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鏡の前で身悶える

 背中の左腰の腫瘍摘出から二日が経ちました。縫合した箇所に痛みはありません。そこで私はシャワーを浴びることにしました。ボディーソープは夏仕様のミント系。悶絶の苦しみを回避するため、ガーゼの上からラップを貼り付けました。

 いざ、出陣!

 その気概で浴室に入りました。気合を入れて頭をガシガシ洗い、ボディーソープを泡立てて身体に取り掛かります。いつもより早い行動で一気にシャワーで洗い流しました。
 ここで拍子抜けしました。ラップのおかげもあるのでしょう。痛みは全く感じなくて烏の行水で終わりました。ペンネームがカラスだけに。
 浴室から出た私は手早くバスタオルで全身の水気を取ります。

 ここから二度目の挑戦となります。洗面所の鏡は姿見くらいの大きさで私のほぼ全身が映っています。背中のガーゼの位置もはっきりと映し出されていました。
 湿ったガーゼを取り外すと赤黒い縫合痕があらわになりました。生来の皮膚の弱さもあって紙テープで貼り付けた部分が赤くなっていました。 
 指で掻きたい気持ちを抑え、新しいガーゼを紙の包みから取り出します。紙テープを適当な長さに千切り、ガーゼの上から十字の形に貼り付けました。あとは感染症を防ぐ薬を塗布とふして縫合痕に貼り付けるだけです。
 鏡面に映る左腰の一点にガーゼを近づけます。二度目であっても距離感の認識がおかしく、何度も実際の手を見て微調整を加えました。

 好機到来!

 喜び勇んでガーゼを押し当てました。改めて鏡を見ると微妙にずれていました。ムカデの足が一本、下にみ出ている状態でした。他はすっぽりと隠れています。
 一本くらいなら許容範囲、とはなりません。急いで剥して再度のチャレンジです。鏡に翻弄されながら貼り付けて、即座に引き剥がし、また押し当てます。
 四回目のチャレンジでようやく成功しました。初回の七回の記録を更新しました。喜びはほとんど得られず、気分的にはぐったりです。ガーゼの残りは予備を含めて六枚となりました。

 抜糸の日がくるまで、もう、シャワーを浴びないかも。

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