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ケトルベルクリーン

クリーンとは

クリーンは1つのケトルベルもしくは2つのケトルベルをラックポジション(胸の前でケトルベルを保持して静止している姿勢)へと持ち上げる動作です。区別するためには前者はシングルクリーン、後者はダブルクリーンと呼ばれることもあります。
ケトルベルのクリーンは2つのタイプに別れます。
ひとつは地面から持ち上げてラックポジションまでケトルベルを持ち上げるやり方。ケトルベルスポーツではロングサイクルとジャークの競技開始時に1回だけこの方法でクリーンを行います。
もう一つはラックポジションからケトルベルを体の後ろに振り、また再びケトルベルが前方向に動きを変えてラックポジションへ持ち上げるやり方。ケトルベルスポーツでは、ロングサイクルの時は競技開始時の1回を除き、全てこの方法でクリーンを行います。

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クリーンの運動法則

ケトルベルをクリーンで持ち上げることができるかどうかは以下の要因が関係します。

・慣性
・遠心力
・重力
・移動距離
・筋力
・パワー
・空気抵抗

慣性
物体には慣性の法則が働きます。慣性とは静止している物体は静止したまま、動いている物体は等速直線運動を続けようとする性質のことです。よってケトルベルクリーン時においては地面に置いてあるケトルベルをクリーンするよりも、ラックポジションからケトルベルを後ろに振り、再び前向きに円弧起動上を推進しようとするケトルベルをクリーンする方が容易です。

遠心力
遠心力とは回転運動を伴う慣性力のことです。ケトルベルクリーンの運動時においては主に肩関節を視点とした回転運動を伴う慣性力のことで、遠心力が大きくなればなるほどケトルベルを持ち上げる際に必要なエネルギーは少なくて済むのでクリーンは容易になります。

重力
スイング中のケトルベルは重力の働きによって身体の前方に位置する時には後方に移動しようとする力が加わり、身体の後方に位置する時には前方に移動しようとする力が加わります。

移動距離
物体が移動する際の仕事量は、物体に加えた力と物体が移動する距離の積と定義されます。ここで説明する移動距離とはケトルベルがラックポジションへと向かって円弧軌道上を動く距離の長さです。よって移動距離が短いほど仕事量は少なくて済むので必要なエネルギー量は少なくなりますが、実際は短くなりすぎると遠心力を大きく利用することができなくなりクリーンは困難になります。ケトルベルクリーンにおいては後方に振った時のケトルベルの高さが重要になり、高さが高くなるほどその後の放物運動は大きくなるのでクリーンの動作は容易になります。

筋力
筋肉が一回の収縮で発揮する力と筋肉が繰り返し収縮し続ける能力をさします。ケトルベルスポーツにおいては筋肉が一回の収縮で発揮できる力の大きさも重要になりますが、それ以上に繰り返し筋肉を収縮し続ける能力が大事になります。これら筋力は原則的に筋肉の横断面積の大きさに比例します。

パワー
筋力と筋力の立ち上がり速度の積と定義できます。物体に力が加わると、物体(ケトルベル)は加わった力に比例した加速度を持ちます。よって筋力が高い水準であってもその力を素早く発揮できる能力(筋力の立ち上がり速度)が足りないと効率的にクリーンをすることが困難になります。

空気抵抗
動いている物体は慣性の法則によって等速直線運動を行おうとしますが、この時空気抵抗や摩擦が影響すると慣性の力が弱まります。よって空気抵抗は少ない方が良いです。ケトルベルクリーン時においてはハンドルは矢状面に対して横向きよりも縦向きの方が当然空気抵抗が少ないので原則クリーンは容易になります。

ケトルベルと振り子の原則の関係

クリーンを行う際はケトルベルは主に肩関節を支点として振り子のように遠心力を伴いながら移動します。ただし厳密には身体は完全な振り子ではなく、また支点となる間接も肩だけではないので、完全に振り子の原則が応用できるわけではありませんが、便宜上振り子の原則を元にクリーンの動作を解説します。またこの項目ではダブルクリーンの動作について解説しております。

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ケトルベル挙上時
ケトルベルをクリーンする時、まず前方に持ち挙げようとする前に予備的に後方にスイングします。ケトルベルを身体の後方で保持し、そのケトルベルが停止している時(バックスイング時の最終地点およびフロントスイングの開始地点)ケトルベルは位置エネルギーを持ちます。そのケトルベルが重力によって下に引かれると加速しながら前方に移動します。(運動エネルギーを徐々に増やしながら、位置エネルギーを徐々に減らします。)移動するケトルベルは、ケトルベルが移動する円弧起動上の一番下で最高速となります。そして反対側に移動する時(フロントスイング時)ケトルベルは減速しながら前方に移動します。(運動エネルギーを徐々に減らしながら位置エネルギーを徐々に増やします。)空気抵抗がないとされる場合、ケトルベルはフロントスイングを開始した地点と同じ高さまで移動しそこで一旦停止します。厳密には空気抵抗を排除することは不可能なので、フロントスイングの開始地点よりやや低い高さでケトルベルは運動エネルギーを完全に失います。フロントスイング開始時のケトルベルの高さを高めることで、ケトルベルが遠心力のみで持ち上がる高さも高くなるのでその分クリーンの動作も容易になります。

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前方向に移動するケトルベルは、他に何も力を加えない場合、いずれ運動エネルギーを失い空中で静止します。重力に従って再び徐々に後方に戻ろうとするケトルベルに力を加えてラックポジションの高さまで挙上する必要があります。力を加えることでケトルベルは動きを停止することなくそのまま円弧軌道上を推進することができます。
そのケトルベルの軌道の最終点がラックポジションの位置だと良いのですが、そのままだと振り子の長さ(肩関節からケトルベルの重心までの距離)が変わらないため、ケトルベルは肩を支点にして回転を伴いながら上方向には持ち上がりますがラックポジションの位置にくることはありません。そのため途中で振り子の長さを変え、ケトルベルがラックポジションに近づくようにする必要があります。
ケトルベルに力を加える際に、身体を後方に傾けるようにし、また後方へ跳躍跳びをするように足腰に力を入れます。この時、膝関節、股関節、足関節が同時に伸びます。(足関節を伸ばさないで行う選手もいます。)足腰に力を入れる際に肘を僅かに曲げるようにします。こうすることで効率よく振り子の長さを短くすることができます。
振り子の長さが短くなった後、ケトルベルは今度は主に肘を支点にして回転を伴いながら運動します。この時、遠心力で推進するケトルベルは急に振り子の長さを短くされることによって、急激に加速しながら身体に向かって円運動をします。振り子の長さを十分に短くできない場合、ケトルベルはラックポジションの上方を通過して移動します。その際、ケトルベルは肩にぶつかって運動エネルギーを失った後、重力に従ってラックポジションへと落下する所謂二段モーションの動作になります。二段モーションになってしまわないように注意が必要です。放物運動を行うケトルベルが描く円弧軌道の終点がラックポジションになるようにします。これらのケトルベルが上方に向かって放物運動を行う際、上に向かおうとする力と重力が釣り合いが取れた時にケトルベルは一瞬空中で停止し、その後慣性力を失い落下を始めます。この時ケトルベルは放物運動を続けながら落下します。放物運動をする物体は水平方向には原則、等速直線運動で動きます。一度身体に向かってケトルベルが放物運動をした場合、その後は特に力を加えずとも自然にラックポジションに向かって落下してきます。この時力を加えすぎるとそれもまたケトルベルを肩にぶつける所謂二段モーションの要因になりかねないので注意が必要です。
ケトルベルをクリーンする時はハンドインサーションと呼ばれるケトルベルをラックポジションで持ちやすいようにケトルベルを持ち替える動作が必要になります。この動作はケトルベルが上方に向かって放物運動をしている間に行われます。通常ケトルベルはハンドル部分と比較して球体部分の方が重心が大きいためハンドルは上を向いておりますが、この放物運動の間は僅かに球体部分がハンドル部分よりも上を向きます。この時、手の平にかかるハンドル部と手のひらの摩擦が最小となります。この時にスムーズにハンドインサーションを行うことが大事です。
ハンドインサーションを行った後はすぐにラックポジションでケトルベルを保持できるように準備しておく必要があります。あらかじめ体幹は直立よりもやや後傾気味にしてすぐにラックポジションの姿勢をとれるようにします。このケトルベルを受け止める時の姿勢が直立気味だと、やはりケトルベルが肩にぶつかってからラックポジションに落下するという二段モーションになりやすいので注意が必要です。ハンドインサーションを行う時にはすでにケトルベルはラックポジションへと向かって放物運動を行っているので、ここでは身体は不必要に力を入れているのではなく、ラックポジションの姿勢でケトルベルを受け止める準備をしておきましょう。例えるなら、キャッチボールでボールをキャッチするかのような感覚です。もしくはラックポジションの時と同じ形で待っている腕に向かってケトルベルを放り投げる輪投げのような感覚です。

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