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源氏供養のあとさき

皆様は私よりもご存じと思う。
「源氏供養草子」
能演目のひとつですね。
石山寺を参詣に訪れた安居院の法印に声をかけた女。それは、自分が書いた『源氏物語』の主人公である光源氏を供養しなかったために成仏できないとされる紫式部。このとき紫式部が法印に頼んだことは、光源氏の供養と自分を弔うこと。そのことを法印に頼み巻物を渡して、演目は進む……。

紫式部堕地獄説というものは、平安末期からみられる事象。

紫式部が創作小説として紡いだ『源氏物語』。創作とは申せ多くの人を殺めてきた。その狂言綺語の罪で地獄に落ちたという説は、存外と古い。
そして源氏供養という戯曲は三島由紀夫により発表され、これが今日で広く浸透される紫式部堕地獄説の一旦だろう。

平安時代末期の仏教説話集『宝物集』、鎌倉時代中期の説話集『今物語』では、かく説く。
「紫式部は『源氏物語』という嘘を広めて多くの人の心を惑わしたために、地獄に落ちた」
片や平安時代末期に成立した『今鏡』では、紫式部が地獄に落ちたことに対する反論がある。
源氏物語を嘘の話だからというだけ地獄に落とされるなら、紫式部もたまったものではないでしょう。仏教に破戒にあたる官能という場面こそ、当時の物差で弾劾されるポイントだったのかも知れません。
そう、源氏物語は日本初の官能小説でもあるのですから。

京都の北西部にあたる紫野。
紫式部の墓所とされる史跡がある。なぜか隣にあるのが、小野篁の墓。小野篁はアルファポリスで発表した「閻魔の庁」の主人公、閻魔大王の片腕とされる人物。
「地獄に落ちた紫式部を救ったのが小野篁」
近年はそんな伝説もある。

作家は地獄に落ちる

まさかぁと云いたいですが、作中で如何ほどの人間を殺めてきたことか。
殺意ではなく創意であったとしても人殺しだと突き放されてしまったら……いずれ私も地獄道、である。