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切れ味の悪い包丁

腕を引っ掻いて自傷した後、包丁が出しっぱなしになっているのを見つけた。

もう全てがどうでも良くて、包丁を持って腹に押し当てた。死ぬつもりで力を入れたのに、少しも傷がつかなかった。見ると、刃こぼれしていた。ひどい鈍だった。

その後も腕を切ろうとしてみたが、上手くいかなかった。

でも、包丁を強く握っていると、心が落ち着いた。自分で死ぬことができる安心感。

包丁で腹を切ろうとしている時は、緊張とか、興奮とか、そんなものはなかった。
ただ、凪いだ気持ちだけがあった。もし、包丁がきちんと研いであったら、死んでいただろう。

そして、もし見つけたのが包丁でなく、玄関の鍵であったら、私は間違いなくアパートの最上階へ行き、飛び降りていたと思う。
それくらい、いろんなことがどうでも良かった。

私の死んだ後のこととか、微塵も考えなかった。家族のことなんて、頭に浮かばなかった。


いつか、こういう気持ちで私は死んでいくんだなと思った。

それだけ。

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