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斜陽の業界でも「生き残りのヒント」はきっと見つかる

僕は印刷会社の息子として生まれました。

印刷業界はご存知のとおり、いわゆる「斜陽産業」です。

2000年ごろをピークに印刷の市場はどんどん減っていき、今ではピークの約半分というところまで落ち込んでいます。

そんな状況で、上の世代はギリギリ逃げ切れるのかもしれません。

しかし、僕らには長い未来があるのです。このままだと本当に食えなくなってしまう。なんとか印刷機を動かさなければいけない。

僕はこの20年、下降トレンドに抗いながら、なんとか売上を伸ばそうと奮闘してきました。

そこで活路を見出したのが「社内報」でした。

社内報は「オワコン」なんかじゃない

社内報は「オワコン(終わったコンテンツ)」と言われることがあります。

しかし僕が感じたのは完全に「成長産業の風」だったのです。

僕はそれこそずっとシュリンクし続ける印刷という業界にいました。斜陽産業の空気をずっと感じていたので、逆に少しでも伸びそうなマーケットの風は肌で敏感に感じるのです。

印刷の営業をしていると「なにかお困りのことないですか?」と言っても「うーん、今はないかな」というケースが増えてきていました。

でも、いざ社内報の事業を始めてみると、すごく求められることに気づいたのです。

たしかに社内報なんて昔からあるものです。なんら目新しいものではありません。でも今の時代、一周まわって「古くて新しい成長産業」になりうるのではないか、という直感が僕にはありました。

その一部始終については、 以前のnoteにも書きましたが、今回はあらためて「なぜ社内報に活路を見出したのか?」についてお話ししたいと思います。

同じように斜陽の業界で苦しんでいる方々が「生き残りのヒント」を見つけるきっかけになればと思っています。

業界ではなく、時代に目を向けてみる

7年ほど前のことです。

僕は会社を継ぐものとして、売上が落ちていくなか、なんとか活路を見いださなければいけませんでした。

しかしいくら営業のみんながクライアントを回っても「お願いすることはないね」と言われるばかり。「なんでもやりますよ」と食い下がっても「今月は特にないかな」と言われてしまいます。

印刷業界を見渡しても、景気のいい話は聞こえてきませんでした。インターネットがどんどん普及していくなか、これまで紙だったものが日に日にデジタルに置き換わっていきます。会社案内も、カタログも、パンフレットも……。

そうは言っても、なんとかしなければいけない。とはいえ、どんなに営業を強化しても、業界を見渡しても、なにもいいアイデアは浮かんできませんでした。

そこで、ひとつ深呼吸をして、世の中をぐるりと見渡してみたのです。

社会の変化、会社の変化

印刷業界と同じように、社会も変わり続けていました。

企業に目を向けると「終身雇用」や「年功序列」が機能しなくなりつつありました。一方で、勢いのあるベンチャーが雨後のたけのこのようにどんどん生まれていました。

そして、大手企業からは「求心力」が失われていきました。

優秀な人材がひとつの会社に長く留まることがあたりまえではなくなっていったのです。ずっと同じ会社にいるインセンティブがない。

社員にとっては「いい会社に入って終身雇用の中で守られる」よりも「若いときから自分を鍛えて、スキルや経験を積んでいく」ことのほうが魅力的だと思われるようになったのです。

これに大手企業は困っていました。

ベンチャーに人材をとられるし、せっかく採用した優秀な人材も辞めていく……。「働きやすさ」はあるのだけれど「働きがい」がない。大手企業はいつしかそう言われるようになっていきました。

社員とのコミュニケーションツールが求められている

大手企業は優秀な若い人材をとりたい。一方で勢いのあるベンチャーと競わなきゃいけない。採用した社員を辞めさせたくない。

おまけに、これだけ変化が激しい時代のなかで、新しいこともやっていかなければいけません。意思決定を現場が受け入れて、きちっと動いてくれなければいけない。

でも、企業の求心力は落ちているわけです。

「右向け右」といえば右を向いてくれる時代でもありません。「右向け右」と言っても「なんでですか?」と聞かれてしまうような時代です。

そんななかで「どうやって会社の方向性・ビジョンを社員と共有するのか」が、すごく大切な問題になってきていました。

社会がどんどん変わっていくなかで、会社と社員の関係性も変わってきている。「会社と社員とのコミュニケーション」をもう一度つくりなおさないといけない。2014年、15年あたりから、そういう話をいろんなところで聞くようになりました。

ただ、企業は「正直、なにをやっていいかわからない」という状態でした。

なにをやっていいかわからないから「モチベーション診断」のようなものに頼る企業もたくさんありました。社員の気持ちをデータで可視化したくなるのでしょうか。

もちろん、それも価値がないわけではないと思うのですが、データに社員の状況がすべて表れるわけではありません。それに「データを見たうえで、じゃあどうするか」ということが本来は大切です。

「社内のコミュニケーションって、どうしたらいいんだっけ……?」

ただの「かわら版」が「戦略ツール」に変わった

そこで僕が目をつけたのが「社内報」でした。

誰にも期待されていない社内報。しかし社内報は、特に大きな企業にとっては、全社員とコミュニケーションをとるためのほぼ唯一のツールです。

社内報の事業を広めるとき、僕はこうお伝えするようになりました。

「御社にはすでに社内報がありますよね? まずはその社内報をきちんとリニューアルして、社員にメッセージを届けましょう」

すると多くの方に「たしかにそうですね」と仰っていただきました。

社内報をただの「かわら版」から「戦略ツール」に変える。これまで、どちらかというと「コスト」だった社内報を、戦略的に「投資」していくものに変えていく。

これまで多くの社内報は「発行すること」が目的になっていました。でも、社内報は「社員全員にリーチができ、かつプッシュ型で、きちんと社員一人ひとりの手元まで届く」というほとんど唯一のメディアなのです。その強力な武器を使わない手はありません。

現代において、社内報は「経営側の戦略ツール」になりうるのです。

かつて社内報はどちらかというと「社員が求めるもの」でした。「経営の状況はどうなっているのか?」「社長はどんなメッセージを出しているのか?」……新卒で入った会社を定年まで勤め上げることが前提の時代では、会社の動向を社員側が気にしていたのです。

時代は変わり、社員は会社に興味を持たなくなりました。それよりも自分の生活、キャリアのほうが大切です。

一方で企業側には、積極的に社員とコミュニケーションをとる必要性が出てきました。きちんとメッセージを発信し続け、社員の心をひきつけ、つなぎとめていく必要性が増してきた。

いま社内報は、経営層・会社側が必要とするようになっているのです。

社内報を出すこと自体がメッセージになる

社内報の必要性を確信したのは、JALさんのお手伝いをしたときでした。

それはちょうどJALさんの経営が行き詰まり、再生していくタイミングでした。京セラの稲盛さんがトップになる前に「JAL再生タスクフォース」というものが組まれました。

当然ながら、経費はなるべく削減する必要がありました。社内報だってすぐに削減対象になったはずです。

しかし稲盛さんは、社員との対話をすごく重視する人でした。

JALの再生にあたり稲盛さんは「コンパ」という独特な手法で社員と対話をしていきました。いわゆる「飲み会」です。会社のトップが社員と膝をつきあわせて話し合う。それでも途中で社員が稲盛さんを置いて帰ってしまうといったこともあったそうです。

ちょっとずつ、ちょっとずつ、気持ちをすり合わせていきました。

ただ、それでも限界はありました。

部門長以上とはフェイストゥフェイスで対話ができていても、社員はそれこそ1万人以上います。当然、全国の空港にも社員はいますし、全員とは直接話せるわけがありません。

そこで「社内報を出そう」という判断になったのです。

モノクロでもいいから、毎月毎月「JALフィロソフィー」という稲盛さんの思いや哲学を編集して載せていこう、ということになりました。

稲盛さんはいつでも経費削減を理由に社内報を止めることはできたでしょう。でも、出し続けた。

社員とのコミュニケーションを大切にする稲盛さんが経営者でなければ、おそらく社内報はなくなっていたのではないでしょうか。

僕が思うに、社内報は「発行すること自体に意味がある」と思うのです。

もちろん中身も大切なのですが「会社側がメッセージを出し続ける」ということが「メッセージ」になる。「うちの会社はちゃんと対話をしようとしてくれているんだ」というメッセージになるのです。

JALさんのケースでも、そのメッセージは社員に少しずつ少しずつ浸透していったはずです。そこで社員の気持ちは徐々にひとつになっていった。

本気の思いで出している社内報にはパワーが宿ります。

会社のそのまんまの思いが社内報には表れます。お金をかけているかどうかじゃない。カッコいいデザインかどうかでもない。

今っぽいクールな社内報はすぐにできるのですが、「パワーがある社内報」「社員に必要とされる社内報」というものは一朝一夕にはできないですし、社員と一緒に育てていくものだ、と思うのです。

あのときのJALさんの社内報にはそんなパワーがありました。

モノクロだけれど、別にカッコいいものではないけれど、そこにはたしかにパワーがありました。

紙でなければいけないもの

ここでひとつ、疑問が浮かぶかもしれません。

「社員とコミュニケーションをとるだけなら、メールだって、SNSだって、なんでもあるじゃないか?」と。

しかし社内報には「紙でないといけない」理由があります。デジタルだと困る人たちが出てくるからです。

社内報を発行している企業の多くは、製造業や小売業の大企業です。

何千人、何万人と雇用をしているような大きな会社は、全従業員にパソコンなどのデジタルデバイスが行き渡っているわけではありません。

工場のラインの人や、店頭で働いているような人は、デジタルデバイスが配られていない。そういう人たち一人ひとりにきちんと情報を届けるためには、やはり「紙」が必要なのです。

特に上場企業は、ガバナンスの観点からも「情報の均一性」や「正確性」「公平性」を重視します。そんななか全員に情報を伝える手段は、紙が現時点ではベストアンサーというわけです。

しかも紙なら「起動は0秒」です。

よく社内報をPDFにして、メールに添付して送付している会社もありますが、やはりそれだと開封率は高くありません。

紙であれば、ある意味「半強制的に」伝えることができる。「既にそこにある」わけなので、ちょっとした休憩時間にでも何気なく見てもらえます。

自らの強み✕広がっていくマーケット

業界がシュリンクしていくなかで「どうしたものか……」と下を向いていても始まりません。

そんなときは目線を上げ、世界を見渡してみるのです。すると、わずかながらも「広がるマーケットの風」を感じることができるかもしれません。

当然ながら、自分たちの「強み」を見つけ、それを磨き続けることも大切でしょう。

ただ、それと同時に「時代の流れ」にも目をやる。そして広がっていく可能性のあるマーケットを見つける。

斜陽のなかでも生き残るためには、広がっていくマーケットの風を感じ、「自分たちの強み」によって扉を開け続けていくことじゃないか? そう思うわけです。

「社内報」という言葉の響きはすごく昭和的です。古臭い。

でも冒頭で申し上げたように、現代において「社内報」は輝きを取り戻すと思っています。

社内報はただ健康診断の日程を伝えるだけの紙ではない。会社がきちんとメッセージを届け、優秀な社員にやりがいを持って働いてもらえるような戦略的な「武器」になるはずなのです。

これまで見向きもされなかったもの、無視されていたようなものが、時代の変化とともに輝き始めることがある。社会の変化によって、これまであったものの「立ち位置」も変わっていきます。そこに起死回生のヒントは隠れているような気がします。

僕自身、まだまだ挑戦者です。ものすごく成功しているというわけではありません。

なので、偉そうに聞こえたら申し訳ないのですが、斜陽で苦しんでいる業界の中でも、きっとやれることはあるはず。僭越ながら、少しでも同じように挑戦している人へのエールになればうれしく思います。

崖っぷちだった会社を立て直すもうひとつの要だった「コストカット」については、こちらのnoteにまとめています。


こんにちは。最後までお読み頂きましてありがとうございます。このnoteは僕のつたない経営や、インナーブランディングを行う中でのつまづきや失敗からの学びです。少しでも何か皆様のお役に立てたら嬉しいです。サポートはより良い会社づくりのための社員に配るお菓子代に使わせていただきます!