キミがいたから

2004年、11月だったろうか。いずれにしても当時は季節の変わり目で、風邪とインフルエンザが急に流行していて、学級閉鎖もちらほら出ていた。

その日、昼休みの音楽室には
私と富岡先生しかいなかった。

合唱部の部員や有志のメンバーの在籍学級も
いくつか閉鎖になっていたり、そうでなくても
罹って休んでいる部員も沢山いたのだ。

その日は、富岡先生と合唱をした。富岡先生が
伴奏しながら歌って、私が富岡先生とは違う
パートを歌って…
女子パートと男子パートを交代しながら歌った。
「普段、こんなに高い女子パート歌ってるのか?」
「いや、先生はこのくらいの音出てなきゃダメでしょw
だいたい先生の曲の男子パート、高い音結構ありますよw」
振り返ってみると、富岡先生と2人きりで歌う機会は多くなかったかも知れない。

病気が流行ってこんな事態になっているのだから、少し寂しい気持ちもしていた。

ふと、富岡先生が語りかける。
「歌は好きか?」
「はい!」
「合唱は好きか?」
「はい!どうしたんですか?急に…」
「来年もNコンに出たいか?」
「……! はい!もちろんです!」

「…有志にキミを誘ったとき、
キミが合唱を心から楽しんでいるのが分かったよ。
初めは、純粋に"キミに歌を楽しんで欲しい"って
思って有志に誘って、その通りになってくれた。
だから、実は合唱部のNコンへの出場を目的に、
M部長が男子達を勧誘することを、初め俺はよく
思わなかったんだ。
目的のために、人を利用するように感じられて。
だから、M部長には男子達を勧誘するなら"俺たち、利用された"って恨まれる覚悟をしてにからにしろって言ったんだよ。」

「それに、合唱部も有志男声合唱団のメンバーも、コンクールに、ましてNコンに出場さえしなければ、誰かに採点されることだってなくて、細かいポイントを気にせずに、のびのびと毎日歌うことを楽しめていたはずだから。」

「でも、キミ達は本気で立ち向かってくれた。Nコンの舞台で出し切ってくれたキミ達に本当に感動したよ。勝ち上がれはしなかったけど、結成半年もしない部員達であれほどの合唱を作れるなんて始めは想像できなかった。よく成長したと思うよ。この成長は、M部長の夢と、キミの決意なしには成し遂げられなかったこと。だからこそ…
キミを、次期部長に任命するよ。」
「…!」

なんだろう。すごいことになった気がした。
部長だからといって、部の顔というだけで、
特段特別扱いなんてないはずなんだけど、
富岡先生にひいきしてもらったような気がした。

「そうだ!渡したいものがあるから、
放課後は早めに音楽室に来れるか?
少ないけど女子たちもくるはずだから
それより前に渡したいんだ。」

「? はい…」

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