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《黒の舟唄2》嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~六十の歌~

《黒の舟唄2》原作:小式部内侍
「一緒に死んであげる。」
十八歳の小式部は大きな瞳をクリクリさせた。
おでこを俺の額に押し当てて、「ウリウリ、うれしいやろ?」と言う。
さらさらの長い黒髪からシャンプーの香りがした。
俺、十九歳。仕事はあらへんし、酒びたりのオヤジはDV愛好者。
死にぞこないのばあさんはアルツハイマーでヨイヨイ。
母親は見たことない。
生きててもどないしようもあらへん。
この街過ぎて、あの山こえて、闇夜に船出して、二人で逝こうか。
その先は、わからへんけど……。

<承前五十九の歌>
「定家様、温めてくださりませ、式子の足先を」
足の爪は桜色に染まり、肌は真白く輝いていた。
定家は両手で式子の足先を包み込む。冷たい白魚のような
それが定家の掌の中で泳いだ。定家は息を暖かく吹きかける。
そして、緩やかに揉みほぐしてゆく。
式子を想う定家の狂おしさは熱せられ、ゆらゆらと陽炎のように気化して
いた。そこに式子の放つ艶めく炎が燃え移る。式子の足先が次第に桃色に染まってきた。
「あぁ、気持ちの良い。定家様はおなごの扱いに慣れておられる」
怨じるような式子の眼差しだった。
「定家様、左の足先もそのように……」
式子は左の爪先、足の甲、そして、足首まで几帳の裾からのぞかせた。定家は右の時と同じように両手で包み込む。じりじりと灯明が何事かを迫った。
「大江山 いく野の道の 遠ければ  まだふみも見ず 天の橋立。定家様はいくじなし。」
式子の声がした。
<後続六十一の歌>


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