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【#2000字のドラマ】受験前夜に見た知らないお姉さんの笑顔

真冬の東北のとある県庁所在地。受験のために海を渡りやってきた。
俺は一応受験生だ。勉強というものにはほとんど興味を示さず、部活だけ必死にやり、引退した後は惰性で生きてきた陰キャでコミュ障の高校3年生だ。そんな俺にとって地元を離れての受験は半ば旅行だ。とはいえ緊張はする。

知らない街の夜は綺麗だ。ここに住みたいと思いつつ、でもどこかで落ちるのを悟っていた俺にはやっぱり無理なのかとも思いつつ、人の流れに身を任せてみる。
しばらくして空腹が俺を襲ってきた。この際隣の駅の評判の店に行ってみようか。
歩き続けてたどり着いたターミナル駅から1駅、列車に乗ってみようと思った。

改札を抜けて、エスカレーターに乗り、跨線橋を昇る。突如バキッという聞いたことの無い音と女性の「うわっ」という悲鳴混じりの声が聞こえた。俺の3人前の人らしい。
見ると彼女のヒールが折れていた。

エスカレーターを降りて歩き出すが、彼女の歩きはヒールのせいで明らかにおかしく、上手く歩けていなかった。気の毒にと思いつつ彼女を抜かし、目的の列車が止まるホームへ歩みを進めた。大丈夫かなと思いながらも助けなきゃとも思いながらも、自分の中で思いが揺らぐ。
後ろを振り向くとつらそうな表情で手すりにしがみつきながら何とか歩こうとする彼女の姿が見えた。手すりの反対側の手には大きなスーツケース、これは本当に大変だ。
やっぱり助けよう。普段人助けなどしたことないが、この時は勇気をだして声をかけてみた。

「足、大丈夫ですか?」

彼女は驚きとも怯えとも取れる表情でこちらを見てきた。その表情は歪んでいるが、多分笑顔は可愛いショートヘアのお姉さんだった。

「いえ大丈夫…じゃないです。」

最近の日本人は俺も含めてすぐ大丈夫だと言いがちだ。
それでも彼女もまた勇気をだして助けを求めてくれた。

この駅には跨線橋からホームまでの下りエスカレーターがない。

「大丈夫ですよ。スーツケース運びますので。」

努めて大袈裟なぐらいの笑顔を作る。人にスーツケースを預けるというのはなかなかできたことではない。自分が安全な人であることを理解してもらわなければいけない。

「あ、ありがとうございます…」

おずおずと彼女はスーツケースを差し出した。そしてそのスーツケースに俺は左手をかけ、彼女に右手を差し出した。

彼女はガシッと俺の腕を掴んだ。正直普通に手を握る感じを想像していたので驚いたしドキドキした。
俺は彼女なんていた事がないし女兄弟もいない。女子の友達も多い訳では無いので女性にここまで頼られるというのは人生で初めてのことであり、どうすればいいだろうかと迷った。女性と手を握るだけでも十分ドキドキするのにまして知らない女性とこんなに近い距離感でしっかり腕を掴まれることは人生でそうあるものでは無い。緊張を初めとした色々な気持ちが入り乱れる。
しかし俺は今ヒールが折れたお姉さんに完全に頼られていることに変わりない。焦りが伝染しないよう冷静にと意識した。

「大丈夫ですよ。ゆっくりでいいので。」

彼女に向けて言葉をかけながら1歩いっぽ階段をおりていくが、その言葉は自分で自分を落ち着かせる言葉でもあった。
左手のスーツケースが想像を上回る重さだった。誰の助けもなくこのスーツケースをもって階段を降りるのは難しいだろう。

「大丈夫、大丈夫です。焦らないで。」

彼女はこくこくと頷く。

「あと少し、頑張って…!」

できるだけ声をかけ続ける。
20段にも満たないであろう駅の階段がものすごく遠く感じたが、確実に1段1段踏みしめ残りの段数が減っていく。
そしてついにホームにたどり着いた。

「よかったあああ」

階段を何とか降りて2人して緊張がほぐれ深いため息が出た。

「助かりました!!ありがとうございます!!」

そう言ってくれたお姉さんの笑顔は「花が咲くような」とか「太陽のような」というふうに形容されるぐらい眩しく可愛かった。

何とかたどり着いた列車に2人で乗り込んだ。
帰宅ラッシュの時間ということもあり、座る余裕はなく俺らは立つことを余儀なくされた。
列車が動きだし、ポイントを抜けて右に左に揺れる。
バランスを崩し慌てて吊革を掴む。左を見ると隣の彼女と目が合いニコッとしてくれた。

俺は1駅しか乗らないのですぐ降りた。
その時彼女は深く礼をして、またあの眩しい笑顔を見せてくれて手を振ってくれた。

結局次の日の受験に俺は落ちた。こうして俺は浪人をしてもう浪人生活も後半戦だ。

あの時の彼女がその後どうなったのか、そもそもどういう方なのかもよくわからない。逆に俺がどんな人間かも名乗らなかったので彼女も俺が翌日受験する人だとは思わなかっただろう。

もうすぐまた受験が迫ってくる。もう1回ちゃんと勉強したいと思って浪人しているが緊張や恐怖を感じる時もある。
そんな時、俺が勇気を出したからこそ見れたあの眩しい笑顔を思い出し頑張ろうと思うのだ。

あのお姉さんは今どこで何をしているんだろう。
名前も知らない人に思いを馳せてもう一度ペンを手にした。

あとがき

今回は箸休め回です!!

勉強の話ばかりではつまらないのでたまには短編小説っぽく息抜きです!!

「2000字のドラマ」というタグを見て書いてみたのですが、日常の話ではないし登場人物も2人だけですが書いてみたくて書いただけなのでその辺は許してください!!

実はこの話は自分の実体験を元に作った話なんですよー

昨日のことのような思い出ですがもうあれから半年以上過ぎていたんですね。

さあもう1回スイッチ入れ直して勉強頑張ろう!!!

以上ありがとうございました!!!

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