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コラム どうしようもない人たち  

 本当のことは言わないは、昔も今も

 村上春樹さんはエッセイを書くに当たって、時事的な話題には触れないことを原則にしているとか。ぼくもそう考えておるのですが、最近、ええっ、ということがあまりにも続くので、ついつい。 
 ここのところの政局は、自由民主党の、政治資金パーティーの、キックバック不記載の問題が中心です。
 マスコミ報道や政治倫理審査会の答弁などを聞いていると、かねてから行われてきたものであり、慣例にそって事務局が処理したもので、従って、派閥の事務総長や役員の代議士さんにはいちいち知らされていなかった、ということのようです。
 そうだよねえ。こういうことで乗り切るしか、ないよねえ。 
 一方では、文部大臣が、去年だか、宗教団体の関連集会に参加して挨拶をしたのではないかという報道に、その時の写真や動画を突きつけられても、「スピーチはしたかもしれない」、選挙の推薦確認書に署名したかどうかは「正直記憶にはないが、新聞報道等を踏まえれば署名したのではないかと考えられる」、ということです。
 うん。そうだよねえ。これで乗り切るしかない、ないよねえ。
 でも、だれにどう思われようと、自分のため、仲間のために、本当のことは言わない、そのために耐えるエネルギーは半端じゃないね。
 と、思いつつ、「そうだ、いつぞやも、こういう事態が続いた時期があって、ある雑誌のコラムに書いたことがあったなあ、と記憶をたどって、旧いUSBメモリーを開いてみると、あった、あった、確かにありました。2002年の原稿です。
 

「嘘つきは泥棒の始まり」って、本当ですか。

 日本人って、こんなにも記憶が曖昧で、嘘つきだったのでしょうか。
 最近の嘘つきで印象深かったのは、当時の徳島県の知事さん。東大法学部卒、旧運輸省のエリート官僚出身のやり手知事として知られた人。業者から金銭を受け取ったのではないかという疑惑に、県議会の本会議で、「金銭の授受は一切ない。心外で無念」と堂々と潔白を主張。しかし、その日のうちに逮捕され、10日後には「賄賂としてもらった」と全面自供した。
 こういう悪質な嘘をつく政治家を捕まえる警察も嘘をつく。
 公金の不正支出で有名な北海道警で、こんな例があった。捜査員が警察の協力者と利用した飲み屋の領収書が出てきた。ところがこの飲み屋は住宅地図に記載されていない。会計検査院から説明を求められた道警はどうしたか。その店の求人広告や女性従業員の名刺を印刷。さらにその店が刷り込まれた観光マップまで用意した。さすが警察の偽装工作。犯罪者もおよばぬテクニックだ。
 愛媛県警も負けてはいない。例えば、大洲署。異動で赴任してきた会計課長は、前任者から領収証綴りとゴム印を引き継ぎ、せっせとニセ領収証作りに励んだが、ばれてしまった。興味深いのは、その件での県警の発表だ。「前任者は『引継ぎした覚えはない』と言っておる。ただ、『引き出しの中に2、3個のゴム印があったことを何となく覚えている』そうだ」
 最近の傑作は橋本龍太郎さん。「1億円の小切手をもらったとすれば、覚えていないことの方が不自然だが、記憶にない」と言いつづけた元首相だが、政治倫理審査会で「(日歯連元会長の)臼田さんが渡したと言い、(橋本派会計責任者の)滝川さんが受け取ったと言い、(中略)それらを考えると客観的に事実なんだろう」と発言。挙げ句、選挙のダメージになっては困ると、代議士まで辞めさせられた。
 それもこれも、ぜーんぶ、お金のためなのです。地位を利用した金と嘘。嘘と金。いまの日本では表裏一体です。
 お上においてこの体(てい)たらくですから、下々は推して知るべし。大・中・小の金と嘘がヒーラヒラと舞い踊っております。
 そこで、前徳島県知事さんや北海道警・愛媛県警のみなさん、橋本龍太郎さんにぜひお訊きしたいのです。
「嘘つきは泥棒の始まり」って、本当ですか。

 人間って、脆いんですね。

 ぼくが何よりも面白いと思ったのは、こういう内容って、いつの時代に読んでも違和感がない、ということです。
 つまり、結論を急いで言えば、人間の本性は、真、善、美に向かう、というわけではない、ということです。
 人間の、心底の、そのまた奥の、日ごろぼくたちが見えないところにあるものは、善でも悪でもなく、人間の脆さ、不完全さ、です。
 知惠や分別、悟性や才知などは、初めからぼくたちに備わっているのじゃなくて、脆さや不完全さが露出しそうになったとき、修復したいという真摯な心の願いの、解決、解放の手段としてあらわれるのでしょう。ぼくは、それを品性と呼びます。
 ここで問題なのは、修復しようと思わなければ、知惠や分別はあらわれない、ってことになります。
 ここんところが、大事。
 つまり、いかに高い知力のある人でも、ハイクラスな人でも、自分を修復しようとしないかぎり、品性の持ち主(金や地位にしがみつかない人=嘘をつかない人)にはなることができない、ということです。
 で、こういう人たちは、どの時代にもいる、というお話です。
 お粗末。

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