黒羽カラス

プロジェクトナニカが提供する「らっかみ!」でマスター業務をしています。 ショートショー…

黒羽カラス

プロジェクトナニカが提供する「らっかみ!」でマスター業務をしています。 ショートショートに嵌った時期がありまして、 コバルトの第四回ショートショートマスターになりました。 講談社のショートショートの広場には三作採用されました。 文章を書くことに喜びを感じる夢追い人です。

マガジン

  • 翠子さんの日常は何かおかしい

    近未来の長編小説になります。 酒呑童子と八尺様の間に生まれた翠子さんが、 怪異を引き寄せては無双状態になります。 ギャグテイストの波乱の日常をお楽しみください。

  • 家族ダンジョン

    一人の神が気紛れで介入したことにより、 家族単位でダンジョンに取り込まれます。 まるでゲームのような世界を家族は助け合いながら攻略します。 地下に潜る程に絆が強まる、その様子を軽やかに描きました。

  • 過去の自分や他の誰かの心に寄り添った詩を置いています。 心から零れ落ちた一滴、あなたの心の一部を潤しますように。

  • エッセイ&雑文

    硬派なエッセイ、ふにゃふにゃの雑文。 幅広く揃えています。主にカンの賜物です。 お時間がある時にどうぞ。

  • 短編小説の本棚

    日常や現代ファンタジーの小説が多く含まれています。 たまに過酷なファンタジーもありますが、楽観的な作者の書くものです。 最後はきれいに纏まって読後は良いような気がします、たぶんですが。

最近の記事

  • 固定された記事

地球規模の未来は考えていなくて、ただ縁側に座ってビールを飲んでいた

 平日の昼日中、縁側に胡坐を掻いてビールを飲んでいた。庭で育てている農作物は強い陽光に晒されてぐったりした様子だった。  手前にあるキュウリの葉はことごとく萎れてフレアスカートのように波打つ。隠されていた中身がよく見える。やや曲がったキュウリが何本もぶら下がっていた。今年は豊作で毎朝、二、三本の収穫があった。  サラダと称してボリボリと先端を齧る。味付けはマヨネーズ、または塩。食べ飽きる頃に浅漬けにした。  出た野菜クズは庭の端にあるコンポストに纏めて入れた。たまに沸く虫には

    • 『翠子さんの日常は何かおかしい』第18話 ギリギリの水着

      「やってきたよー」  河合好乃は開いたバスのドアからピョンと飛び降りた。頭頂に結ったお団子がプルンと揺れる。後ろを振り返る素振りも見せず、わー、と声を上げて走り出す。 「もう、好乃ちゃん、可愛過ぎ!」  続いて降りた時田翠子は笑顔で追い掛けた。  二人が走る先には広大な海が広がっている。その手前の白い砂浜にはパラソルという鮮やかな原色の花が咲き乱れていた。隅の方には仮設の建物が並んでいて飲食物を手にした若者の出入りが激しい。 「ここにしよう!」  好乃はそれとなく周囲を見て決

      • 『家族ダンジョン』第18話 第十七階層 浮き沈み

         一行の前にまたしても暗黒が立ち塞がる。今度は足場となる床がなかった。見えないだけで存在するのだろうか。誰にもわからない。  立往生を嫌った茜はハムの姿を探した。少し離れた壁際にいた。不貞寝するように背中を向けた姿で横になっている。  そっと近づいて甘ったるい声を掛ける。 「ハムちゃん、出番だよ。偉業の達成には必要なことだよね」 「……俺様は邪神の供物じゃないしぃ。床がないからどうしようもないしぃ。シイタケが試しに落ちてみればいいしぃ」  くるんとした尻尾が縮こまる。二度も落

        • 『家族ダンジョン』第17話 第十六階層 激走

           弾むような足取りの茜が先頭で階段を降りる。冨子とハムが並んで続き、最後尾を直道がゆく。  次の階層が見え始めたところで直道が強い口調で言った。 「止まるんだ」  突然の声に全員が後ろを振り返る。  ハムが鼻息荒く迫ってきた。 「俺様に指示するとは大胆不敵にも程があるぞ」 「作りがおかしい。端的に言えば不穏だ」  声を受けて茜が先を見渡す。 「真っすぐの通路は今までもあったよね。変わっているところは左右の壁かな」  波打つような作りになっていた。  直道は睨むような目で見て言

        • 固定された記事

        地球規模の未来は考えていなくて、ただ縁側に座ってビールを飲んでいた

        マガジン

        • 翠子さんの日常は何かおかしい
          18本
        • 家族ダンジョン
          18本
        • 11本
        • エッセイ&雑文
          18本
        • 短編小説の本棚
          9本
        • 先輩ちゃんと後輩君
          7本

        記事

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第17話 馬鹿笑い女

           先週の休日に訪れた廃病院は観光地と化していた。過去に凄惨な事件が起きている為、被害者の霊は存在した。今でも相応の恨みを抱き、自分達を出汁にして金儲けに勤しむ連中に半透明ながらも襲い掛かっていた。  その怒りはもっともで時田翠子は手を出せなかった。人に悪影響を与える状態にも見えない。結局、懸賞金狙いの登録者に出会うことなく一日を棒に振った。  過去の反省を元に作戦を練り直す。有名どころは観光地化するので避ける。曰く付きであまり人に知られていない場所が望ましい。ネットの細かい情

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第17話 馬鹿笑い女

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第16話 テーマパーク

           窓の外で雀がチュンチュンと鳴く前に時田翠子は目を覚ました。寝ぼけた様子は一切なく、スマートフォンを顔の前に持ってきて情報収集を始める。昔ながらの掲示板や専門サイト、最新のSNSを片っ端から見ていった。 『大量殺人が起きた現場の今がヤバイ。マジで呪われそう』 『人里離れた山の裾野にあるってことは精神系の病院なんじゃないの。バスが走ってるから行くのには困らないみたいだね』 『看護師ではたまにあるが、医者もストレスが溜まるのだろう。そうでなければ患者に毒物なんか投与できないよな

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第16話 テーマパーク

          『家族ダンジョン』第16話 第十五階層 暗黒に呑まれる

           新たな階層で三人は声もなく固まった。眼前では大掛かりな仕掛けが縦横に動く。  ハムは全体を見渡す。 「壮観な眺めではあるな。深さはどれほどか」  臆する様子は皆無で限界まで歩いた。下に鼻を突っ込むようにして目を凝らす。 「暗黒が広がっていて全く先が見えないぞ」 「……それだけの高さがあるってことね」  茜はハムの横に並んで同じ光景を眺めた。 「ここから落ちたら、どうなるのかな」 「落ちればわかるぞ」  ハムの言葉に、はは、と乾いた笑い声を上げた。 「でも、この仕掛けなら、な

          『家族ダンジョン』第16話 第十五階層 暗黒に呑まれる

          怒りの正体

           いつも腹が立っている  幸せそうな連中が憎い  不幸は怒りを加速する  いつも腸が煮えくり返り  絶えず頭が沸騰して  口から魂を吐き出しそうだ  いつも腹が立っている  不幸な目に遭う人間が嫌い  不運は自分の怒りに直結する  いつまでも怒りが収まらず  絶え間ない怒りが湧き出して  口から怨嗟の声を吐き出した  この怒りはなんなんだ  どこからきて どうしたいんだ  朝から怒りが収まらない  顔を洗ってさっぱりして 鏡の中の自分を見つめた  怒りに疲れた男が 怒りを

          怒りの正体

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第15話 吉凶の狭間

           住宅街にぽっかりと穴が空いたような場所がある。小さな公園で子供が楽しめる遊具はほとんどない。隅に押しやられた砂場は犬猫専用のトイレと化していた。  生垣の役割を担う新緑の桜を時田翠子はベンチに座って眺めていた。Tシャツとランニングを重ね着したパンツルックは休日の格好に相応しい。淡紅色の口紅も塗らず、素顔であった。 「……いい男って、どこにいるんだろう」  呟いて缶コーヒーを呷る。薄曇りの空を何とはなしに眺めた。  横手から小さな女の子が現れた。元気よく腕を振って歩く。おさげ

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第15話 吉凶の狭間

          『家族ダンジョン』第15話 第十四階層 肉体強化

           一行は折り重なるようにして新しい階層に着いた。幸いなことに大怪我を負った者はいなかった。 「コブができたんだけどぉ」  床にぺたんと座り込んだ冨子が後頭部を摩る。  尻餅をついた茜は痛そうに立ち上がった。軽く髪を整えて階段を見上げた。 「追い掛けては来ないみたいね。それにしてもびっくりしたよ。まあ、ゲームでもたまに無敵の商人はいるんだけどね」 「ゲームの中にも常識はあるということなのだろう」  直道はずれた眼鏡を直した。 「なにやら奇妙な物があるぞ」  半ば興奮したハムが走

          『家族ダンジョン』第15話 第十四階層 肉体強化

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第14話 ポイ捨て禁止

           その日、時田翠子は山に訪れていた。  ベージュのサファリハットを被り、強い日差しに備えた。水色のパーカーの下には速乾性に優れた黒のインナーウェアを仕込んでいる。白いハーフパンツは歩き易く、肌を守る為に黒のスパッツを穿いた。携帯食料や細々とした物はオレンジ色のリュックサックに収めていた。  登山道に足を踏み入れて十数分。渓流のせせらぎが聞こえてきた。横手に顔を向けると細い木々の合間から清らかな流れを目にすることができた。  更に数分後、はしゃぐ子供の声が耳に入った。冷たいと言

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第14話 ポイ捨て禁止

          『家族ダンジョン』第14話 第十三階層 十字路の恐怖

           冨子は上機嫌で階段を降りる。 「宿屋は心のオアシスだねー」 「生々しい!」  茜の一言が飛ぶ。 「それだけではなくて、この袋を見よー」  エプロンのポケットから皮袋を掴み出す。丸々と太った中には大量の金貨が収められていた。  茜は横目で見て降参と両手を軽く挙げた。 「びっくりしたよ。あの一枚の金貨のお釣りが、それだからね」 「大金貨か」  後ろに控えていた直道は思い出して言う。 「新しい階層に着いたな。今後も俺様を大いに頼るとよいぞ」 「また銀色のコインが手に入りますように

          『家族ダンジョン』第14話 第十三階層 十字路の恐怖

          『家族ダンジョン』第13話 第十二階層 名もなき歓楽街

           階段は極端に短かった。比例して天井も低い。長身の直道は猫背となって歩くことを余儀なくされた。  茜は鼻を摩りながら方々に視線を飛ばす。 「なんだろう。なにもなさ過ぎて逆に落ち着かない感じ」 「そうねー。広い部屋というよりも、とても広い通路みたいなところよねー」  冨子は顔を左右に動かす。闇に呑まれる寸前の壁が煤けた状態で見えていた。 「この姿勢なので早く通過したい」  直道は天井を気にしながら言った。その横ではハムが弾むようにして歩く。 「俺様には快適だ。清浄な空気で鼻の調

          『家族ダンジョン』第13話 第十二階層 名もなき歓楽街

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第13話 心の深淵

           見晴らしの良いフロア―を貸切にした立食パーティーが催されていた。場所がホテルの為、提供されているバイキング形式の料理は人々の舌や目を楽しませた。  その楽しみを独り占めする勢いで時田翠子は各料理を大皿に盛り付ける。黄色いパーティードレスに染みが付かないように指やフォークを使ってゆっくりと口に運び、飽くなき咀嚼を繰り返す。薄い唇は肉汁にコーティングされて艶やかに光っていた。  翠子は軽く押された。肩口の方を見ると若い女性と目が合った。手に持っていたワイングラスの黄金色の液体が

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第13話 心の深淵

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第12話 目覚める

           時田翠子は苦しそうな顔で瞼を開けた。天井に取り付けられた丸い照明の光を遮るように手を翳す。  横目をやると白い特攻服を着た半透明の男、仙石竜司が微笑んでいた。何度も頷きながら親指を立てて見せる。 「……なによ、それ」  翠子は不機嫌な声を返した。片肘を突いて起き上がろうとした。身体に掛けられていた薄手のタオルケットがずり落ちる。 「な、なんで!?」  急いでタオルケットを掴んで引き戻す。衣服を着ていなかった。オレンジ色のスポーツブラジャーは付けていた。 「あんたの仕業か」

          『翠子さんの日常は何かおかしい』第12話 目覚める

          『家族ダンジョン』第12話 第十一階層 逃げ回る

           新しい階層に踏み込んだ直後、冨子は周囲に鼻を向けて小刻みに吸い込む。 「臭いかなぁ?」  そこに茜が加わって同じように嗅いで回る。 「無臭ではないけど、カビ臭い?」  あとから来た直道は大きく息を吸い込んだ。 「異臭は感じないが」  三人が微妙な顔で目を合わせる。瞬間、揃って顔を上げた。  階段から派手な音をさせてハムが転がり落ちてきた。勢いは止まらず、正面の壁に強かに背中を打ち付けた。 「鼻が壊死するぅぅぅ!」  自ら激しく転がる。前脚を鼻に向かって懸命に伸ばす。その短さ

          『家族ダンジョン』第12話 第十一階層 逃げ回る