつねのだんなの知恵比べの話です
とにかく絵の魅力がすごく、ねずみの地中の巣穴を断面図で見せてくれるシーンでは、潜んでるもぐらの別の巣穴や、冬眠中のヤモリなんかがいて、話にはとくに絡まないけど描き込まれてる絵本の絵っていいよなーって思います
ねずみときつねの知恵比べは、小さく捕食される側であるねずみが勝利するのですが、話としてはそれだけの話です
しかし、この物語におけるきつね、役割としては悪役で負け役なわけですが、すごく素敵な作画をされてるんです
ちょっと擬人化したような動作をしていますが、ほぼ現実のきつねそのままの体躯で、ねずみの巣穴を覗き込む仕草や、どう追い詰めるか思案する様子、時々見せるニヒルな表情、すごく格好いいんです
そもそも、“きつねのだんな”っていう呼び方がもう素敵です
話はきつねがしてやられる内容だけど、作画コスト的に一番こだわって描かれているのは、きつねのだんなの様々な姿や表情だし、悪役なのに悪役らしい描かれ方もされてないし、きつねのだんなが描きたかったから、話は飾りみたいなもんなのかも
絵本のきつねイケメン選手権があったらぜひ選抜メンバーに入ってほしいです

たぬきときつねのばけくらべ

松谷みよ子・ぶん
ひらやまえいぞう・え

こちらの作品はこれまででは一番、対象年齢が低く設定されています
そのため本文に漢字はまったくなくストーリーを説明する文がごく少なくて、でも物語の起伏も躍動感もちゃんとあるし、独特のオノマトペの楽しさもあって、これは声に出したい絵本! と感じます
お話はきつねとたぬきがばけくらべをする話で、タイトルそのままの内容なのですが、きつねとたぬきがそれぞれ変身したものがすごくイメージに合っていて、どちらも可愛らしいです
絵の線画のザクザクとしたタッチと色鉛筆の生き生きとした彩色が生命力に溢れていて素敵でした
たぬきの方がトンチ的に上手だったけど、変身のクオリティはきつねの方が圧倒的に上でしたね
きつねの泣き声が(ぐえんこぐえんこ)なのも良いです、声に出したい響き

きつねのおきゃくさま

あまんきみこ・ぶん
二俣英五郎・え

あまんきみこさんの作品として、知っていたものの、読めてなかった作品です
ひとりぼっちのやせっぽちでおなかを空かしたきつねが、同じくやせっぽちのひよこと出会い、まだまだやせっぽちだな、よおっく太らせてぱくりと食べてやろう! と自宅で保護して美味しいごはんをたくさん食べさせてやるのです
そして、やせっぽちのアヒル、やせっぽちのうさぎも、きつねは自宅で面倒を見てやるようになるのですが、ひよこ、アヒル、うさぎの三羽組は、きつねを心から慕うようになり「きつねのおにいちゃん」なんて呼ばれてしまって、誉め言葉にすごく弱いきつねのおにいちゃんは、そのたびにくねくねと身をよじって照れるのでした
ある日、きつねのそのにぎやかなルームシェアのおうちが、とんでもない災難に襲われます
しかし、きつねのおにいちゃんは、ひよこと、アヒルと、うさぎのために、彼らが抱いていたきつねのおにいちゃんのイメージのそのままの、頼もしい、勇敢な行動をとるのです
きつねのおにいちゃんの最後の姿は、息絶えたことがはっきり分かる作画で、ここまでお人好しで誉められる度にすごく照れる顔をするきつねを見ていただけに、それでいいの!? きみはそれで良かったの…? って聞きたいくらいなんですが、でも、きつねのおにいちゃんは、心から満足そうに笑っていたのです

ところで、きつねの自宅内の作画がすごく好きです
特に人間みたいな服を着てたりせず、鳥獣戯画くらいの感じで二足歩行してたきつねですが、自宅内にはダイニングテーブルが設えてある上に、ひよこ、アヒル、うさぎが増える度にベッドも増えていきます
そしてきつねのおにいちゃんは多分、ベッドは使ってなかったし、ひよこ、アヒル、うさぎを大切に太らせていた
きつねさん、もっとわがままになっていいのよ
お腹を満たすことよりも、慕われて名誉ある死を選んだと言える結末だけど、ひよこ、アヒル、うさぎがきつねを慕って悼む以外のことしてないなー、きつねのおにいちゃん割りが悪いな! と、きつね推しとしてはモヤモヤしてしまうのでした
きつね自身はきっと、しあわせだったんだろうから、いち読者がアレコレ言うのは違うとも思いますが、ずっとこの、とぼけた感じのルームシェアを続けて欲しかったなと切なくなるのです


おかえし

村山 桂子・さく
織茂 恭子・え

あるひ、たぬきの いえの となりに
きつねが ひっこしてきました。

おとなり同士になった、たぬきの母子ときつねの母子のおうちで、“ほんのつまらないものですが…”と贈り物のおかえしのおかえしのおかえし…と、贈り物の倍返し合戦が勃発するお話です
きつねとたぬきの矜持のぶつかり合いが、あくまでコミカルにほのぼのと描かれていて、しかしエスカレートのし過ぎに笑って良いのか分からんくなる作品です
ほぼ同じアングルで、おかえしのおかえしとして、片方の家から家にどんどん品物が移動してゆき、それぞれのうちの子の反応や家具の配置の変化が化学変化のようなそれで、パズルのように絵を楽しむ見方もできます
たぬきときつねが勝負をする話としては、前述にもありましたが、このおかえしのおかえしのおかえし合戦は次第に恐怖と戦慄、そして笑いも込み上げる壮絶さがあります でも喧嘩じゃないんです、あくまでも仲良しです
お隣さんと仲良しなのはめっちゃ良いことです
合戦が落ち着いたら、このまま何年もずっと、お隣さん同士で仲良しでいるんだろうなとも感じます
作中では一回も喋ってなかったきつねとたぬきの息子さん同士が
「おれたちの母さんたちって仲良しだよね」
「おれたちも仲良しだろ」とか言ってほしいです

「そろそろ杏の季節だから、取れたらとどけるね」
「えー? また? おかえしは1回までって、今度こそ分かってくれるかな、母さんたち…」

こんとあき

林明子 さく

林明子さんの作品の素晴らしさは知っており、そしてこの作品のタイトルも知っていたのですが、拝見出来てなくて大変申し訳なかったです
とっても良かった、素晴らしい作品です
こんって、きつねのぬいぐるみだったことを知らなかったです
まず冒頭が、こんの型紙の絵から始まるのがかわいいし、こんは赤ちゃんが産まれたお祝いのぬいぐるみで、赤ちゃんの祖母にあたる人のお手製だった、ということもほっこりです
そして、あくまで当たり前のように、こんは赤ちゃんのあきちゃんの面倒を、お兄さんのように見続けます
何かもう、そんな冒頭部分だけで泣けてきます
そして、あきちゃんが小学生になるちょっと前くらいでしょうか、こんのほころびた腕を治してもらいに、おばあちゃんの家まで旅行をする、それが『こんとあき』の物語ですが、こんが動いて喋ってあきちゃんの面倒をみることが、この世界ではごく当たり前のように描かれて、こんが電車の切符を用意したり駅弁を買いに行ったりもします あやうく電車に乗り遅れそうになってドアにしっぽが挟まったりします かわいい(けどまあまあのピンチでした)
そしておそらく、こんは人間で言う小学生2~3年生くらいの中身のように感じます だから、あきちゃんの面倒をしっかり見てあげてるけど、上手く行かないこともたくさんあって、でもこんはそのたびに「だいじょうぶ、だいじょうぶ」って言うんです
そんなこんを慕って、頼りにして、でもいざと言う時にはこんを守って、おんぶして歩くあきちゃんの姿が、がんばれ、がんばれ、こんとあきならだいじょうぶだよ! って応援したくて、たまらなくなります
『こんとあき』というタイトルがこれ以上ない、素晴らしいものだなあ、よかったなあって、また泣けてしまったのでした

それにしても、林明子さんの絵がほんとに素晴らしいです
新幹線に乗ってる他の人たちが、別アングルでもちゃんと出てくるところとか、終盤近くの砂丘の表現とか、場面別にこんがしょんぼりしてたりパリッとしてたりする微細な変化とか、絵の見ごたえも凄すぎる、傑作です

きつねのかみさま

あまんきみこ・作
酒井駒子・絵

りえちゃんは、
きつねたちの かみさまに
なったのよ。
そのわけはね……

酒井駒子さんの絵が美しく、異界に誘われるようで
絵本カバー折り返しの上記の文も怪奇ものの童話なんではないかと勝手に想像してしまったのですが、なんとめっちゃかわいい話でした!
酒井駒子さんの絵って、パステルと鉛筆のタッチでありつつ印象派の油絵のようでもあって、そして歩いたり走ったり跳び跳ねてる瞬間を切り取ったような、シャッタースピードのすごく速い絵です、動体視力がすごい方の絵といいましょうか、瞬間の前後の動画が見えるような鋭い絵がたまらなく魅力的です
そこに、平易なのに個性もあって、ちょっととぼけたような語り口の、あまんきみこさんの文章がすてきにマッチするんです
そして何より、きつねの子の目を細めて笑顔で見上げてる姿が絶品にかわいいんです
なかよくあそぶ、にんげんのきょうだいもかわいい、かわいいに溢れていた作品でした
でも、怪奇ルートもちょっと見てみたい気持ちもあります
一緒に遊んでいるうちに、晴れているはずなのに雨が降り日が暮れているはずなのに明るいままで、
遊ぶ子達のシルエットがすべてかわいいきつねになってしまう、いつまでもいつまでも遊んでいる、そんな話もいいんじゃないかなと……

チロヌップのきつね

たかはし ひろゆき  文・絵

読むのが本当に本当に辛い話です
でも歯を食いしばっても、読まねばならないと読みました

ゆうかんで強いおとうさんきつね
優しくて愛情ふかいおかあさんきつね
賢くてすばしっこいぼうやきつね
甘えんぼでおっとりのちびこきつね
そんなすてきなきつねの家族が北海道の地方の島、チロヌップで暮らしているお話です
ちびこきつねが迷子になったところを、チロヌップに漁師の出稼ぎに来ているおじいさんとおばあさんが保護をしてあげて、つかの間一緒に暮らすシーンもとても優しい時間でした

そのまま居られたら良かったのに、時代は太平洋戦争中で、チロヌップの島もおおぜいの兵士がやってきて、きつねたちを遊び半分に殺してしまうのです

でもこれは、決して辛い童話ってだけではなく
形や状況は違うけど、今でも世界のあちこちで発生している理不尽な、あってはならないことを、こんなことは断じてあっちゃダメなんだってことを、真っ直ぐに伝えてくれる作品なんだと感じました
ジャーナリズム精神があふるる作品で、でも語り口は優しく、柔らかな絵もえもいわれぬ穏やかさで、辛い光景も悲惨さとあわせて、おとうさんの優しさ、おかあさんの愛情を、強く強く表現されていました 
読まなきゃいけない、そして読めて良かった作品になりました

以上、きつねの登場する絵本の10作品のご紹介でした
きつねの作品は千差万別であるけど、どのきつねさんも他に換えがたい魅力がたくさんでした
きつねの物語を探したい、そしてきつねはイメージが定まらない印象なので、色々読めば新たな知見が掴めるかなとやってみたんですが、結果として
きつねは、やっぱりいいな…きつね…ふふ…って、単にきつね推しが強まる結果となったのでした
まだまだこれからも、きつねの登場する作品を探してみようと思います
『ともだちやさん』シリーズとか、きつねで有名ですよね、まだ読めてないので拝見したいです
もしこの記事を見て下さった方で、きつねの作品でオススメありますよ、との情報お持ちの方は、よろしければコメント欄の方に頂けるとうれしいです!

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