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【CHC】レジェンドの意志を受け継ぐ新エース、ここに爆誕

※選手の画像はMarquee Sports Network公式Xより引用。肖像権侵害の意図は一切なく、いかなる利益もその一切を放棄しております。
また、スティールの記録は日本時間9月10日試合前のものを使用しています。

お疲れ様です、イサシキです。

今回は待望の生え抜き左腕エース、ジャスティン・スティールについてのnoteになります。

マーカス・ストローマンの故障、ジェームソン・タイオンやドリュー・スマイリーの不振など先発事情に苦しむカブスにおいて、なぜこの若手左腕が台頭したのかなども交えて、スティールの紹介をしていこうと思います。
最後までお付き合いください!

「誠意は言葉ではなく金額」だった

スティールは1995年7月11日生まれの28歳。ミシシッピ州の出身で、同州のジョージ・カウンディ高校、そしてサザン・ミシシッピ大学への進学を表明していた中、2014年のMLBドラフトでカブスから5巡目指名(全体139位)を受けます。

高校時代にとりわけ大きな功績を挙げたわけでもなく、注目度も高くなかったスティールでしたが、ドラフト指名年の春先にかけて球速がアップしており、成績も伴っていたことから指名候補に浮上。ホワイトソックスやロイヤルズも獲得を検討していた中、その年の1巡目指名(全体4巡目)で獲得したカイル・シュワーバーらをアンダースロットで契約したことにより、5巡目選手としては高額の100万ドルという契約金でカブスに入団することとなりました。

当時スカウト部長を務めていたマット・ドリー氏は直接スティールを視察したわけではなかったそうですが、現地へと派遣した球団職員の働きぶりを相当評価しているため、決してスティールが意中の選手ではなかったものの、指名に対してポジティブな印象を抱いた結果をもたらしたことは間違いなさそうです。

どちらかといえばこの年のカブスは6巡目でTJ手術を受けて評価の下がっていたディラン・シース投手(現ホワイトソックス)に注目しており、潤沢なボーナスプールと指名戦略がガッチリと噛み合った年になりました。なおシースはというと・・・

ツーピッチでもすべてが一級品

スティールの特徴はフォーシームとスライダーのツーピッチという部分でしょう。この2つだけで投球割合は96.6%。その他にはルーキーイヤーに投じていたプラス評価のカーブやチェンジアップ、ツーシームといった球種を投げますが、2球種だけで投球のほとんどを語れてしまうスターターは珍しいと思います。

Savantより

フォーシームの平均球速は91.8MPH(約148キロ)とMLBレベルでは平均以下の速さではあるものの、平均2400回転前後と高品質なレートに加え、2022年ごろからリリース→ボールムーブメントの回転軸が12時~1時方向に集中しており、いわゆる「真っスラ」を投じるようになったことが特徴です。
この球種を今シーズンは右打者に多投(RHB:53.3%)しているだけでなく、インコース、とりわけ膝元と高めに集中させています。

この動画を見ていただくとわかる通り、右打者の胸元に食い込むようなフォーシームです。相当打ちにくいボールでしょう。
基本的にはあまり変化もない綺麗な縦回転のフォーシームを誇るスティールですが、登板試合でおよそ1~4インチ2.5cm~10cmほどスライドしています。2ストライク後やインハイ投球時に変化割合が増加しているわけではないので意図的に投げているわけではなさそうですが、このフォーシームがスティールの躍進を支えていると言っても過言ではありません。

対して左打者に抜群の効力を発揮しているのがもう1つのマネーピッチであるスライダーです。
スティールのスライダーは、昨今MLB界でトレンドとなっている球種の1つ、スイーパーとも似て非なる性質を含んだ球であり

◎79MPH(約128km/h)以上の球速
→平均83MPH(約133km/h)あるため、おおよそクリア

◎25cm(約9.8インチ)以上の横変化
→平均14.3インチの横変化があるため、これもクリア

✕10センチ(約3.9インチ)以下の縦変化
→40.2インチ(約100cm)の縦変化があるので、✕

スイーパーの定義:https://x.com/lancebroz/status/1522988248330551304?s=46

つまり縦方向への変化が大きすぎるためにスイーパー認定されないだけであり、実際には縦にも大きく割れるスイーパーを投げているのと変わりありません

左打者に対して63.9%と高い投球割合を誇るこのスライダー。投球時のエクステンションが6.2インチとやや狭いことを考えると、リリースから打者のミートポイントまでの距離で変化幅を大きくしたい魂胆も透けて見えます。左打者に対するIn Zone%も40.3(2022年は46.3%)ということを考えれば、明らかに対左用のウェポン、つまり三振や打ち損じを誘うための球種であるということはほぼ間違いないでしょう。

ただし昨年までと違うのは、ゾーン内外にデリバリーされるスライダーで性質が異なる可能性があるということです。

というのも、昨季左打者のゾーン内におけるスライダーの空振り率25.5%のに対し、今季は9.1%と大幅な減少を見せています。
ここからどんな打者に対しても空振りを狙うかのようなスライダーではなく、場面に応じてスライダーの変化量を調整しているのではないかと感じています。

Savantより

これは今日行われたダイヤモンドバックス戦での投球。2ストライク時とそれ以外でのスライダー変化量はあまり大きな違いはありませんでしたが、1マイルほど球速は上がり、回転数も30回転ほど多くなっています。
右打者が多かったとはいえ、この日投じたスライダーは全95球中40球(42.1%)と平均よりも約10%多めだったこと、そしてインプレーが起こった9打席で被安打わずか1に抑えたことを考えると、丁寧にShadow~Chase付近(とりわけ右打者には膝元に集めている)を攻めている想像も容易につくでしょう。

また、投球内容に関する昨季との違いで特筆すべきなのは、初球ストライク率の向上でしょう。昨季59.8%→今季64.7%の推移が見られ、プラスしてInZone%も主要2球種でわずかながら向上しているため、一層ストライクスロワーになった印象を見受けられます
当然ゾーン内の投球が増えれば相手打者のSwing%も上がります(47.3%→52.6%)し、インプレーも増加します。昨季よりもBarrel%やLaunch Angleなどの指標は悪化していますが、それ以上に打者の積極的なスイングを促して余計な球数消費を抑制していることにスターターとして大きな価値が見いだせる内容と言えるでしょう。
打者全員から三振を奪おうとするかのように際どいコースばかりを狙ってカウント悪化→四球でランナーを溜めこむ悪循環を繰り返した昨季とは違い、やることをシンプルにしてどんどんストライクを投じてボール球も振ってもらえるようになった今季こそ、スティールの投球の真骨頂が垣間見えている気がします。

また、もとよりグラウンドボーラーであるスティールに対して鉄壁のディフェンスを誇る内野陣(特に二遊間)との相性も良く、BABIPも.307と極端にインプレーが多いわけでもないのでそれもここまでの好投を後押ししてくれている要因かもしれません。

陰ではLesterの教えあり

今や有名な話にもなってきましたが、スティールの活躍にはカブスやレッドソックスなどで活躍したジョン・レスター氏のアドバイスがきっかけになっています。

昨季6月のカージナルス戦において自己最長の7イニングを投げて2失点にまとめた試合。この試合前にロス監督から呼び出されたスティールは、レスターからのアドバイスをロス監督にメールを介して伝えられたそうです。

“One of the main things was establishing the four-seam command down and in to righties on that inner third (of the plate).

要約すると「フォーシームを右打者のインコースに集めなさい」というアドバイス。早速その日のブルペンからレスターの助言を実践し、試合でもフォーシームの投球割合を約70%に上げて右打者から詰まった打球を連発させました。

当然ロス監督も相手打線がフォーシームに順応できていない点を見抜いたバッテリーを褒め称えつつ、この試合のスティールが投じるフォーシームに着眼しており、リリースからストライクゾーンを通過するまでの角度に奥行きが出てきたこと、つまり打者のハードヒットを避けることのできる軌道でフォーシームを扱えていることに対して注目していました。

これによってスライダーとのコンビネーションも成熟し、登板前のERA4.79は最終登板となった8月26日(現地時間)のブルワーズ戦で3.18まで劇的改善を果たし、13試合で5つのQSを記録するイニング消化を果たしてくれました。

レスターの教えを忠実に守るため、事細かにブルペンや試合で精度を上げていく姿や、周囲から何かを吸収して活かそうとする姿はまさにエースそのもの。
オールドルーキーとしてのメジャーデビューから早2年、田舎町で生まれてあまり注目されてこなかった投手は、今やカブスにとって欠かせないピースとなりました。

自身初のPO、そしてCY賞へ

2021年にメジャーデビューをしているスティールにとって、もちろん再建期に突入していたカブスでポストシーズンに出場することは夢のまた夢でした。しかし現在チームはWC争い、あわよくば地区優勝も狙える位置につけており、ここからの闘いが正念場になるでしょう。

ストローマンの肋骨骨折によるスターターとしての今季復帰絶望(アクティベートされてもリリーフの可能性が高い)や、今季加入タイヨンのパフォーマンス乱高下、ベテランスマイリーのローテ落ちなど暗雲立ち込めるスターター陣の中、ヘンドリックスと共にチームを支える投球をし続けてきたスティール。自前の投手がここまでの活躍を披露するのは、かのケリー・ウッド氏やカルロス・ザンブラーノ氏らを擁して強力なローテーションを形成した2003年以来、実に20年ぶりのことです

もしカブスがこのままポストシーズンに進出して、その初戦をスティールが任されたとするのであれば、それはカブスが時間をかけて取り組んできた投手育成プログラムの再建完了を意味することになります。果たしてその瞬間は今シーズンやってくるのでしょうか。

そしてもちろん、自身初のサイヤング賞受賞にも期待がかかります。
もし仮にカブスからサイヤング賞投手が出れば、2015年ジェイク・アリエッタ以来、投票があれば短縮シーズンとなった2020年にサイヤング賞投票2位にランクインしたダルビッシュ有以来となり、左腕で受賞となれば球団初の快挙となります。

https://www.mlb.com/video/a-look-at-the-nl-cy-young-raceより
https://www.sportsbettingdime.com/mlb/cy-young-odds/より

混沌を極めるナ・リーグサイ・ヤング賞レースですが、現在パドレス所属のスネル投手に次いで2番手に位置しているとみて良いでしょう。しかし後を追うギャレン投手(ダイヤモンドバックス)やストライダー投手(ブレーブス)、さらにはイニング数で大きく貢献しているウェブ投手(ジャイアンツ)やウィーラー投手(フィリーズ)まで大逆転での受賞もあり得る範囲だと思います。

スティールは9月10日(日本時間)の試合で7回1失点と好投してERA2.49とメジャーで最も低い数値になり、rWARは4.3まで上がってきています。
おそらくファイナリスト3名には残ると思いますが、ここからスネルをまくるためには残り4試合予定されている登板(ダイヤモンドバックス、パイレーツ、ブレーブス、ブルワーズ)でドミネートピッチを披露する必要があります。
具体的にはイニング数、奪三振に加えて現状1.12あるWHIPを下げるために無駄な四死球や被安打を浴びないという完璧な内容が求められるでしょう。
非常に困難な内容ですが、もし仮にブレーブスやブルワーズといったコンテンダー相手に完璧な投球を披露することができれば評価も一気に上がるでしょう。

https://www.fangraphs.com/leaders/major-league?pos=all&stats=pit&lg=nl&qual=y&type=3&season=2023&month=0&season1=2023&ind=0&sortcol=2&sortdir=desc

また、WPA(Wins Probabillity Added)という、チームの勝利にどれだけ貢献したかを表す指標ではスティールがリーグトップ。ただしここでもスネル投手と大差がないことを考えると、より先述のような投球が求められるでしょう。

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