【CHC】雑念を振り払え!~鈴木誠也さんの苦闘戦記~
お疲れ様です、イサシキです。
早いことでもう8月。日々熱戦が繰り広げられる高校野球の傍ら、MLBでも熾烈なディビジョン争い、そしてワイルドカード争いが勃発しています。
シカゴカブスも8月8日終了時点で58勝55敗と3つの貯金を引っ提げて東海岸へと遠征中。現在ナ・リーグ中地区3位ながらも首位ブルワーズとは2.5ゲーム差。ワイルドカードに至っては3枠目の同地区レッズと僅か1ゲーム差を争うなど、短縮シーズンとなった2020年を除けば約4年ぶりのプレーオフ争いに加わっている状態です。
その原動力はAS明けからMLB屈指の攻撃力を誇る野手陣。投手がどれだけ打たれても相手を火だるまにするシリーズとなり、合計46得点を挙げた対レッズ4連戦のおかげもあってか得点力はAS明けのMLBでもダントツトップとなる166得点と驚異のものになりました。
その中心には見事なバウンスバックを果たしたコディ・ベリンジャーやリグレーを救う救世主ことマイク・トークマン、ソリッドに結果を残し続けるダンズビー・スワンソン、ニコ・ホーナー、イアン・ハップらがいますが、たった1人、その輪から外れてしまっている選手がいます。
それこそが今回取り上げる
日本人選手の鈴木誠也です
様々な日本のメディアでも鈴木誠也の不振が取り沙汰されている今こそ、カブスファン目線からの不振の理由や現在の立ち位置、そして今後に向けて何に取り組んでいるかなどを書いても良いかなあと思って今回のnoteをアップロードしました。
現地メディアの情報も出てきますが、都合の良い切り抜きは一切せず、ありのままの情報を提供できたらと考えていますので、是非最後までお付き合いください。
指標だけならオールスタークラスだけど…
今季はオフシーズンに見違えるほどのバンプアップをしてパワーの強化を図り、既に内定していたWBC日本代表での活躍も期待されましたが、ST初戦のBP中に左わき腹に違和感を訴えてそのまま試合出場を見送ると、後に全治1か月を要する中度の左腹斜筋損傷と発覚。ST欠場から3日後の3月1日にWBCを辞退することが発表されました。
勿論開幕もILからのスタートとなりましたが、その後は順調にリハビリを重ね、4月15日のドジャース戦から戦線復帰。その日には今シーズン第1号本塁打をアンドレ・ジャクソンから放ちました。
それでも4月はその本塁打1本のみ。大きなインパクトを残せない月間となりましたが、5月は日本人選手初となるメジャーでの3打席連続本塁打(2試合)を含む.319/.417/.560 OPS.977 5本塁打と好成績を残し、ベリンジャーのIL入りも相まって打線の軸に据えられると誰もが確信していました。
ところが6月に入ると.177/.247/.228 OPS.475と一転して大不振。その後は固め打ちをする日があっても定期的にヒットを放つことができず、最近では別人のようにスイングに迷いが生じており、明確なスランプと言って良いほど状態が落ちてしまっています。
Savantを見てもわかる通り、打球速度や選球眼、走塁守備での貢献度は非常に高いものがありますが、如何せん肝心の成績がなかなか伴わないという非常に苦しい状況だということは推測できます。
先述した通り、現在プレーオフ争いをしているカブスにとって、鈴木誠也のスランプは致命的な痛手になり得ます。しかし現状ではトークマンやTDLで古巣復帰を果たしたジェイマー・キャンデラリオの活躍もあり、鈴木誠也を無理やり出場させながら復調を待つ必要がないため、現在は左投手が先発ではない限り途中出場での機会が増加しています(後述)。
打撃フォームは日々改造
日本時代と比較してもコロコロとフォームを変えることが目立つ鈴木誠也。MLB挑戦から1年半経過した今でも少しづつフォームの改造を行っています。
まずは2022年、MLBでの初ホーマー時のフォーム
続いて同年7月に放った初のランニングホーマーの時のフォーム
そして2022年10月に放ったレッズ戦での1発の時のフォーム
些細なフォームの違いにはなりますが、若干重心の位置が低くなったりトップの位置が下がったり左脚のレッグキックが強くなったり弱くなったり...。ST時には広島時代にも見せたノーステップ打法で本塁打を放つ姿も見られました。
今シーズンだってその工夫は健在。2023年も少しずつフォームを変えており、7月のヤンキース戦では今季パーフェクトゲームを達成したドミンゴ・ヘルマンから泳がされながらもレフトスタンドへと飛び込む本塁打を放っています。
このメカニクスを追い求める姿勢は鈴木誠也の真骨頂とも言うべき特徴でしょう。
ブレイク翌年の2016年から内川聖一(現大分B-リングス所属)と共に自主トレに参加し、打撃を極めたその境地を吸収していった鈴木誠也。
ゆったりとした上半身と力強さとしなやかさを兼ね備えた下半身。そのフォームはどことなく師を想起させるものであるのは、メジャーの舞台でも変わりありません。
しかしそれでも自分にとって最適なメカニクスは何なのかートップの位置は?左肩の使い方は?レッグキックの強弱は?腕の抜き方は?ー
とことん追求し、とことん試行錯誤を繰り返して更なる高みへと打撃を昇華させるその姿はまさに「打撃職人」と言っても過言ではありません。
しかしそれが時として仇になることだってあります。それが今回のスランプにつながっているのではないかとカブス首脳陣は考えているようです。
不振の最大要因は「考えすぎ」?
鈴木誠也の現状について、カブスのデービット・ロス監督は決して「ベンチプレーヤー」という言葉を使わず
と説明していました。この「カブスの勝利に貢献できるもの」だと感じる期間は設けず、短期的にも長期的なものにもなり得るとのニュアンスを感じます。
さらにロス監督は鈴木誠也の現状に対して、打撃のメカニクスを元に戻さないといけないこと、それは鈴木誠也本人もわかっていることを述べた上で、さらに打席内での準備に問題があるのではないかと指摘しています。
鈴木誠也の打撃は非常に緻密で綿密なもの。1つの打席で相手投手の配球を読み、1打席の中で勝負するタイプの選手ですが、MLBでのプレーから1か月経過しないうちから騒がれていた「積極性の欠如」は今季も健在で、初球スイング率は12.5%とナ・リーグで最低値。しかも今シーズン初球打ちでのスタッツは14打数5安打で.357/.438/.571 OPS1.009と優秀な成績を残していることも相まって、尚更槍玉に上がりやすい要素も含んでいます。
積極性の欠如が直接鈴木誠也のスランプに関わっているかはわかりませんが、少なくとも鈴木誠也のファーストピッチストライク率は59.2%。さらに6月中旬時点でHeartと呼ばれるストライクゾーンの中心付近に来た初球のボールを約80%の確率で見逃しているため、昨季同様もう少し積極的に振っても良いのではないかと感じます。というよりスイングとチェイス(見逃し)の関係性にバランスを持つことが大事ではないかと思ってしまいます。
今季からカブスの打撃コーチに就任したダスティン・ケリー氏は、鈴木誠也のスイングに対して太鼓判を押す一方、打席内での配球の読みや取り組んでいるもの、そして打撃のメカニクスに関しても言及していました。
まずは1つのことに集中してほしいというのが首脳陣の本音、といったところでしょうか。
確かに今季の速球系に対するスタッツは悪くなく、特にHardHit%が60を超えていて強い打球を打てていることが証明できるフォーシームとツーシームのxSLG(推定長打率)はともに4部ほど高くなっていることを考えれば、今後鈴木誠也の浮上は速球へのアプローチがキーポイントといっても過言ではなさそうです。
話は戻りますが、ケリー打撃コーチの言っていた
「ただひとつ」
というこの台詞。この言葉こそ、現在の鈴木誠也がいろいろな雑念に振り回されすぎて考え込んでしまっている様子をよく表しているのではないかと思います。
現にロス監督は、現在取り組んでいる打撃のメカニクスを確認することに気を取られて、肝心な投手との勝負に気が向いていないのではないかということを指摘しています。
またケリー打撃コーチは、鈴木誠也のメカニクスに関して「頭の位置」を修正することがカギと捉えているようです。
プレーオフ争いをしているからこそできる「調整」
プレーオフ争いをするカブスにとって、現在調子が悪くて生産性の低い鈴木誠也を起用することは、残念ながら理に叶う判断ではありません。
先述した通り現在のカブス外野陣にはマイク・トークマンが存在していて、AS明けからwRC+167と鈴木誠也よりも100ポイント高い数値を記録している選手を使わないわけにはいきません。ならばカブス首脳陣が鈴木誠也に調整をさせたいと思うのも妥当です。
そしてトークマンを含め、現在好調のキャンデラリオでは来季以降もこのプレーレベルを維持できるかわからないことを考えると、契約期間が残り3年ある鈴木誠也を復調させることに躍起になるのも、これまた妥当ではないでしょうか。
ロス監督も当然その部分についてコメントを残しています。
The Athleticの記事を見る限り、ロス監督をはじめとしてカブスの首脳陣は誰一人として鈴木誠也を見限ることなく復調を待っている様子がうかがえます。鈴木誠也自身もこの期待に応えたい想いもあるでしょうし、いちファンとしても彼の復調がカブスをポストシーズンへと導くラストピースだと考えているので、1日でも早く鈴木誠也の活躍が見られるように願っています。
当の本人は
8月9日に放送されたAbemaプレミアムでのエンゼルス‐ジャイアンツ戦終了後の鈴木誠也独占インタビューにおいても、5月に打撃好調だった理由や自分自身のモットー、守備に対する2年目の工夫などを語っていました。
また日本メディアの取材にも応じており、その中で語られているのは、練習と実戦での感覚乖離やそれを一刻も早く何とかしたいという気持ち、そして結果を出せなければ試合にも出られないという現実を受け入れる姿勢、果ては上手くいかない部分に不安を覚えてネガティブな感情がプレーにも出てしまうことがあったことなど、心身ともに苦労していることがわかるものばかりでした。
こちらはおよそ3週間前、ナショナルズ戦に8-3で勝利した後の鈴木誠也のインタビューです。
この時は自身が取り組んできていることに一貫性を見出せないながらも、キッカケとなるような出来事も増えてきて取り組みそのものに自信を持つことができ始めていました。
ここからは私個人の感想になりますが、鈴木誠也さんは
「非常に向上心の高いプレーヤー」
であることを再認識しました。
現状には満足せず、結果の有無に関わらずさらに良い成績を求めて打撃のメカニクスを研究することや、球場の形状が30通りある中で守備位置の工夫をデータを用いて実践したりと、とにかく現状維持を嫌ってさらに上を目指そうとする姿がとても印象に残りました。
正直広島時代にあまり詳しくないのでなんとも言えないのですが、きっと日本にいた頃から丁寧に、真面目に、懸命にこのような努力をし続けてきたのではないかなあと感じています。
まとめではないけど
8月10日の対メッツ3連戦のフィナーレで、ロス監督が鈴木誠也のスタメン出場が濃厚であることを示唆しました。
相手投手はレフティーのデービット・ピーターソン。今回も対左プラトーン要員としての起用になると思われます。おそらく打順も下位打線でしょう。
それでも試合前の練習などで取り組んできていることをフルタイムで示せるチャンスは数少なく、特にこのシリーズでは2試合で5得点と湿り気味になってきた打線の起爆剤になれる絶好の機会とも言える試合になるでしょう。
日本ではあまり経験してこなかった「少ないチャンスをモノにする」ことを求められている鈴木誠也にとって、明日の試合は大切な一戦となりそうです。
現状では非常に苦しい立場に身を置かされていますが、時折ベンチでチームメイトやコーチと戯れる姿を見て一安心できる場面もあり、決して孤独に闘っているわけではないと思います。
どんなに批判されようが罵詈雑言を浴びようが、私は「カブスの鈴木誠也」を応援しようと思います。
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