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【創作】宇宙船ヤマティー

20XX年。
遂にこの日が来た―――。

そびえ立つ宇宙船を前に、真っ白い宇宙服に身を包んだマキシはこみ上げる胸の高鳴りを抑えることができなかった。
我が祖国イッポン国のために。
俺はこの宇宙船ヤマティーで火星へと向かうのだ。

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思えば長い道のりだった。

三年前―――。

アジア東部の小さな島国・イッポン国の若き宇宙飛行士見習いだったマキシは、イッポン国大統領官邸のとある一室に呼び出された。

「マキシ君、急にお呼びだてして申し訳なかったね。まあ、掛けてくれたまえ。」

緊張の面持ちで待つマキシの前に、仕立てのいいスーツに身を包んだ大統領が姿を現した。大統領は作り笑顔を消し、声を落として言った。

「国民にはまだ発表できないが……。これから話すことは国家機密だ。決して口外しないでいただきたい。実は我が国は地球温暖化により、徐々に海に沈みつつあるのだ。このままでは我が民族が滅ぶのを待つしかない。それだけは何としてでも食い止めなければ……。」

マキシは絶句した。我が祖国・イッポン国が沈没寸前とは。

「さらに、世界的な食糧危機、未知の病の流行、災害、核戦争の可能性……。今、地球は瀕死の状況にあると言って差し支えない。マキシ君、この一年、我々は君の宇宙飛行士としての能力をテストしていたのだよ。君の能力は素晴らしい。君は宇宙飛行士になるために生まれてきたような人間だ。」

大統領の言葉の意味を測りかね、マキシは戸惑うばかりだった。

「大統領、お言葉光栄ですが……。そんなに深刻な状況なのでしょうか?」
「もう一刻の猶予もならない。この事態が発覚してから、我々は火星移住計画を秘密裏に進めている。」
「火星移住計画ですって!?」
「急がねばならない。他の国に先に行かれては領有権を主張できなくなるのだ。」

あまりの事の重大さにマキシは呆然となった。大統領はいったい自分に何をさせるつもりなのだろう。

「マキシ君、君に見せたいものがある。」

マキシは言われるままに、大統領について地下へ続く迷路のような通路を進んだ。突き当りの巨大な地下室に、宇宙船と思しき乗り物が現れた。

「これは……!」
「驚いたかね。宇宙船ヤマティーだよ。我が国の最新技術で製作した火星移住船だ。100人乗ってもだいじょーぶ。しばらくの間火星で暮らせる機能も備わっている。これでまず選出された97名の移住者を火星まで輸送するのだ。マキシ君、君には宇宙船ヤマティーのキャプテンになっていただきたい。」


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轟音と共に発射された宇宙船ヤマティーは、順調に大気圏を突破すると、無重力状態に突入して安定飛行を始めた。97名の乗客も無事だ。
宇宙船ヤマティーのモニターに、IKSS(イッポン国宇宙ステーション)の職員たちの喜びに沸く姿が映し出される。
モニターから、大統領がマキシに笑顔で呼びかけた。

「マキシ君、大気圏突破おめでとう。これで一安心だ。火星まで長い旅になるが、よろしく頼む。」

マキシはほっと一息つくと、宇宙に浮かぶ地球を見やった。
地球は青く美しかった。
こんなに美しい地球が瀕死の状態にあるなどとは、とても信じられない。
自分は再び地球に戻ることができるのだろうか……。
小さくなっていく美しい星を見つめるマキシの目に、大粒の涙が光った。


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宇宙船ヤマティーはその後も順調な飛行を続け、IKSSと通信を重ねながら火星へと向かっていた。

その日、マキシがモニター画面の大統領に朝の挨拶をしようとした瞬間、異様な轟音がして、宇宙空間に見たこともないような閃光が走った。
モニターから凄まじい悲鳴、叫び声があがる。

「大統領!? 大統領、どうしたんですか!?」

モニター画面はガタガタと大きく揺れ、強烈な光に覆われている。
逃げ惑うIKSSの職員たちの姿が映り、大統領がカメラに向かって絶叫した。

「マ、マキシ君、もう地球はおしまいだ――――!!せめて、せめて君たちだけでも無事に火星に到着することを祈る――――」

モニター画面の映像はそこでぷっつりと途絶えた。
マキシが外を見ると、地球方向の宇宙空間に巨大な裂け目が生じ、そこから強烈な光が漏れていた。

「信じられない…………」

やがて宇宙の裂け目は閉じられた。


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どれくらい時間がたったのだろう、火星に向かって飛び続ける宇宙船ヤマティーのモニター映像が復活した。
真っ白な空間に、何やら金属製の道具のようなものが置かれている。
画面の端には人の足らしきものも見える。
音声も徐々に復活してきた。



「…………てよかったな。……良性だと思って様子を見ていたが、とんだ悪性だった。手術して正解だったよ。放っておいたら転移するところだった。」

マキシは見た。

金属製のトレーの上にコトンという音とともに置かれたのは、紛れもなくあの美しい地球だった。






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