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《水女門(みなと)≫嵯峨野小倉山荘色紙和歌異聞~四十六の歌~

《水女門(みなと)≫ 原作:曽禰好忠
「うちはあんたのもんや!」
俺のほとばしる愛を深く受け入れた刹那、
叫び上げ、身体を痙攣させたおまえ。

今は誰とも知らない男と暮らすおまえ。

春の午後、人里はなれた由良の湖の青い木陰の水辺、
舵を横たえた箱舟の中で
俺達は行方も知らない愛を貪った。

湧き立つ記憶は陽炎。眉間に、喘ぐおまえが揺らめく。

定家「由良の門を 渡る舟人 かぢをたえ  ゆくへも知らぬ 恋の道か
な。流され、揺られ、浮き沈み、恋は迷い続ける」
蓮生「由良の瀬戸をこぎ渡ろうとする妾。けれども、舵をなくして、行く先もわからず波にただよっている。目が眩む孤舟の中で、行方知らずの愛に慄く……。底なしの絶望の淵を覗き見る」
定家「愛の記憶は消しても、消しても、その度、いや増しに鮮やかに蘇るもんや」

※由良の門・・・「由良」は京都府の由良川のこと。「門」は、川の流れの出入り口。


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