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【短編小説】夏休みの宿題

まだ夏休みに入って数日しか経っていないが、我が子はまじめに宿題をやっている。
本人曰く「今頑張って後で楽をする」のがいいらしい。
そういいつつ、数日たつと忘れて、いつも後半に焦っているのも可愛らしい。

息子は、苦手な物からやるタイプらしく、真っ先にポスターを書き始めた。
真っ白な画用紙に、下書きもせず、どんどん色を載せていく。
水性絵具だから、色が混ざって変なことになっている部分もある。
それを見ながら、ふと「人生って、ポスターみたいだな」とつぶやいた。

ポスター作りを嫌々やっている息子の集中は浅く、動いていた手を止めて、「どういうこと?」と聞き返してきた。
私は頑張って説明してみることにした。

「う~ん、例えば、赤ちゃんは何もわからないじゃん?危険なこともするし、食べたらダメな物も食べようとする。これって、何色にも染まる画用紙みたいじゃない?そして情報が、その絵具の絵。
大人になるにつれて、その絵がどんどん増えていく。
薄い色の上に濃い色で書くことはできるけど、逆はできないでしょ?
だから大人になると、受け入れられる情報と、受け入れられない情報が出てくる。頑固な人っていない?」

そう聞くと、息子は元気よく答えた。
「隣のクラスの先生!!めっちゃ頑固って、みんなで文句言ってる!」
「そうそう。そういう人は、きっともう人生の画用紙にたくさんの絵を書いちゃっているんじゃないかな?だから頑固なのかも」
「でもさ、教頭先生はもっと優しいよ?それなら、年取っているほうが頑固なんじゃないの?」
「そうだね…。ある程度年を取ると、何色で描いたらいいか、とかもわかるのかもね。例えば、隣のクラスの先生は、今までは画用紙に何色でも絵が描けていたんだよ。でも、もう真っ白なところがなくなっちゃった。だから、今までみたいに好きな色で描いても描けなくなっちゃっている。教頭先生は、それを知って、下の色より濃い色で描く、ということを知っているんじゃないかな?」

「ふーん」
伝わったのか、伝わっていないのか、ポスターを見つめながら、心ここにあらず、という感じで返事がきた。
息子はそのまましばらくポスターとにらめっこをしていたが、何かをひらめいたように、ニッと笑うと
「じゃあこれで完成だ!」
と、まだまだ白い部分の多いポスターを完成と言い始めた。

「え、どういうこと?」と私が聞き返すと
「このポスターの題は『人生』にする!掲示したものに描きこんでもらって完成する作品!だから僕はここまででいいの」
と堂々と宣言して、絵具を片付け始めた。
絵具を片付け終えると「じゃ、遊びに行ってくるね」と元気よく外へ飛び出していった。

先生に好かれる作品かはわからないけど…
我が家の息子らしくていいかもな、と乾かしているポスターを見ながら、口角が自然と上がるのを感じた。

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