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No. 28 英語教育とidentityについて 21【吃音と第二言語学習】

はじめに

前回の投稿では、『「自傷的自己愛」と精神分析」という斎藤環氏の本の内容から、第二言語習得論 (SLA)におけるidentityとの共通点や相違点を考えてみました。飛躍した議論や、解釈上の誤りがあったかもしれませんが、こうやって自分の専門領域と一見関係のなさそうなものを比べてみるとより考えが深まることがあります。僕自身にとっての「学び」とはまさにこのことで、とてつもない喜びを覚える瞬間でもあります

今回の投稿では、伊藤亜紗氏の『どもる体』(医学書院)から、第二言語学習について考えていきたいと思います。今回の投稿も、専門家の方から「吃音と第二言語学習は全く別物だ」といわれてしまってもおかしくありませんが、読んでいて第二言語学習と似ていることが多くあり、とても感銘を受けました。また、identityにも関連しているように思える記載が多々あり、ものすごく興味深かったです(このことについては次回の投稿で書きます)。
では、さっそく『どもる体』の内容をみていきましょう。

どもる体

伊藤氏は、吃音を「体のコントロールが外れた状態」(p. 11) と表しています。このように、話すという言語行為を社会的なものとしてのみならず、身体的なもの、つまり運動としても解説しているのがこの本の一つの特徴です(だからタイトルも、「体」となっているのですね!)そして、人がなぜしゃべれるのかということも検討しています。他の運動と同様にしゃべるという運動もまずは意識的に体を操作しますが、それでは大変なので「パターン」と身につけ、「意識」をする必要性をなくすことで音を連続して発することできるようになり、流暢に話せるのだと言います。

吃音には3種類あるとしています。「連発」「難発」「言い換え」です。「連発」とは、キーボードの同じキーを長押ししたときのように同じ音を繰り替えすことを指します。「難発」とは、言葉がつまり、間が空いてしまう状態です。そして「言い換え」は、難発になりそうな言葉を他の言葉に置き換えて話すことを指しています。興味深いのが、筆者は難発を連発が起きるのを防ぐための「対処法」とみなしている点です。同様に、言い換えは難発をさけるための方法と見ています。このようにそれぞれの吃音の種類は、症状であると同時に対処法であり、スキルのように「獲得する」ものであるようです。

また、「のる/のっとられる」という用語を用いて、吃音の症状との付き合い方について述べています。簡単にいうと、「のる」とは「既存のパターンを使いながら動く」ことで (p. 184)、「のっとられる」というのは文字通り、自分の意思でしゃべれず、身体を乗っ取られることです。それがどういう意味を持ち、影響があるのかについては、次回の投稿で詳述します。

以上が吃音に関しての簡単な説明になります。
ここからは、本文中にあった表現を拾いながら、第二言語学習と似ている点を考えていきたいと思います。


どもる体と第二言語学習

今回の投稿では、吃音の3種類と第二言語学習の似ている点について表にまとめましたので、以下をご覧ください。

表の左側「吃音」の方を見ると、第二言語学習との共通点が意外にも多くて驚かれるのではないでしょうか?

もちろん私は吃音症の専門家ではないですし、この本の中でも第二言語学習との違いについて時折明確に述べられていますが、似たような現象が起きていると考えられることも多いと思います。
であるならば、吃音の支援・指導と第二言語学習の支援・指導は、場合によっては互いに応用が効くのではないか、と考えることもできるはずです。
いつもいつも自分の専門領域の知見や経験に頼るのではなく、時々少し離れた領域から学んでみるのも良いかもしれませんね。

おわりに

吃音と第二言語学習。一見関係ないように思えるものでも、互いの知見や実践を生かすことで、よりよい支援・指導ができるようになるかもしれません。

今回はidentityとの関連について触れられませんでしたが(やろうとしたらあまりに膨大な内容量で挫折しました・・・)、次回はこの「どもる体」とidentityの似ているところなどについてまとめていきたいと思います。これもまた、かぶるところが多くて面白いですよ!


参考文献

伊藤亜紗 (2018). 『どもる体』医学書院.


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