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エル・スール(1983🇪🇸)「瞳をとじて」公開記念 ビクトル・エリセ特別上映

原題: EL SUR(1983、スペイン=フランス、95分)
●原作:アデライダ・ガルシア・モラレス
●脚本・監督:ビクトル・エリセ
●出演:オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、イシアル・ボリャン、ロラ・カルドナ、ラファエラ・アパリシオ、オーロール・クレマン

ミツバチのささやき』では子供の書いたかわいらしい絵がタイトルバックになっていたが、今作は黒い背景に白字というシンプルなもの。

と思いきやその暗闇へ徐々に白々明けの薄い光が差して、ベッドで主人公の
エストレリャが目を覚ますという映画の導入につながる。

映画は成長したエストレリャによるナレーションが基盤となっているが、現在の彼女の姿は描かれない。高校生くらいの頃と、小学生くらいの頃と2つの過去の間を行き来する構成。

その後にすぐ小学生時代の回想へ切り替わるが、エストレリャが列車の座席で目を覚ますシーンから始まる。

彼女の登場は"眠りから目を覚ます"ところから始められている。

そしてそこでも目に付くのが手に付けている星型の指輪。

映画の中盤で、映画館のガラス窓から覗き込むシーンでもその窓の装飾が星を模しており、エストレリャの顔とその星が同じショットに映される。

「エストレリャ」はスペイン語で「星」という意味ということで、その通り彼女自身が星を象徴している。

この映画の主題の一つが父親との関係だ。

序盤で父親の秘密の部屋へ行くために階段を登るシーンでは、遊んでいた手毬を落としてしまう。

"大人の階段を登る"という暗喩がスペイン語にもあるのかどうかは定かではないけれど、"手毬を手放す"というのもそのまんまだろう。

父親に近づく=大人になっていくという構図を最初に提示している。

そのため、この後も父親と娘の疑似恋人的なショットが何度か繰り返される。

ダウジングによって井戸のありかを探す父親。そこに寄り添うエストレリャ。神秘的なツーショット。

聖体拝受の儀式では花嫁衣装のようなエストレリャが暗闇の中にいる父の下へ近づくショット。

映画館の後のカフェの窓から見つめるエストレリャに気づいて店の外へ出ていく父親。まるで額縁の中に納まるかのようなショット。

父と娘の密接な絆というものを印象付けるような画面作り。

一方で母親との関係性はどことなく希薄だ。

赤い毛糸の玉を母娘でぐるぐると纏めているシーンがあるが、エストレリャはそれを投げ捨ててしまう。

先述の"手毬を投げ捨てる"、"毛糸を投げ捨てる"など母親との絡みでは何かを投げ捨てるシーンが描かれている。

そしてエストレリャが父親から最後に受け取ったものが"振り子"。

「星」の名前を持つ彼女が父親から託されたのは地下の水脈を見つけるための振り子。

あと他に印象に残ったシーン。

少女エストレリャが白い自転車にまたがり、父親が「国境」と呼ぶ長い一本道を走っていく。

映画はこのカットで時空を超え、成長したエストレリャが赤い自転車に乗って帰ってくる場面に切り替わる。

自転車が白から赤に変わっているのも何か意図があるのだろうか?

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