マルクス・ジャンキーは死なず

マルクス・ジャンキーは死なず
“シーチン”修一 2.0

【雀庵の「大戦序章」164/通算595 2023/4/13/木】1941年の日米開戦からGHQ米軍占領下の1951年あたりまでに生まれた大学生を「戦中戦後マルクス・レーニン(ML)教絶対主義世代」、簡潔に「ML教」とか「岩波チルドレン」と言ってもあながち間違いではないだろう。一般常識としてマルクスの「共産党宣言」くらいは目を通している。

その次の世代、1952年以降に生まれた人は1960年からの高度経済成長時代に青年になった。海外渡航が自由化された1964年以降、特に1970年のB747、通称ジャンボ機が登場すると航空運賃がべらぼうに安くなったので、欧米に留学(あるいは遊学?)する青年も増えていった。留学生は勉強とアルバイトと遊びで忙しいから共産主義に洗脳されることはまずなかったろう。まことに幸いである。

青年時代を永らく米国で過ごしたYさんからお尋ねがあった。「日本の東大・朝日・岩波の高学歴者は何故マルクス・ジャンキーになるのか?」

「ML教=共産主義」は1917年のロシア革命以来、世界に大きな影響を与えた思想・理論・宗教である。マルクス・ジャンキーになった小生の体験を交えて以下、説明する。

公務執行妨害罪、威力業務妨害罪、強制執行妨害罪の3点セットでお縄を頂戴した小生が保釈されたのは1971年12月末だった。独房で共産主義思想に疑問を抱いて以来、悶々としていたが、1972年2月、連合赤軍による「あさま山荘事件」が起き、凄惨な「リンチ殺害事件」も発覚した。

これにより「共産主義≒邪教≒狂気」という見方が急速に広まり、反日共系の「新左翼」過激派は急速に衰退していった。最盛期の動員数は70万人、今は全国で確信犯的な活動家は500人いるかどうか。それもヂヂイばっかりのよう。振り返れば新左翼はたった10年ほどの存在だった。

新左翼の著しい後退により、それまで“聖書”のようだったマルクスの「共産党宣言」を読む若者は急減していった。戦後、永らく最大野党だった共産主義志向の日本社会党も事実上消滅した(現在の立憲民主党より遥かにまともな政党だった)。

今どき「私は共産主義者です」という人は自由陣営ではほとんどいない。老舗の日共は選挙でも「共産主義を目指します」とは言わずに「平和・暮らし守る共産党」とアピールしている。つまり今は「平和な暮らし」だと認識している。日本共産党綱領にはこうある。

<発達した資本主義国での社会変革は、社会主義・共産主義への大道である。日本共産党が果たすべき役割は、世界的にもきわめて大きい。日本共産党は、それぞれの段階で日本社会が必要とする変革の諸課題の遂行に努力をそそぎながら、二一世紀を、搾取も抑圧もない共同社会の建設に向かう人類史的な前進の世紀とすることをめざして、力をつくすものである>

「発達した資本主義国」で国民は平和な暮らしをしているのに、「搾取も抑圧もある」から共産主義を目指す・・・かなり無理筋の論で、こういうのを自家撞着と言うのだろう。世界中の共産主義系政党と同様、日共も「党員による、党員のための、党員独裁の党」である。ガラパゴス、末期症状だ。

小生は1970年前後の3、4年間は共産主義暴力革命を目指すアカだったが、その10年前の1960年安保騒動の時とか、1945年の敗戦から間もない頃、即ち「貧しさ」「生活苦」がまだあった頃に街頭演説するなら、同志諸君、怒りをもて報いよ、イザッ!とばかりにこう訴えたろう。

「食糧が不足して貧しい時は皆が貧しく、食糧が十分で豊かな時は皆が豊かに暮らす・・・しかし現実はどうだ?! 我々が飢えている時に資本家や金持ちはたらふく食っている! 豊作の時には彼らは蔵にいっぱい食糧を貯め込んだり他所の国に売って金儲けしたりしているが、我々は相変わらず腹をすかしている!

同志諸君! こんな理不尽なことが許されるのか?! 天も神も許しはしない! 我らも怒っている! 涙も枯れ果てた! 無為徒食の特権階級、私利私欲のゴウツク階級を駆逐せよ!

汗をかき努力した者が報われる機会均等の社会を目指せ! 皆が平等、公平で、搾取のない世界、この世の天国を創ろう! 革命の旗を振れ! 鎌とハンマーで鉄槌を下せ! 万国の労働者、農民、貧しき者よ、団結せよ!」

アカのアジテーターはこう叫んで民衆を煽り、特権階級や資産家、地主、工場主、企業家、実業家、さらには穏健派を屈服させたり殺して共産主義革命を進めた。死屍累々・・・

しかし革命のリーダー達は将兵の後ろの安全地帯から指示するだけだから死なない、概ね長寿。革命後は農地を含むすべての土地、食糧、大きな工場、建物、軍事力、武器などは共産党の所有物になり、さらに国民のすべては共産党の奴隷にされた。「この世をば我が世とぞ思う」心境だったろう。

レーニン、スターリンのロシア革命、毛沢東、朱徳の中国革命、カストロ、ゲバラのキューバ革命などなど、古い特権階級が滅びて新しい特権階級、赤い貴族が生まれただけである。看板の「プロレタリアート独裁」は速攻で「共産党幹部独裁」に化け、民は未だに言論の自由もない。赤色政権を非難すれば命の危険さえある。

第2次大戦後、日本を含めた西側諸国は共産主義革命を恐れた。狡猾、残虐なスターリン・ソ連は武力で周辺諸国を制覇していった。西側諸国の為政者は、「国民が貧窮していると共産主義者に扇動されて暴力革命が起きかねない」と警戒し、どうにか戦後復興した1960年頃から、貧民や低所得者を支援、慰撫する生活保護など「福祉政策」に力を入れるようになった。

同時に「国民は消費者だ、給料を上げて購買力を高めれば経済も活性化する、政治への期待も高まり共産主義に走ることもなくなる、国民“総中流”を目指そう!」となった。公共事業、民間事業を拡大し、同時に消費を煽ることでそれを実現していった(ケインズ理論)。

これはマルクスもレーニンもまったく予想していなかった資本主義銭ゲバ経済の「福祉国家化大革命」である。庶民がカー、クーラー、カラーテレビを持ち、グルメを楽しみ、流行りの服を着、海外旅行も楽しむようになった。生産者は売れるものを供給し、消費者は欲しいものを購入する・・・経済は活性化する。

一方で共産主義国は「計画経済」という、恐ろしく硬直した制度のままだった。小麦を1万トン生産すると計画しても天気に左右される。干ばつで8000トンになったりする。1万トン生産できて駅まで運んでも倉庫がない、貨物列車が来ない、そのうち雨が降って腐り出す。そもそも1万トン生産したと言っても猫ババして9000トンしか納品しない・・・

一事が万事で共産圏は何から何まで慢性的な物不足で、今の北朝鮮のようにソ連・ロシアやウクライナ、中共でも餓死者続出は珍しくなかった。それでも独裁者は「天気が悪かったから」の一言で終わりである。反省なんぞしない。国民の命や暮らしになんて気を配らない。国家の財産である家畜が死ぬと事件だが、国民が餓死しても屁の河童、毛沢東曰く「大体我が国は人口が多過ぎる、核戦争で半分死んでもいい」。毛沢東は偉大なり!? 内戦時代を含めると1億人は殺している。

プーチンは将来をにらんでウクライナの子供を誘拐している。人口が少ない時は他国からかっぱらって来ればいい、シベリア開発は日本兵を奴隷にすればいい・・・ロシア、中共など赤色帝国はそういうやりかたである。

共産圏の実態は酷いものである。それにもかかわらず無知なのか、好きなのか、先進国でも「リベラル」を装った共産主義独裁信奉者は相変わらず多い。

「宮崎正弘の国際情勢解題」令和五年(2023)4月11日「マクロン大統領『欧州が米国に追従しなければならないと考えるのは最悪』 習近平はマクロンとの会談で『NATO同盟に鮮明な亀裂』を認識した」はショッキングだった。

<マクロン・仏大統領は5日に北京入りし、訪中の狙いについて、こう語った。「中国は、ロシアと密接な関係を持っているから、重要な役割を担える。紛争解決への意欲も示した」>

マクロンを「いささか軽佻浮薄な指導者か?」と思っていた小生は甘かったようだ。本質はバ〇どころかアカ、自由世界の敵のよう。宮崎氏曰く――

<フランスでは左翼政治家でもドゴールの真似をしたがる。「フランスの栄光と独立」を訴えると選挙で受ける。まるでナショナリストの愛国政党「国民戦線」のルペンが言っていることと同じである。フランスの指導者はつねに大国に抗しているポーズ、主権を著しく声高に主張するから、リベラル派でも国家主義者かと勘違いしてしまう。

4月第二週にフランス議員団の台湾訪問を横目にしながら、マクロンは平然と訪中し、中国で大歓迎を受けた。マクロンは中国で「ミニ・ドゴール」を演じた。

習近平も異例の歓待で夕食会も二回、そのうえ広州にまで付き合って茶会を愉しみ、庭園を歩く光景は、習がマクロンを諭すような画面を選んでテレビニュース番組で流し続けた。習近平は「米欧同盟に亀裂をいれた中国外交の成果だ」とボリュームいっぱいに宣伝したかったのだ。
 
4月9日、マクロンは帰国の大統領専用機で『ルモンド』政治部との会見に応じ、「欧州は台湾に関して米国や中国の『追随者』であってはならない」。つまり「台湾問題でアメリカのような関与政策からは鮮明に距離を置くべきだ」と述べた。台湾支持を訴えるアメリカに追随しないという方針を遠回しに表現したのであり、「私たちのものではない台湾の危機に巻き込まれるリスクがある」という表現をした。

ワシントンは以前からマクロンに不信感を抱いてきた。ウクライナ戦争の緒線では、モスクワとキエフの間をマクロンは廊下鳶(*)のように動き回り、プーチンからも相手にされなかった。(*ろうかとんび:特に用もないのに廊下をうろうろしたり、他の部屋をのぞいたりすること。また、その人)

マクロンは「私たち欧州人はアメリカの方針と中国の過剰反応に追従しなければならないと考えるのは最悪」と言った。たぶんドゴールなら英米に向かってそう言っただろう。

「フランスの見解が米国と重なる部分を明確にする必要がありますが、それがウクライナ、中国との関係、または制裁に関するものであるかどうかにかかわらず、私たちはヨーロッパの戦略を持っており、西側vs中露という対立構造には加わりたくない」

以前から指摘してきたが、マクロンはウクライナに批判的でありクリミア半島奪還などあり得ないと示唆してきた>(以上)

マクロン・・・すこぶる怪しい奴! 孤高の哲人宰相ドゴールは、第2次大戦でボロボロになったフランスを建て直すにあたって、国家の安全保障を米国の「核の傘」に委ねるのは危険だ、当てにならない、と、世界の猛反対を受けながら独自の核兵器を備えた。さらにソ連、ドイツを孤立させる危険を緩和するため両国とも友好関係を結んだ。そこにはドゴールの確固とした安保哲学があった。

2023/4/7の産経・三井美奈氏は「フランス 不安な中国外交」で、「フランスが、またやるのではないか。昨年はウクライナ和平仲介を目指し、ロシアのプーチン大統領に騙された。今度は中国の習近平国家主席に入れ込む。大丈夫なのだろうか」と懸念していた。

悪い予感は大当たり! マクロンの言動はあまりにも軽薄で大顰蹙を買っている。ドイツのレットゲン下院議員(キリスト民主党)は「マクロンの今回の訪中は中国には完璧な勝利、欧州には外交的災難」と評した。欧州議会中国政策代表団のビュティコファー議長は「欧州の戦略的自律性に関するマクロンの構想は現実を越えた夢想」と批判した(北に脅かされている韓国の中央日報4/12)。バ〇につける薬なし・・・「マクロン、グッジョブ!」と大喜びしているのは習近平とプーチンだけだろう。 

なお、前回触れた「陸軍中野学校の光と影 インテリジェンス・スクール全史」詳細は次号で紹介したい。

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