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飛行機事故について思うこと

今日だけは真面目に更新しようと思います。
1月2日の飛行機事故について。 

もう客室乗務員の仕事から離れて5年以上が経つけど、あの仕事の経験があるという視点で思うことを少しここに残させてください。

昨日の事故、A350についてだけ言及すると、400人近い乗客、乗員が全員無事だった1番の要因は、間違いなくCAの力だと思う。

緊急脱出の時点で機体は炎上、脱出用スライドは使える場所と使えない場所がある。
あの状況で全員が避難できたのは、昨日乗務されていたCAさんの判断力と日頃の訓練の成果。

そしてもう一つは、乗り合わせていたお客さんがある程度指示に従って行動した、ということも大きく動いたのではないかと思う。

現場の詳細は知らないし、きっとパニックになった人や叫ぶ人もいたはず。
だけどおそらく多くの乗客は、CAの言うことを聞いて行動したのではないかと。

私が見た機内の様子の動画では、叫ぶ人はいたものの、座って指示を待っている人が大半だった。



私がCAとして中東で働いていた時、隣の国のエアラインで着陸時に事故があった。

リアルタイムで訓練の際にその時の動画をたくさん見たけど、炎上する機体の映像よりも、煙が発生している機内でCAの指示を聞かずに立ち上がり、自分の荷物を下ろそうとす人たちがたくさんいる映像を見た時の方がゾッとした。

いくら訓練を積んでいても、あそこまで指示を無視した行動をされたら助かる命も助かる気が全くしない。

スライドは思っているより急で距離もある。荷物を持った状態で避難したら、スライドに穴があくかもしれない。もしくは自身がバランスを崩し、落ちて死ぬかもしれない。

昨日乗り合わせた乗客の荷物は全て焼けてしまったとのことだけど、だからこその全員生存だと思う。

そして一刻も早く逃げ出したい、ドアを開けて!という気持ちは分かるけど、昨日のケースで着陸後すぐに全ての非常口を開けて全てのスライドを出したとしたら、避難した非常口によって助かる人と死ぬ人が分かれます。

全員生存するために、限られた時間でCA同士で連携を取り、どのスライドだったら無事に逃げられるかの正しい判断した昨日のCAさん達。すぐに全てのドアが開かないのにもきちんと理由がある。

これを機に、離陸前の機内の安全ビデオに目を向けて耳を傾ける人が増えること、そして機内でCAの指示をきちんと聞ける人が増えることを願います。

非常口付近の座席では、離着陸時に足元や膝上に荷物が置けない。
着陸後すぐに降りたいから、急いでるから、事情はあるかもしれないけど、守ってほしい。事故の際に非常口付近に妨げになるものがあるのは本当に命取りです。

疲れているからリクライニングをギリギリまで倒していたい、眩しいから窓は開けたくない、それでも離着陸前のCAの指示は守ってほしい。全て安全に関わる理由があります。



ここからは私の場合の話なので航空会社によって詳細は異なると思うけど、保安に関するトレーニングは本当に地獄みたいな毎日だった。

実技では飛行機のモックアップで1人ずつ指名され、こういうシチュエーションです、緊急脱出してください、と各々にシナリオが与えられ、その状況を想定してトレーニングを行う。

訓練で大声で叫ぶ私達、少しのミスに対しても怒号を飛ばす教官。雑談一つ許されない空気が毎日続いていた。

バッチメイトの1人が乗客を非難させるために非常口付近で指示を叫んでいる実技訓練をしている時、教官が突然後ろから彼女のことを突き飛ばしたこともあった。

「今手すりから手が離れたから、あなたはもう飛行機から落ちて死んだ。あなたが死んだせいで、この非常口は指示するクルーを失って無法地帯。あなたのせいで、助かったはずの乗客も死ぬ。」

色んな状況に対して判断、対応するだけでなく、乗客のパニックを想定して、手すりひとつも全力で握っておかなければいけない。海の上で着陸する場合、飛行機が燃えた場合、緊急着陸で同僚がすでに死んでいる場合、毎日考えられる事故を想定しながらの訓練が続いた。

座学のトレーニングも、ただ座って学ぶだけではなかった。テストが頻繁にあり、合格できなかったら強制帰国。本当に、ずっと気が張っていた。

座学の時間に、教官がバッチメイトのうちの1人にこんなことを聞いたこともあった。

「飛行機が炎上して、緊急脱出をする必要があります。乗客は皆避難し終えて、機内に残ってるのはあなたと、今あなたの隣に座ってるA (実名)のみです。Aはこの事故で動けないくらいに負傷してたとします。その時のあなたのアクションは?」

そう聞かれた私の同期は、一瞬の躊躇いを見せた。すぐに教官は教室全体に問いかけた。

「誰か答えは?」

3秒ほどの沈黙があり、教官がすぐにこう言った。

「こんな簡単な判断が即座に出来ないあなた達は使えない。こんな乗務員はいらない。全員帰国したらいい。」

答えは分かっていた。Aのことは助けない。機内に置いたまま自分だけ脱出する。

一刻を争う状況で、動けない人を助けることに時間を割いている場合ではない。自分もすぐに脱出して、生存している乗客の命を守ることが優先。

分かっていても、いざ毎日一緒に必死にトレーニングに耐えているバッチメイトの実名を出されてその状況を想像させられると、答えるのに戸惑ってしまった。

その後に教官が言ったことも強烈に覚えている。

答えるのに戸惑った気持ちがあるのなら、自分がもしその状況で機内に置いていかれる側になった時には、同僚を恨むな、と。

そういうトレーニングを受けてきた。

あの仕事から離れて5年以上経っても、緊急脱出のコマンドは忘れられず丸暗記している。


サービス要員と思われがちなCAだけど、保安の訓練に割いてる時間の方が圧倒的に長い。客室乗務員は、第一に保安要員です。

だから、飛行機に乗るときはどうかCAの言うことを聞いてほしいなと心から思います。

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