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#3 アラサーチー牛が英語を勉強してUKに行く話

高樹リサは悩みがあった。年上の後輩の窪塚血牛男のことである。彼が入社する前から、私は当時の先輩に怪しい経歴の人間が応募してきたという話を聞いていた。何を隠そう彼は私と同じ高校の出身であったから、彼が入社したときにはなんとなく面倒くさいことになりそうだと思ったものだ。

年は3つ離れていたので、窪塚の方から認知されてはおらず、また彼はシステム部への配属が決まったので、企画営業を担当する自分とは今までほとんど接点を持つことはなかった。

状況が変わったのは2ヶ月前。彼女はそれまで二人の後輩とチームだったのだが、一人が結婚を機に退職し、もうひとりが転職し上京してしまったので、人員を補充する必要が生じたのである。二人とも彼女が手塩にかけて育て上げた部下だったために、もーなんでぇ、とひたすらに失望感は大きかった。そこへ補充要員としてやってきたのがシステム部で干され居場所をなくしたという噂の窪塚である。

最初は、会社の後輩かつ高校の先輩というのは大変やりづらいものがあるし、彼が使える人材なのかどうかひどく怪しかった。

しかしながら、彼と組んでみると資料の作成はそこそこできることに気がついた。私は他のプロジェクトが別進行であったこともあり、コレ幸いと思い窪塚に仕事を丸投げしてみたところ期待以上に良い仕事をしてくれた。棚からぼたもちとはこのことであった。彼とは必要以上に関わることはなかったが、もう少し関係を見直したほうがいいかもしれない。

当日、彼にプレゼンを任せてみたが、こちらの方はいまいちだった。致命的なわけではなかったが、特に練習などしていない様子で、これでいいや的な感じを読み取ったので、私の琴線に触れたのである。勢い余って色々とダメ出しをしてしまったが、あとになってパワハラになってないかと不安になった。ちょっと言い過ぎたかもしれない。午後の部の前に謝ろうと思ったが、時間になっても戻ってこなかったので、やっぱり一度きちんとお灸を据えたほうが良い気がする。

「あれ、高樹さんじゃん?」

そんな事を考えていたら、就活に似合わない茶髪のロングヘアの男に名前を呼ばれた。

「...あ、柳さん」

柳 田喜助、2つ上の高校の頃の先輩だった。私が1年の頃、硬式テニス部の部長であったが、それ以上でもそれ以下でもない。ただ窪塚さんとは異なる意味で苦手な人であった。

「うわー偶然だね。ここ高樹さんの会社?」

「はい、そうですよ。柳さんはこっちに戻ってたんですね。」

柳はたしか都内の私立文系の大学に進学したはずである。柳は今年26の年だからこの場にいるのは少し妙だ。上京した者のセオリーとしては首都圏で就職して、帰ってくるにしても30過ぎてからみたいな話ではなかったか。

「うんまぁね。てか高城ちゃんしばらく見ない間にきれいになったよねー。高校の時も可愛い方だったけどさー。」

「あはは、どうもー。」

柳という男は色々と噂のたつ男だったと記憶している、特に女性関係で。今の彼の服装はゆったりとしたデニムに、無地のTシャツ、その上に白のジャケットを羽織っていた。おおよそこの場にふさわしい服装とは言えず、休日にショッピングにきたチャラい兄ちゃんといった出で立ちであった。私が苦手なのはこういうところである。

「これから始まる感じ?せっかくだし聞いていってもいい?」

「ぜひぜひ〜」

なんとなくご遠慮願いたかったが、そういうわけにも行くまい。そろそろ始めたいので、窪塚はまだかと思ったが、気がつけば彼はしれっとブースに座っていた。遅れてきたわりに、まだ始めないんですかとでも言いたげな顔をしていた。彼には人を苛立たせる才能があるのかもしれない。

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