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連続短編小説集[int i]

【8:結局】

 ——彼は・・昔から何も変わらないなあ・・・・・・・・・・・・
 彼は自分が興味ないことには完全に忘れてしまう。
 なのに、私との出来事はかなりの記憶がある。
 つまり——私のことが大好きなのだろう、という勝手な判断をしている。
「結局、食事会の時にした狼君の結論は自分の本当の気持ちではない・・・・・・・・・・・・・と思うんだけど、違うかな」
『……春さんには叶いませんね』
「もちろん。もう狼君と出会えて私は嬉しかったのに、狼君は何も感じなかったの?」
『……少し長くなるんですけど、今の俺の気持ち、聞いてくれますか?』
「もちろん」

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 私と大学で離れて以降、彼は医学部に入り真剣に医者になる目標を掲げながら勤勉した。
 だけどその大学は県内でも治安が悪い大学で有名なところで、彼はいじめの現場を目撃してきた。
 そしていじめられていた学生が退学すると、次の標的は狼君に変わった。
 さすがに大学生だからか、暴力的なことはなかったが、陰口や物がなくなったりすること、ハブなどが頻発した。
 一回は狼君の心は折れかけた。
 くじけそうになったらしい。
 でも、まだ私がレインのアカウントを消す前に何度か話していて彼の精神状態は安定していた。
 それに、狼君の父親は狼君に対して何度も声をかけ続けた。
 それでも、いじめがなくなるわけではなく、彼の精神は衰退していった。
 丁度私とも縁が切れた瞬間だった。
 
彼はうつ病を患い、彼の父が診療を始めた。
 診断結果は極度のストレスによる精神疲労。
 何度も重なる診療。
 そして何度かくじけそうになり、死にたいなどと言葉を発したときに父に言われた言葉があるそうだ。


「ここでくじけたらお前は負け犬になる」


 そういったらしい。
 進化をした。
 うつ病にも負けぬように投薬を続けた。
 学校に行かずに家での勉強を頑張った。
 そして大学卒業と同時に精神科医の国家資格を取得した。
 そして今に至る。

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『……そんな感じです。なんというか、重すぎて逆に笑えてきますよね』
「ごめん……何も面白くないよ?」
『え』
 私はその話を聞いて思った感情をぶちまけた。
「だって、学校でいじめにあったのに、誰も味方してないじゃんそれ。しかもお父さんに負け犬なんて言われてるし。そんなんでいいの?」
『それは……よくないけどそれでも俺は頑張ったほうだし。今もこうして心療内科を続けていられる』
「だから? それでも励ましも何もなく結局自分で解決してるじゃん」
 彼は一息数と吐き出した。



『俺に似てる童話の話を聞いてよ』


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