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「正確さが命」の印刷会社がたどり着いた、ミスを減らす4つの方法

印刷の仕事はミスが許されません。

ウェブの記事などの場合は、誤植を見つけたらすぐに修正できます。でも、紙の印刷はそうはいかない。発送したあとに誤植が見つかったりしたら、もう冷や汗ものです。

僕らは創業以来、ずっと「なんとかミスをゼロにしよう」としてきました。「なんでミスしたんだ」と、社員をひどく責めていたこともあります。

しかし、創業50年以上が経ったいま、それは正しいクオリティ管理の方法ではなかったと気づきました。今回は、僕らが試行錯誤の末にたどり着いた、ミスを管理する方法についてお話しします。

①エラーした人を責めない

いまの僕らは、ミスを起こしてしまった人を責めません。

野球チームにたとえて考えるとシンプルです。みんなで毎日、一生懸命に練習してきて、本番で仲間がエラーしてしまった。そのとき「お前、なんでエラーするんだよ」なんて言いませんよね。そんなことをしたら、チームは崩れてしまうから。

それなのに、仕事となると「お前、なにミスしてるんだ」という話になりがちです。

そもそも「ミスをしたい」なんて、誰も思っていない。ほとんどのミスは「うっかり」とか「そもそも思い違いをしていた」みたいなことが原因です。それはもう「しょうがない」ことだと僕は思っています。

誰かのエラーは、みんなでカバーするもの。メンバーを責めても、なにもいいことはありません。

②チェック回数は増やさない

それから「チェックの回数を増やす」のもやめました。

ありがちなのが、誤植などのミスがあるたびに「これからは二重チェックします」「三重にチェックします」と、どんどんチェックの回数が増えていくこと。

僕はこれをいっさい認めていません。

確認を増やせば増やすほど、1人ひとりの集中力は落ちます。「あの人も確認してるし、大丈夫だろう」とみんなが思ってしまうからです。

そこに無限に時間と人員を費やすのは、ただの「コスト」でしかない。スタッフが疲弊し、意識が下げるだけです。

それよりも大切なのは、会社にとってベストなルールがあり、それが徹底されていること。

うちでは、会社の規模、コスト、時間など、いろんなものを勘案したときに、ベストだと思うチェック体制を敷いています。

ルールを徹底し、その通りにやってでたミスなら、最後の責任は経営者が背負うべきです。

ミスが多発していたら改善すべきですが、僕らのいまのオペレーションであれば、ミスはかなり少なくなっています。その先で起きてしまったミスは、もう仕方のない「経営上のリスク」だと認識しているのです。

③対応は対策に勝る

ここまで読んで「それじゃ、ミスはゼロになってないじゃないか」と思う人もいるかもしれません。

たしかにそうなんです。僕らが出した結論は「ミスは起きてはいけないが、完全にゼロにすることも不可能だ」ということ。人が介在している以上、リスクはゼロにはならないのです。

まずは、その事実を受け入れる。

そのうえで考えるべきは「ミスをできる限り少なくすること」、そして「出てしまったミスをリカバーすること」です。

僕はスタッフに「対応は対策に勝る」と伝えています。

ミスが起こったとき、ふつうは再発防止の「対策」を徹底するほうに力を入れるかもしれません。しかし、僕らのようなビジネスにおいて、大事なのは「対策」よりも、ミスの直後にどう「対応」したかです。

お客様が見ているのは「どうリカバーしたか」であって、その後の対策ではないからです。そもそも対応のできない企業に、その後の対策を実行するチャンスはきません。

じゃあ、どう対応すればいいのかというと「とんでいって謝る」ことです。

とんでいって、1秒でも早く謝る。もちろん「謝らなくていいから、どうするのかを教えて」という人もいるので、そこはお客さんに合った対応をします。

とにかく、対策よりもまず対応。そして対応は「スピード」が命なのです。

クレームをトラブルにするな

大切なのは、クレームをトラブルにしないこと。

お叱りを受けた段階では、まだトラブルにはなっていません。とんでいって謝ったら、そこで許してもらえる。

でも、こちらの対応がマズいと、クレームからトラブルに発展します。「お前じゃラチあかないから、上のヤツ呼んでこい」という話になってしまうんです。

僕の経験だと、プロダクトのミスでは、あまりトラブルになりません。「文字が間違っていた」「色が悪い」みたいなことはありますし、損金が出ることもあります。でも、それがトラブルに発展することは少ないんです。

なぜかというと、故意じゃないからです。

どんな場合でも、最終的に「故意じゃない」ミスは、なんとか取り返すことができます。スタッフが一生懸命にとりくんでいる現場を、お客様もみているので。「次は気をつけてくださいね」で終わることが多いんです。

トラブルの多くは、営業の段階からの「小さな失点」が積み重なって起こります。

「見積もりください」と言っているのに、全然こない。請求書の金額がまちがってる。そんな小さな失点が続いていたときに、たまたま製造側でミスがあって納品されてしまう。

それはもう「わざとじゃないし、気をつけてくださいね」ではすまないのです。

④ミスは頻度で見る

そこで考えるべきは「ミスの頻度」をいかに少なくするか。

うちでは、ミスを「大きさ」ではなく「頻度」で管理しています。

「100万円の損失がでる、大きいミス1回」よりも「2、3万円の損失がでる、小さなミス10回」のほうを問題視する。

すぐに損失が出るわけではなくても「時間に2、3分遅れる」「締切をズルズル引き伸ばす」みたいなことを問題視しています。

大きなミスだとしても、それが数年に1回であれば「気をつけてくださいね」で済みます。「故意じゃない」で通用する。でも毎月ミスがあれば「お前らいいかげんにしろよ」となるわけです。

ミスの頻度を管理することが、クオリティコントロールになると思っています。

最後の責任は経営者がとる

ちなみに僕は、チェックにはいっさい介入しません。

すべての制作物を社長がチェックするような会社もあります。僕も昔は、さんざん確認していました。

でも不思議なことに、ていねいに確認して「絶対大丈夫だ」と思っても、刷り上がったとたんにミスが見つかることってあるんです。「どんだけ見ても、やっぱりミスは出ちゃうよな」と、経験的に思うようになりました。

刷り直しとなると、損金はヘタしたら100万円近くになることもあります。「どうやって責任とるつもりだ」なんていったって、いち社員レベルではどうしようもありません。

エラーした人を責めない。チェック回数は増やさない。対応は対策に勝る。ミスは頻度で見る。

このルールが徹底されていて、きちんとオペレーションどおりにやっていたなら、そこからはみ出した残存リスクは経営者が背負っていくものです。

健全な組織をつくる

最後にひとつだけ、いちばん大切なことがあります。

これまでの4つの方法は、みんなが一生懸命に努力して「絶対試合に勝とう」と思っていて、初めて成立することばかりです。大前提として「ミスを出してもいい」と思っている人がひとりもいない。そういう組織運営をしていなければいけません。

ミスの責任を追求しないのは、ミスした人がいちばん責任を感じているはずだから。

ミスが起きると、周りの仲間はそれをリカバーするために動きます。ミスした人はそれを見て、余計に「申し訳ない」「みんなに迷惑をかけたくない」「もう二度と失敗したくない」と思うでしょう。

みんな一生懸命だから、ミスをした人にも優しくなれるし、ミスへの意識もより高まる。

これは、けっこう高度な組織運営だと思います。

ミスを責めないことで、社員が「あ、ミスしても許されるんだ」と思ってしまったら、一気に低次元な組織になってしまうでしょう。「べつにミスってもいいよね」と、意識が下がっていく。

だからミスに対する考え方は、しつこいぐらい何度も伝えています。年に1回は全社員に話しますし、こうやってブログに書いたりもします。

ルールを守ることはもちろん大切ですが、その土台にはやはり「健全な組織」が必要なのです。


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